第11話
「お前の推しも大丈夫って言ったんだろ?」
「まあなぁ……」
でもあの感じはどこか信用ならんのよな。いや推しを信じていないわけではないけど、やはり不安であることに変わりは無い。
「なら大丈夫だろ」
と軽く笑う遥。そんな彼に俺は無言で睨むのだった。防御力下がっちまえ。
「それにしても、女神様か」
突然、遥は懐かしむような声を出した。
「なんだ、知り合いなのか?」
「いや当代とは関わりねえよ。ただ、先代とな。少しだけ縁がある」
そういえば、昔にも女神様と呼ばれる存在が居たと誠吾から聞いたことがある。
アイツの情報源がどこなのか、どうやって入手しているのか気になるところだが、今度聞いてみることにしよう。
「関わりがあるってことは、遥の同級生?」
「んや、一個上だ」
俺達の歳の差は五歳。ということは、六つ上の代に居たということか。
言い忘れていたが、遥も青南出身だ。
「お前らの女神様はなんて呼ばれてる?」
「女神様だけど……」
彼の問の意図が掴めず、小首を傾げる。
「その前に二つ名的なのがあんだろ。ナントカの女神様って感じで」
遥は俺の様子を見て、苦笑した。
女神様にはそんなものがあるのか。にしても恥ずかしい名を付けるものだ。
「ちょっと分かんねえわ。聞いてみる」
創造神話に出てくる女神様のような慈愛に溢れているから、という由来は聞いたのだが、女神様だけでは無かったのか。
「ちょっといいか?」
『おう。お前からは珍しいな』
スマホを取りだして、誠吾に電話をかける。すると数コールで奴の声が画面から聞こえてきた。
土曜日だってのに、暇なのかコイツは。
「女神様って、正式にはなんて言うの?」
『どういうこと?』
「かくかくしかじかってことなんだけど」
なんと言えばいいのか分からず、便利な言葉を使う。今の子達この言葉知ってんのかな。
『ああ、「御伽」の女神様だよ』
「御伽?」
『そう。よくあるだろ、おとぎ話ってやつ。それのことだよ』
なるほど、おとぎ話か。
「なんで御伽なんだ?」
『あー、おとぎ話ってさ、幻想的な話が多いじゃん? そんで、女神様がそのおとぎ話の世界から来たような雰囲気があるから、そんな名前が付いたんだよ』
などと誠吾は解説してくれるが、俺は彼女からそんな雰囲気を感じたことがない。
俺には見えないけど、みんなからはそう見えているのか。知らなかった。
「おっけー。助かった」
『にしてもどうしたんだ? やっぱおま──』
誠吾がだるそうなことを言う前に問答無用で通話を切る。それからため息をついて、無言で作業を続けていた遥を見る。
「御伽の女神、だってよ」
「ほう、そりゃまた大層な名前だな」
「俺もそう思う」
ウチの連中は厨二病の集まりか、はたまた羞恥心を捨ててきた奴らなのか。こんな恥ずかしい名前を付ける神経が分からない。
清水さんがその名を嫌うのも頷ける。
「そっちの女神様は何て言われてたんだ?」
と俺が訊くと、遥は懐かしそうに棚に置いてある額縁を眺めた。
「『
「なんでまたそんな名前が?」
「名の通りさ。我儘なんだよ。あの人は」
女神サマがわがまま。当代の女神様を見ている俺には想像が出来ないな。
「女神って、創造神話の慈愛の女神から付けられたものじゃねえの?」
「ああ。だから最初は女神なんてついてなかったんだよ」
最初は付いていなかった。……ということは何かの理由があって女神へとなったということだろうか。
「最初は女王様って呼ばれていた。ただ、いつかの事件であの人は女神様になったんだ」
女王様が女神様に。多分、何か善い事をしたのだろう。そうでなければそんな名にはならないだろう。
「教えてくれよ。女王様について」
楽しかった記憶を思い返しているような顔をする彼を見ていて、その人に興味が湧いてきた。
彼は微笑みながら頷いて、棚から額縁を優しく持ち上げる。
遥に近づいてその額縁を覗くと、そこには遥が数人と笑っている写真があった。
「学生のとき?」
「ああ、若いだろ」
「今も若いだろうが」
俺と五歳しか変わらないのだ。世間一般で見れば全然若者になる。
「アクターズ、って知ってるか?」
「なんそれ」
何かの集団なのだろうが、聞いたことはない。ただ、話の流れ的に女王様が関係していることなのだろう。
「そうか、もう無いもんな」
俺の顔を見た遥は悲しそうな表情をした。
「なんなんだ?アクターズって」
「部活だよ。昔青南にあったんだ」
それから、遥は語り始めた。五年前の青南に居た女神様について。
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