第16話 もう一つの幼馴染

「「ええっ!?」」


 クレストさんが語った衝撃の事実に、私とルーブルさんの声が重なる。


「それで……ドノヴァンからラケシスの話を聞いた時、俺と似てるなって思って。といっても、俺は単に家格の違いによって虐げられていただけで、君みたいに進んでアリーシャの世話をやいていたわけじゃないけどな」


 力なく笑うクレストさんは、なんだかとても辛そうで。私は彼の表情に、ぎゅっと胸を締めつけられるような気がした。


「俺はずっと……昔からアリーシャの良いように使われていて、なんとか逃げ出したいと思っていた。アイツの下僕のような生活から、抜け出したいと思っていたんだ。そんな時学園でアリーシャがドノヴァンを見初めて、付き合いたいと言い出した。俺はチャンスだと思ったね。面倒な幼馴染を押し付ける絶好のチャンスだと」


 ドノヴァンに好かれたくて尽くしていた私と、クレストさんは真逆の気持ちでアリーシャさんに尽くしていたんだ。ううん、尽くすことを強制されていた分、きっと彼の方が何倍も辛かったでしょうね。


 幼い頃から家格の違いのせいで虐げられてきたなんて、どれだけ理不尽な思いをしてきたのだろうか。クレストさんは、恐らく私なんかじゃ想像もつかないほどの思いをしながら、今まで過ごしてきたんだろうな。


 そんな彼はあのベンチで、一体どんな気持ちで私に対するドノヴァンの話を聞いていたのだろう?


 内心でははらわたが煮えくり返るような思いを味わいながら、何でもない風を装って、隣で笑っていたのかもしれない。


 だとすると、とても強い人だ。


 クレストさんの気持ちを思い、胸が痛くなる。自分のことのように、切なく感じた。


 けれど──。


「やめてくれ。俺は君にそんな風に同情してもらえるような奴じゃない。自分がアリーシャから逃げ出したいがために、君を傷付けた最低の男だ」


 泣き笑いの表情でそう言うと、クレストさんは、これまでの自分の行いについて事細かに話してくれた。


 アリーシャさんとドノヴァンを付き合わせるために、私の存在が邪魔だと思ったこと。そのため、態とドノヴァンをあのベンチへと誘い、幼馴染に対する本音を引き出していたこと。それによって私が傷付き、ドノヴァンに愛想を尽かすよう企んだこと。アリーシャさんとドノヴァンについての噂話をばら撒き、二人を公認にして、強制的に付き合うように仕向けたことなど──。


「だけど最後の最後でドノヴァンの奴が血迷って、君のことを好きだと言い出した時には焦ったよ。ドノヴァンと君について話しているうちに、俺だけじゃない、できれば君も理不尽な幼馴染から救ってあげなければ、と思うようになっていたから」

「それであの日、僕を脅してラケシスさんを無理矢理あそこに行かせたんですね?」


 なんと、ルーブルさんを脅したのはクレストさんだったのか。


 そういえばあの時、私はルーブルさんに呼び出された筈なのに、当の本人はまったく姿を現さなかった。


 色んなことがありすぎて忘れてたけど、それっておかしいわよね。


「まぁまぁ良いじゃないか。お陰でラケシスはドノヴァンから逃れられたし、君だってチャンスが巡ってくることになったんだから」

「ちょ、ちょっと! 余計なこと言わないで下さいよ!」


 何故だか慌てるルーブルさん。


「ああ、ごめんごめん。けど二人とも気を付けろよ? アリーシャから逃げ出したくなったドノヴァンが、ラケシスの元へ逃げてくるかもしれないから」


 なんですって!?


「そ、それはどういう……」

「言葉通りの意味さ。さっき俺は言っただろう? アリーシャに下僕のようにこき使われていたって」

「だけど、ドノヴァンには凄く尽くしてあげてるって聞いたけど……」


 そんな人から、ドノヴァンが逃げ出すことなんてあるのだろうか?


 そう思って聞くと、クレストさんはフンと鼻で笑い飛ばした。


「そんなの最初のうちだけさ。無事手に入れたと思ったら、すぐに本性を現すに決まってる。持って一ヶ月……いや、二週間が限度だろうさ」












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