第24話「看板料理を作れ!」
ピピンたちがヤレドから旅立って半月ほど経った頃。
我が家に、行きつけの酒場の親父ことレイモンド・キールが訪ねて来た。
店も連日大賑わいだし、昨日も悪酔いして暴れ出したおっさんをコテンパンにのすなど、エネルギッシュすぎるレイモンド。
経営も健康も問題ないとくれば
(もしかして浮気関連のトラブルか?)
なんてことを想像していたら
「実は今度弟子が独立することになりましてね」
「エイジさんに看板メニューの方考えて頂きたくて」
レイモンドの口から意外な相談事が飛び出した。
「本当は俺が考えてやるのが一番なんでしょうがね」
「ごらんのとおり、ウチは値段と量だけが取り柄の安酒場」
「気の利いた料理とか中々思いつかなくて」
苦笑いを浮かべて自虐するレイモンドだが、名物のサバのトマト煮なんかは絶品だし、料理下手との印象はまったくない。
とはいえ、冒険者崩れでちゃんとした料理修行経験がないらしいレイモンド。
本人的には、冒険者飯をそのまま店に出しているだけとのコンプレックスが、いまだに払拭出来ないのかもしれない。
この辺のデリケートな男心にあえて触れるほど野暮でもない俺は、二つ返事でレイモンドの依頼を受けることにした。
ちなみに、レイモンドの弟子は、市場で屋台を営業する予定らしく、手の込んだ料理は必要ないとか。
となると、真っ先に思い浮かぶ料理が、香ばしい匂いで集客効果も期待出来るやきとんとなるが…
(味噌も醤油も手に入らないこの街じゃ…)
(塩味で勝負するしかないけど…)
豚肉を塩で焼いただけの料理なんて、さすがにどの世界でもポピュラーすぎる。
(実際に、市場の屋台でも似たような料理をチラホラ見かけるし…)
(いくらなんでも看板メニューにオススメ出来ないわな)
そうなると、次に浮かんでくる料理が肉まんとなるが…
魔王軍に滅ぼされる以前は、東洋風人種の住む東洋風文化圏だったメトシェラ。
今でも東洋風人種の移民が少なからずいるせいか、市場に足を運ぶと、肉まんっぽい饅頭の屋台がいくつか存在する。
肉あんにケチャップを混ぜてピザマンとして売り出す方法もあるが…
お客の反応はともかくとして、レイモンドたちに手抜きメニューだとがっかりされる危険性が高い。
(引き受けた以上は…)
(ヤレドで見かけないような珍しい料理を考えなきゃな)
なんて意気込んでみても、家の中で閉じこもっているだけでは、良いアイデアも中々思いつかない。
(市場を覗いで流行りの屋台でも研究するか)
結局、ビジネスの基本に立ち返ることになった俺は、1か月ぶりに市場へ顔を出すことにした。
卸業者や職人たちの荒々しい怒号が飛び交う前世の市場とは違い、この世界の市場はちょっとしたイ〇ンモール状態。
食料や雑貨、古着などの買い出しのために色々な人間が訪れる。
その他にも、12歳で丁稚奉公に行くことが当たり前の世情柄、初々しい少年少女たちのデート場所になっていたりもする市場。
最近のトレンドは、ジャムやドライフルーツを具材にした揚げパンらしく、女性や子連れ客がその手の屋台に群がっていた。
(となると、労働者向けのがっつりメニューよりも…)
(ファンシーな軽食系の方が勝算あるのかも)
その瞬間、日本のお祭りの定番だったあの料理が頭をよぎることになった俺は、お目当ての食材確保のために、問屋街へと駆けだしたのだった。
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