第21話「キャロルの秘密」

訳知り顔で現れたおばさんの名は、エマ・リーズ。


キャロルの母・レコアの幼馴染で、近所のパン屋の女将さんらしい。


そんなエマが意味深すぎる発言をした理由。


それは、言うまでもなくキャロルの家庭の事情だった。


「元々のバウンス家は…」


「腕の良い靴職人だった旦那のマーガスのおかげで…」


「人よりちょっと裕福な暮らしをしていたくらいなんだけどね」


キャロルが7歳の時に、そのマーガスが流行り病で急死。


その後は、レコアが女手1つでキャロルと3歳年上の兄・ジルを育てることになったそうだが…


「そのジルが職人の修行に出た後にがっつりグレちゃってね」


きっかけは、素行の悪い兄弟子の影響だったようだが、やがてチンピラ連中とつるむようになり、街に繰り出しては喧嘩に明け暮れる毎日に。


「ジルの親方はマーガスの弟弟子だったから…」


「それでも辛抱強くジルの更生を待ってくれていたわけなんだけど…」


博打で借金を作り、借金取りが工房まで押し寄せて来たことで堪忍袋の緒も切れたらしく…


「『私の管理不届きのせいで申し訳ありません』ってね」


「わざわざレコアの家にまで謝罪に来た後で…」


「ジルの奴を破門にしたわけさ」


以降も更生する素振りもみせず、家に寄り付かなくなったジルだが…


「相変わらず借金は踏み倒していたようでね」


「本人に掛け合っても無駄だと判断した借金取りが…」


「レコアの所にも押し寄せてくるようになってさ」


その時の借金は、マーガスが残してくれた蓄えのおかげで何とか返済出来たそうだが…


心労で体調を崩してしまったレコアは、1年ほど寝込んだ末に病死。


「それでも目が覚めなかったジルは…」


「レコアが亡くなった半年後に…」


「酒場の喧嘩で人を殺して投獄されちゃってね」


おかげで、つかの間の平和が戻って来たキャロルではあったが、ジルの悪名のせいでアプローチをかけてくる男子は皆無。


「あんなに可愛くていい子なのに…」


「恋人もいない寂しい毎日を過ごして来たわけよ」


そんな中で初めて出来た恋人・ピピンのことを嬉しそうにエマに報告していたというキャロルだが…


「つい先日」


「役所の方からもうじきジルの奴が出所するって連絡があってさ」


「そうなりゃ、ジルの性格的にも…」


「恋人さんにお金をたかりに行くだろうし」


「また借金作って…」


「今度は恋人さんの工房に…」


「借金取りが押し寄せて来るかもしれないだろ?」


そうなってしまえば、2人の仲もボロボロ。


せっかくの初恋の思い出が土足で踏みにじられて、台無しになってしまう。


「だからさ」


「どうせ短い恋なら…」


「良い思い出だけ残して宝物に出来るようにってね」


ピピンには何も打ち明けず、キャロルの方から身を引く決意を固めたそうだ。


「だけどこんな馬鹿な話ってないだろ?」


「このままじゃ、あの子は一生幸せになれないじゃないか!」


「だから、もし恋人さんが本当にあの子のことを愛しているのなら…」


「この街からあの子を連れ出して…」


「ジルの呪縛から救ってあげて欲しいんだよ」


俺のことをピピンが雇った探偵か何かだと勘違いしているエマは、すがりつくような表情で懇願して来た。

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