第13話「起業開始」
それから一週間後。
材料が一通り揃った事もあり、リアムの奴を我が家まで呼び出し、ろ過水ビジネスに誘うことにした。
本来は、リアムに事業を丸ごと任せたいところだが…
(運転資金だってないだろうし…)
(そもそも帳簿の付け方すら分からない人間が…)
(いきなり起業するのは無理があるよな)
諸事情を考慮した上で、出資と事務は俺が担当し、実務はリアムに任せる共同事業という形に落とし込むことになった。
「俺なんかのために色々考えて頂いているのは有難いんですけど…」
「ヤレドの水を浄化する装置?」
「そんなの王城の宮廷魔術師だって作れませんよ?」
科学という概念のないこの世界。
「ろ過水ビジネスで一緒に成り上がろうぜ!」
との誘い文句が、あまりに突拍子のないほら話に聞こえたのか…
普段は俺のことを信頼しきっているリアムも今回ばかりは半信半疑な様子だった。
ろ過装置の仕組み自体は単純明快。
装置内に水が浸透していく過程で、砂や砂利などの表面に汚れが付着し、取り除かれて行くそうだ。
木炭は臭い消しのために用いるらしく、カナヅチで細かく砕いて粒状にする必要がある。
(とはいえ、こんなこと説明しても…)
(かえって混乱させてしまうだけだろうしな)
(論より証拠)
(まずは、ろ過装置を作って性能を理解して貰うしかないよな)
「とりあえず、俺が試作機を作るからさ」
「お前は、手順をしっかり覚えてくれよ」
ちなみに、ろ過装置を作ること自体には、特に複雑な工程があるわけではない。
まずは、多少のスペースを空けて並べた椅子の上に、注ぎ口が下になるように縦にワイン樽を置く。
その後は、樽の蓋を開け、古タオル、小石、砂利、木炭、砂、古タオルの順番に材料を敷き詰めるだけでOK。
個人的には…
(古タオルは最初に敷いたやつだけで十分なんじゃ?)
と思う部分もあるが、自己流でカスタマイズして効果が落ちても困るため、テンプレ通りの仕様で作ることにした。
「こんなので、本当に水が浄化できるんですかねえ?」
何のギミックもない仕組みのせいで、完成後は、より一層疑念が増している様子のリアムだが…
何度も言うが論より証拠だ。
ろ過装置に井戸水を注ぎ込んで、文明の利器の効能を体験して貰うことにすると…
「…信じられないっ!」
「あんなに生臭かった井戸水がまったく臭くない!」
「それどころか、まろやかな風味に変わっている!」
と某グルメリポーター並のリアクションを見せてくれた。
試しに俺も飲んでみたが、確かに普段口にする井戸水とは別次元。
自然豊かな山の湧き水をすくって飲んだ時のような新鮮さを感じる。
「これなら、マジで売り物になりますよ!」
「それで、どうするんです?」
「やっぱり、屋台か何かで売り出す予定とかなんですかね?」
リアムも俺と同じレベルの手応えを感じたのか、さっきまでとは打って変わり、やる気MAXモードに。
(でもまぁ…)
(いくら美味しいって言っても水は水だからな)
日本の江戸時代では、天秤棒を担いだ行商人たちが水を売り歩いていたそうだが…
「喫茶店やレモネード屋の多いヤレドで…」
「水売りの屋台で勝負することは難しいだろうね」
そうなると、BtoB路線。
つまりは、喫茶店などを相手にろ過水を卸す商売を模索したくもなるが…
需要があるかどうかは正直微妙なところだ。
ろ過水で紅茶やレモネードを作れば、ライバル店を圧倒出来る味にはなるが、その分コストもましまし。
かかったコスト分を回収しようと値段をあげれば、どんなに味が良くてもお客は離れてしまうし…
お値段据え置きのままろ過水を用いれば、利益を圧迫し、くたびれ損の骨儲けになってしまう。
「商売って意外に難しいもんなんですね」
改めてビジネスの世界の奥深さを思い知ったリアムは、げんなりしたような表情を浮かべていたが…
俺も何の考えもなしにこの商売を思いついたわけではない。
(付加価値商売の基本は金持ち相手)
(贅沢とマウントが生きがいの大商人たちなら…)
(ろ過水にも興味を示してくれるはずだ)
都合の良いことに、顔見知りの大商人も何人かいる。
まずは旧知の間柄である薬問屋のキース・タイラーに、ろ過水の営業をかけてみることにした。
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