第10話「癒しの奇跡」

「な、なんだってぇ!」


「リアムの奴がモンスター退治中に大怪我を!?」


顔面を真っ青にして我が家に駆け込んで来たハンナの姿を見た時点で、リアムの身に何事か起こったことは覚悟していたが…


正直な話、想像以上の凶報だった。


(そんな馬鹿な…)


(今回は、ゴブリンの住み着いた洞穴の探索だったはず)


(一体、何が間違ってこんなことに)


つい、先日。


リアムの奴と一緒に酒を飲んだ際に、今回のクエストの内容も聞いていただけに、まるで悪夢を見ているかのような気分と言える。


冒険者歴6年。


18歳の若さにして、既に他の冒険者パーティから引き抜き話すらある凄腕の剣士のリアム。


例えホブゴブリンを相手にしても、難なく討伐出来る実力があるはずの男だった。


「冒険者ギルドの医務室に運ばれたという話だけど…」


「あたし1人じゃ、とても行く勇気がなくてさ」


「悪いけど、エイジさんも一緒に来てくれないかい?」


わずか数か月程度の付き合いではあったが…


明るく気の良い少年のリアムに対しては、甥っ子のような感覚で接していたこともあり、ハンナに言われなくても同行するつもりだ。


その後は、ハンナと一緒に大急ぎで冒険者ギルドの医務室に向かったわけだが、ベッドの上には、全身がどす黒く変色した状態のリアムが横たわっていた。


ギルドお抱えの回復術士が応急処置をしているが、延命措置以上の効果もなく、余命数時間程度といった惨状に見える。


「今回のゴブリンたちは随分と賢い連中だったみたいで…」


「洞穴内に落石トラップが仕掛けてあって…」


冒険者仲間たちが悔し涙を流しながら、俺たちに経緯を説明して来たが、頭の中にまったく入らない状況だった。


とはいえ、クエスト中のアクシデントは冒険者の常。


おまけに、瀕死の状態のリアムを見捨てずにここまで連れて来て貰った時点で、彼らをなじる理由などあるはずがない。


「君たちのせいじゃないし」


「むしろ、ここまでリアムの奴を運んで来てくれたことを感謝しているくらいだ」


「そう、気を落とさないでくれよ」


気を取り直して、少年少女たちをなだめていると…


「エイジさん…」


「このままじゃあの子が…」


「いつもみたいにあんたの力でどうにかならないの?」


ハンナが縋りつくような表情を浮かべ、俺に助力を求めて来た。


ハンナの心情は痛いほどわかるが…


残念ながら、東洋医学をベースにする薬師は、外傷に対しては完全に無力。


血止め薬や湿布などを調合するのが精一杯な現実がある。


「ごめん、ハンナさん」


「薬師の力はあくまで内傷限定」


「こんな時に何かを解決する力は…」


無念さを押し殺して残酷な現実を告げると、ハンナは一瞬だけ絶望に顔を歪めたが…


すぐに意を決した表情を浮かべて、どこかへ走り去って行った。


そして、小1時間後。


重苦しさが増す一方の医務室に、神官を連れたハンナが戻って来た。


「あとは、私にお任せください」


気難しそうな白髭の神官は、リアムにただちに癒しの魔法を施した。


白い光に包まれたリアムの体が、まるで時間が逆行しているかのように復元されていく様は、奇跡という以外に言葉がない。


このクラスの魔法が使えるのは、限られた高位神官だけだろう。


(なるほど)


(突然どこへ行ったのかと思っていたが…)


(そういうことか)


一方で、金にガメついことで有名な教会。


何の権力もない庶民が、高位神官の力を借りるためには、どれくらい高額な寄進を要したのか、想像するだけで怖くなる。


体が全快した後も死んだように眠り続けたリアムだが、翌朝になると、呑気な顔をして目を覚ました。


「馬鹿野郎、心配したんだぞ」


冒険者仲間たちが悪態をつきながらリアムに抱きついて行く横で、ハンナが心底ほっとしたような表情を浮かべていた。

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