第4話「逆転の秘策」

俺の脳裏に閃いた逆転の秘策については、料理の屋台を利用した資金集めとなる。


ヤレドには、各地区に大きな市場があり、ちょっとしたイ〇ンモール状態だった。


とはいえ、人気スポットに立ち並ぶ屋台なんて、どれも味自慢ばかり。


本来は、素人の入る隙間など存在しないが…


今回は、グリーンヒルの騒動が広まり、ティアたちに同情が集まっているという追い風がある。


屋台を出せば、取りあえず料理を手に取ってくれるお客が多いことが予想出来る。


もちろん、肝心の味がイマイチなら、せっかくのチャンスも台無しになってしまうだろうが…


(そんなに手の込んだ料理じゃなくても…)


(異世界にないような汁物か飲み物でも出せば…)


(継続した集客が期待出来るんじゃないだろうか?)


なんて淡い期待もあることは確かだ。


そんな時に真っ先に思いついた料理が、前世で急死する直前に、水分補給のために飲んだ抹茶ラテとなる。


都合の良いことに、この世界でも抹茶的な食品は存在しており、メトシェラの東縁部に浮かぶオノゴロという島の名産物として名高い。


無論、白人文化圏のメトシェラでは愛好家もおらず、市場で見かける機会もまったくないレベルのレア食材ではあるが…


薬師という職業柄、抹茶の仕入れルートには当てがあった。


「アレ?エイジさんじゃないの」


「今頃買い物なんて珍しいね」


夕暮れ時に、息を切らしながら店内に走り込んで来た俺の姿を見て、薬草問屋の親父が愛想良く声をかけて来た。


「いや、ちょっとスフィンが必要になっちゃってさ…」


「アレってまだ在庫大丈夫だよね?」


スフィンとは、ヤレドでの抹茶の通称のことだ。


一部の薬の調合に用いられるため、薬草問屋では一定量の在庫が確保されているが、船や馬車で輸送する手間暇がかかっている分、お値段の方もそれ相応に高い。


具体的には、100グラムが大銅貨3枚。


前世の貨幣価値で3000円もする。


異世界転生後は、薬師として成功し、前世の数倍の年収を誇っている俺ではあったが…


薬草代と税金で収入の6割が消える極悪仕様なため、こんな高級茶を愛飲するような贅沢をする余裕はない。


そのため、今までスルーしていた食材だったのだが、グリーンヒルを救うための秘密兵器として活用する時が来た。


「とりえず1キロほどちょうだい」


銀貨3枚を支払って抹茶を買い込んだ後は、親父と数分程度の世間話をした後、自宅に戻ることになった。


その後は、キッチンで抹茶ラテの試作に取り掛かることにした。


といっても特に難しい作業などはなく、木製のカップの中で抹茶や砂糖、少量のお湯などを混ぜ合わせて抹茶シロップを作った後に、カマドで沸かした牛乳を注ぎ込むだけだ。


(…んっ!)


(これは案外良い出来だな)


実のところ、前世では喫茶店やペットボトルで飲む程度で、抹茶ラテを自分で作った経験はなかった。


それだけに、味の方はちょっと心配な部分もあったのだが…


抹茶ラテ試作1号は、牛乳の甘味の中にほんのりとした抹茶の渋みが合わさり、中々イケる味となっていた。


俺個人の好みをいえば、もっとお茶感の強いシャバシャバとした口当たりの方が美味しく感じられたりもするが…


抹茶に慣れないこの国の人間にとっては、それではえぐみが強すぎるだろうし、このくらいが無難な味と言えるのかもしれない。


(それに抹茶の量を減らした方が原価率だって圧縮出来るしね)


砂糖も案外高級品だったりするこの世界。


可能な限り牛乳と抹茶の配分で甘みを調節したい事情もある。


(お腹がゆるゆるになりそうだけど…)


(この際、抹茶ラテの味をとことん極めて見るか)


幸いにも薬問屋に卸す量の薬はほとんど調合し終わっていたため、俺はにわか料理研究家に変身することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る