今回の報酬はまぁ厄介だぜ
「思ってたより……クソヤベーな!!」
今さら言うまでもなく、がランバンの図体はバカデカい。引っこ抜くとなりゃ当然、足場が壊れちまうのも頭の隅で想定はしてた。
だが、これほどまでに木っ端微塵になるとも思ってなかった。半月もかけた立派な木組みが一瞬でパアになってく。
いや、今はそれどころじゃない。安定した足場を失った結果、車はバランスを崩してぶっ倒れ始めてる。そもそもが貧相な長い脚の上に車体が乗ってるアンバランスな形だ、転ぶとなりゃ勢いだってシャレにならない。
引っこ抜いた後はさっさと足場から去っちまう予定でいたが、もう完全に足場の崩壊に巻き込まれちまってた。
「ひ……ひいいいいい!」
「だいじょうぶですよ、飛田さん!」
助手席の背もたれにしがみつく飛田のおっさんをカツが励ます。ちょっとは頼もしいところもあるじゃねぇか。
「きっと兄貴がなんとかしてくれますから!」
「なるほどな、センタリングは上げるわけか」
とはいえ、頼られたからにはどうにかするのが兄貴分ってもんだ。左を下にどんどん急角度になってく車の中で、必死に頭を使う。
残念ながら窓はどこも全開。もう少し角度が付いちまえば、恐らく四人揃って車外に放り出されちまう。下までは数十メートル、普通ならまぁ助からない。
「カツ!おっさん背負え!」
「分かりました!」
「わわわわ私は?!」
「落ち着け、そして黙ってろ!」
あたふたやってる後部座席を見ながら、運転席のボージーにも声をかける。
「ボージー、お前は俺だ!背中にしがみつけ!」
「うむ、頼んだぞ!」
ドスンと背中に重さが乗っかったのを感じたところで、助手席のドアを思い切り蹴破った。外れたドアが枯れ葉みたいにヒラヒラと小さくなってく。
……流石に怖ぇな。こんだけの高さになると、シンプルに視覚から訴えてくるもんがある。だが、四の五の言ってるヒマなんざない。
「カツ!俺が飛んだ後に飛び出せ!着地はボージーの背中だ!」
「了解です!」
言うが早いか車の床を蹴った。視界がバッと開ける。
「うほおぉぉぉぉぉぉ!!」
「ちょ、ボージー!耳元で叫ぶな、うるせぇぞ!」
「そう言われてものぉぉぉぉぉぉ!」
全身に風を感じながら、とにかく地面から目だけは離さない。なにより肝心なのは着地のタイミングだ。
自分の中にまだ残り火があるのを確認しながら、フューリーに問いかける。
「着地のちょい前から力ぁ借りるぜ」
『分かったよ。にしても汝、無茶するねぇ……こういうの好きなの?』
「どこのヤクザが好むなんだよ、こんな脱出スタント」
そうぼやいてる間にも、地面はぐんぐん近づいてくる。意識を集中して全身に力を入れたその時、ふわりと風が吹いたかと思うと、落下速度が少しだけ緩くなった。
首を回すと、こっちに向けてリデリンドが両手を緑色に光らせてる。なるほどな、風の魔法でのアシストか。
「……助かったぜ」
ここまでお膳立てしてもらって、「全員ペチャンコです」じゃ合わせる顔がない。改めて、足腰を中心に、全身にフューリーの力を回してく。
カッカと身体が熱くなり始め、オレンジの光が自分でも分かるほどになった。つまり、ベストタイミングだ。
「ぉぉおおらよっとぉぉぉ!!」
ズダンと音を立てて着地する。開いた両足にも膝にも、そして腰から背中にも、痛みらしい痛みは走っていない。だが、まだだ。息を吐いて衝撃に備える。
「おぼぅふ!!」
「ぐぇっぶ!!」
「ひいいい!!」
「重……たくなんざねぇぞコラァァァ!!」
ボージーの上にカツが、その上に飛田のおっさんがどんどんと積み重なった。両足と腰にぐんと重さが乗っかったが、この程度ならフューリーの力で大した問題じゃない。
しんどいのは挟まった形になったカツとボージーだが、横目の限りじゃ、リデリンドの魔法でのフォローはカツたち二人にも向けられてた。まぁ悪くてアバラにヒビが入った程度だろう。そして。
「や……やりおった!やりおったぞ、あの若造め!」
「ぬ、抜けた!ガランバンが遂に抜けたぞ、おい!」
「ここまで本当に長かった……」
「流石はカガリ!やる時ゃやるもんだよ、うん!」
「皆さんご無事で……何よりです……」
「一時はどうなるかと思ってましたけどねぇ」
「やった……抜けた、抜けたー!俺、やっと自由になったぞー!」
どうにか無事に降り立った俺たち四人を、ゼフトたち王国軍もフェリダたちも、勿論ガランバンも、拍手喝采の大歓声で迎えてくれた。
『報酬です』
日が暮れて千人ちょいでの大宴会の真っ最中、響いたいつもの声に苦笑いだ。
「っとによ……間が悪ぃにも程があんだろ。ちったぁゆっくりさせろってんだ」
「ですが、今回ばかりは良い報酬を期待したいところですね」
空になった俺のジョッキに酒を注ぎながら、リデリンドが続ける。
「ゼフト様達王国軍とガランバン様四天王……この世界に於いての二大勢力を、大きく争う事なく退ける形になるのですから」
「まぁ……言われりゃそうか」
ぐいとジョッキをあおった瞬間、周囲が大きくどよめいた。何が起こったのかと首を回すまでもなく、答えはすぐに分かる。
今まで
「守備範囲がクソ広くなっちまったぞ、おい」
思わず舌打ちしちまう。
壁がこの周辺を囲ったのは結構だが、ここいらへんと町内の間には、なにもなくなっちまってる。つまり、今この瞬間からは、ここいら一帯も町内として考えて守ってかなきゃならない。
加えて、単純な広さも二倍近くになってる。いよいよ散歩気分で見回りに行ける距離じゃなくなってきた。
「めんどくせぇな……」
「そうシケた
酒瓶片手に近づいてきたのはダロキンだ。しばらく相手してやれてなかったが、今日も悪魔じみた強面に満面の笑みがとことん不釣り合いだ。
「いいことじゃねぇか、町がでかくなるってのはよ」
「広くなったらなったで面倒なんだよ。こっちはさほど頭数いねぇんだぞ。見回るのだってひと苦労だ」
「それなら簡単だぜ」
俺とリデリンドの間に割って座ったダロキンは、隣からの殺意なんざ気にも留めず瓶の酒を飲み干す。
「ここに作りゃいいのさ、新しい町を」
「新しい町だ?ふざけんのは巻き角だけにしとけよ」
あまりにも突拍子もない提案だ、流石に鼻で笑うしかない。
「簡単に言ってくれるがな、家ひとつ、道一本引っ張んのだって手が必要なんだ。そんな手、どこにあるってんだよ」
「あんじゃねぇか、そこいら中に」
ニヤニヤ笑うダロキンが見回した先じゃ、王国軍がやんやと酒盛りの真っ最中だ。思わずくわえた煙草を落っことしそうになる。
「王国軍に町を作ってもらおうってのか?」
「そんなら話が早ぇだろ。人間が増えるんなら、見回りだのなんだのも格段に楽んなるぜ。それによ、」
ダロキンはあぐらをかいてるガランバンを見上げる。
頭は遥か上の高さ。とっぷり日も暮れちまってて、どんな顔してんのかすら分からないが、たまに聞こえてくる笑い声が地面に響いてるから、肩に乗ってるカツたちと少なくとも楽しんじゃいるみたいだ。
「これ以上ないってぐらい、力仕事任せられるヤツもいるんだぜ。今を逃す手はねぇと思うがな」
「……マジかよ」
壁がちょっとばかり大きく囲んだぐらいで、こんなことになっちまうとはな。
呟きと一緒に漏れた煙草の煙が夜空に上がってくのを、なんとはなしに眺めてる。
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