2024/11
2024/11/23 帰省の旅費
二度と帰れない世界を想う。一人暮らししているこの部屋から、ほんの二時間くらいで行けてしまう実家。道路にはみだしたおおきな桜の枝々の影、木の根に押されて崩れかけたブロック塀、土を切り崩しただけの作りかけの斜面みたいな駐車場、雑草だらけの庭に囲まれたグレーの一戸建て。二度と帰らないと決めて警察署で絶縁の手続きをした家を、ふとおもいだす。
年末、だから……。
仕事の冬休みが九連休にもなるから、ボーナスが出たあとに旅行でもしようかと昨日妹と話したばかりだった。適当に調べてみるとやはりどれもかしこも料金が高い。日本中が都会から田舎方面へ移動して都会に戻ってくるから、交通費も宿泊費も一律高くなる時期だ。休みの日数は予算があっても、旅費はそんなに想定していない。
――天井からゴキブリが降ってくる日常だった。一、二、三……何十何回。数えて殴られる毎日だった。人生を終える寸前だった。自分のマフラーで首をくくる前に自分で縁を切った家だった。それでも彼らを愛していた。愛している。今も。二時間もあればドアトゥドア、旅費は妹のガソリン代のみ。桜の枝が大胆に身を乗りだした道路に、停めて……。今も掃除が行き届いていないままであろう、虫の降るグレーの家。老いていく両親をおもって、帰らない正月をおもって、それを決めて一年半、三十一歳になったばかりの私はすでに、さみしい。
あとで地獄で会いましょうね、ママ、パパ。今年の年末も帰りません。
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