とある国の 終章 文化の根とある国の伝説

第十四話 作品愛と単語と評価

 四人の芸術家をのせた船は、四つの月を数えたころにその大木に近づいた。島の沖には、ボクド村の人々と協力して作成した船が停まっていた。

「いよいよだね」

「我々の目的は達成されておる。次なるは座長の目的である『文化の根』」

「ハイーユ大丈夫かな」

「心配なかろう」

 三人の緊張が交わる中、サイショ王はどこか寂しい顔をしていた。

 セウゾン一行は気を引き締め文化の根へと向かっていった。




 文化の根の周りには、今まで旅してきた町や村の門の装飾と同じデザインがあしらわれた壁が設置されてあった。その壁は大木を一周するように囲われており、どこからも侵入することはできないようであった。

 大きくそびえ立つ大木を前に、セウゾンたちは壊滅状態の一行を発見した。

「アルト君!! 大丈夫かい」対するアルトは返事がない。

「ハイーユ! ペインちゃんも、、、」ペインに捕らえられたハイーユは、弱弱しく答えた。

「シュカ、それにセウゾンさんたちも、すまない、北の王にやられてしまったよ」

 それからハイーユは、この地で起きたクロノテージ王の奇襲についてシュカ達に伝えた。アルトは声をかけても一切反応がない。ペインもうつろな目をしている。

「アルト君はクロノテージ王の謎の力であんな状態だ。ペインもクロノテージ王に何かされたみたいで、ずっとおかしいんだ」

「ハイーユ君、アルト君はおそらく記憶を抜かれたんだろう。ペインについてはこちらで察しはついていたよ」

 セウゾン一行は、ウコジヨウ地帯へ向かった先でソプラから聞いたことや露店の話、金貨やクロノテージ王の過去についてハイーユに説明した。

「そうだったのか。クロノテージ王もただの悪い人とは言えないのかもね」と言い、彼らはこの後の戦いについて話し合った。


 サイショ王を連れた芸術家たちは、一人の影が立つ門の前へ向かった。

「もう片割れの反逆者たちよ。アルトや他の二人はどうしたのかな?」クロノテージ王はセウゾンたちを反逆者たちと呼んだ。それは、ボクド村に向かう際に読んだ新聞の内容に関係していることはすぐに理解できた。彼の欲する四つのモノのうちの一つである、移動手段の船を納品せず、アルトに渡したセウゾンはクロノテージ王から敵意を向けられていた。また、彼から見ればセウゾンに加担する他の人物たちも同様の存在であった。

「北の王クロノテージよ、どうか文化の根を解放してはくれないだろうか?」

「セウゾンよ、我の欲するモノを盗んだお前の望みを素直に聞くと思うのか?」

「このままじゃこの国の島が消えてなくなってしまうわ!」

「それがどうしたというのだ? こんな国、消えてなくなってしまえばよい」

 クロノテージ王はこの国を捨て、隣の大陸へ向かおうとしている。そのため、セウゾンたちが乗ってきた船を奪い、大陸へ向かうことができれば、クロノテージ王は生存することができる。現在この場、この国を支配しているのは二人の王ではなく北の王であった。

「そこまでにしないか、クロノテージ」南の王が訴えた。南の王は訴え続けた。

「君の作品は誰からも評価されなかったかもしれない。しかし、私は評価していた。君の能力と技術で作り出される作品はどれも素晴らしいモノだ」

 かつての友であったクロノテージ王は、サイショ王の訴えを黙って聞いていた。彼が発言を終えたとき、クロノテージ王から意外な言葉を聞くことになる。

「我にとってそれがとてつもなく嫌なことであったとまだ気づかぬか、サイショよ」

 クロノテージ王の発した『それ』の意味をこの場にいるほとんどの人間が理解できなかった。

「誰からも評価されないというのならば、それほどの作品ではないということだ。しかし、おぬしが哀れみの愛による評価を繰り返したことによってそのことに気が付かなかった。それを我の間違いであると認識しようとしている時でさえ、おぬしは哀れみの評価を繰り返した。それがたまらなくつらいのだ」

「哀れみの愛などとは存外だな。おぬしのためを思ってのことであったが、」

「それは違うのではないか、王よ」キジュウが二人の会話を止めて発言した。


「南の王よ、あなたは評価されないということが不出来な作品であると決めつけ、それに哀れんでの評価であった。そもそもが間違っているのだ。北の王よ、あなたは評価されないことに対して割り切ってはいないはずだ、少なからず恐怖はあった。ちがうかな?」

 キジュウの発言に対し、二人の王は言葉が詰まった。

「作品を作り出す者であれば、恐怖は少なからずあるはずだ。建築家、歌手、俳優、画家、造船、それぞれ自分の分野で作品を評価してもらえないということに対して恐怖している」

「そうよ、私も観客が減って新しい演目もないから、評価されないんじゃないかって怖かったのよ」シュカも意見する。

「それは、僕だってそうだ」ハイーユもシュカと同じ意見であった。

「僕は船を作ることについて、もちろん恐怖したさ。この世にない技術をこの手で作り出したんだ。評価されるかどうかだけじゃない、どう使われるかも恐怖したさ」

 この場にいる芸術家たちは、アルトとの旅路の中に己の弱さを認識していた。そして、各々が行動を起こすたびにその感情は強まっていた。しかし、それらの感情は芸術家として常であるとも理解していた。ただ二人の王を除いて。

「クロノテージ王、コクチョウの門のデザイン、あれはあなたが作り出したのでしょう?私はあの作品に心を奪われてしまった」


 キジュウがクロノテージ王の作品を心から評価しているということを伝えようとしたとき、彼らの背後から声がした。

「皆さん、無事だったんですね、というかそこの二人って王様じゃないですか!! え? どうしちゃったんですか??」

「その声と見た目は、、」

「「「「アルト!?」」」」

 王に記憶を奪われ、生命力を失いつつあるはずで、ハイーユやペインとともに倒れていたはずの主は、声や見た目をそのままに、彼らの前で立っていた。

「君、なんか雰囲気ちがうようなきがしないかい?」

「そんなことないと思いますけど、、、、なんかかわりました?」

「変わってるわよ、、ていうか変わりすぎよ!!」

 アルトの口調が大きく変化していた。


 和やかな雰囲気の中、キジュウはクロノテージ王に再度話始めた。

「王よ、あの門のデザインは、チェスの駒があしらわれている。それはサイショ王とクロノテージ王の二人を表しているのではないか? そして二つの柱をつなぐ大きな柱は、石材の彫刻により人間の横顔のようになっている。目も口も石が残っていないのは、何か意味があったのではないか? それについて教えてくれないか」

「............目と口に穴をあけているのは、単語としての評価が愚かであると伝えるためである。サイショ王の哀れみの評価は、単語としての意味しかない。そう思えてな、」閉ざされていた王の心が解放された。

 クロノテージ王の多くの行動は、自身の評価をしてくれない世間ではなく、単語としての評価しかしてくれない友を憎んでのことであった。キジュウはコクチョウで話を聞いた際に、そのことに気が付くと同時に、彼の作品に引き込まれた。

「クロノテージ、そうとは知らずすまなかった、私はただ君が壊れていく姿を見たくなかったのだ」

「サイショ、、我はそんなにもろく見えたか?」弱弱しく答えた。

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