とある国の 第五章 ウコジヨウ地帯と文化の根へ
第十話 崩落の大木と一枚の金貨
ボクド村を出発したセウゾン率いるウコジヨウ地帯組。その出発から2つの月が見えたころ、アルト率いる文化の根組が出発した。相も変わらず、船の上ではハイーユが船酔いにより体力を蝕まれていた。
文化の根のたたずむ島はこの国の中心にあり、ボクド村のある島から見て東北東にあたる方角に存在している。文化の根組は、太陽を4回数えたころ、船旅を終え島へ上陸した。
「これが文化の根ね?」とペインが言う。
「遠くから見ていただけでは大きさがよくわからなかったが、これは大木と呼んでもおかしくないね。」とハイーユが少ない体力で笑って見せた。
「ここは私たちの旅の最終目的地です。セウゾンさんたちを信じて文化の根へ向かいましょう。」
アルトは自身の持つ「文化の根」と感性に関する記憶だけでなく、この旅で得たアルト自身の記憶が生まれていました。この国の芸術や文化を守りたいとするアルトの記憶は彼の持つどの記憶よりも強いモノでした。
アルト一行は気を引き締め文化の根へと向かっていった。
文化の根の周りには、今まで旅してきた町や村の門の装飾と同じデザインがあしらわれた壁が設置されてあった。その壁は大木を一周するように囲われており、どこからも侵入することはできないようであった。
「この門はクロノテージ王の説得により開くはずです。」とアルトは確信めいた表情で言った。
「それは本当なの?」とペインが聞き、ハイーユも言葉にせずとも同じ意見であるという顔をしていた。
「私はクロノテージ王の能力により文化の根がもつ「感性」の記憶を植え付けられました。それはこの地で行われた行為であり、その際にクロノテージ王が離れた場所から門を開ける様子を見ていました。」
アルトは自身の生い立ちについて話し始めた。
「私はどの町や村で生まれたのかという記憶を有しておりません。いつからかクロノテージ王の傍におり、記憶を植え付けられました。サイショ王から聞いた話では、私に宿る「言葉」の力に目を付けたクロノテージが、自身の愛する完璧な彫刻を生み出す存在を得るために私を攫い、そのようなことをしたと聞かされました。」
アルトの持つ「言葉」の力とは、彼の発する言葉に誰もが耳を貸し、その意見に従おうとするというモノでした。実際、ペインとの勝負の際には「文化の根」の一説をペインに話し、その言葉に動かされていた。また、セウゾンとの会話では自身の計画を止めてまでアルトに船を与えて旅に同行しました。ハイーユやシュカ、キジュウに至っても、アルトの持つ「言葉」の力に影響され、目的がずれていても旅に同行しようとしていた。
「つまり、私の発言は人々を動かす力があるとサイショ王は言っていました。この力は、感性に強く作用し、モノを作る際の発想に役立つとクロノテージ王は考えたのでしょう。しかし、文化の根の持つ感性の記憶を与えられた私には、作品を作る力がなかったのです。そのためクロノテージ王は、文化の根から芸術や文化に関する記憶を盗み、私に再度与えようとしてきました。」
クロノテージ王がアルトに記憶を植え付けようとしたとき、同じ島にいたサイショ王が駆け付け、その記憶を本に変換し、アルトと本をクロノテージ王から奪い取ったのです。
「クロノテージ王は何のためにそんなことをしたの?」とペインが疑問を投げかける。
「それは私にもわかりません。」
アルトはクロノテージ王の目的は何一つわかっていませんでした。
「彼の目的がわからない限りは、真に和解することはできないんじゃないかな」とハイーユが言ったその時、アルトたち以外の声が聞こえてきた。
「我の目的が知りたいのか?」その人物は眼鏡をかけた男であった。
「そんな、なんでこっちに」と一同が驚きと焦りの表情で彼を見ていた。
「自己紹介したほうがいいのかな?反逆者たちよ。我の名はクロノテージ。君たちの仲間からもらうはずだった船と、アルトを奪われた北の王である。」
クロノテージ王が支配するウコジヨウ地帯に彼の拠点があったため、文化の根にいるということは異質である。
「クロノテージ王、文化の根は今、あなたの能力によって抜き出された記憶によって生命力を失いつつあります。このままではこの国の島は崩壊し、芸術も文化も消え去ってしまいます。」とアルトは冷静に交渉し始めた。
「島が崩壊。芸術も文化も消え去る。なるほどそれは、、、、私には関係のないことであるな。」
「なんだって?」ペインとハイーユは怒りをあらわにした。
「村の人たちや町の住民たちはどうなってもいいというの!?」
「左様。私の目的はこの国を出ること。幸いなことに遠くに大陸が存在するという話を兵から聞いた。」とクロノテージ王が話始め、目的について語った。
クロノテージ王の目的は、この国から出て大陸に移動すること。そのために「とある金貨」と「作品を生み出す者」、「移動手段」と「食料」を必要としていた。作品を生み出すものとしてアルトを、移動手段としてセウゾンの造船技術が組み込まれた船を用意していた。しかし、その二つは今、クロノテージ王の手中には収まっていない。
「金貨ってまさかこれのこと?」とペインがアルトから得た、あの金貨を取り出しクロノテージ王に見せた。
「おお。まさしくそれが私の求める金貨だ。以前盗賊に奪われてしまい、兵を派遣して捜索したのだが帰ってこなかったのだ。」
「王様ってばあ、なあんにも手に入っていないじゃないですかあ。」とペインが嘲る。しかし、クロノテージ王は毅然とした態度かつ余裕な表情を浮かべていた。
「まずは、その金貨の能力について見せよう。」とクロノテージ王が金貨に手を伸ばした。すると、ペインの持つ金貨は淡い光に覆われた。
「では、その女よ。そこの弱った男を捕らえよ。」とペインに対し支持をするとペインはハイーユを抑えつけた。
「な、なにをするペイン!!」
うつろな目をしたペインは、力強くハイーユを抑え続けている。
「次はアルトだ。お前は失敗だった。」とクロノテージ王がアルトに手を伸ばすと、真っ白な光が全員の目を覆った。それと同時に、アルトの顔は地面にたたきつけられた。
「アルト君?!どうしたんだいアルト君!!」とハイーユは叫ぶ。しかし、アルトの耳には届かなかった。その声はペインにも届かなかった。
「我はこのまま君たちを監視することにしよう。あいにくあっちでは君たちのお仲間が暴れているようだからな。じきに船もここへ来るのだろう?それまでおとなしくしていようではないか。」
「貴様!!、、、」ハイーユは船酔いによる体力の低下が作用し、能力も使うことができないまま、意識を失ってしまった。
予期せぬクロノテージ王からの奇襲に会い、文化の根へ向かったアルトたちは何もすることができずにその場で意識を失った。文化の根の前には、二人の倒れた男と、うつろな目で金貨を持つ女。それと王の手元に一冊の本と記憶の光があった。
その場にそびえ立つ一本の大木から、大量の枯れ葉が落ちた。
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