とある国の 第三章 ギエン町へ

第六話 煌びやかに舞う二人の心

 始まりの地、カイガの街、コクチョウと旅を進め、仲間も増えてきました。次なる目的地は、演技の街「ギエン町」です。

「私、船に乗ったの初めてよ」とペインが船の甲板部で話す。

「初めてだったのかい。安心してね、僕の作る船は安全だからさ。」

「皆さん。次なる目的地はギエン町です。」

「アルト。その町では何をするの?」とペインが聞く。

「ギエン町は演技の街です。演技は芸術分野でも珍しく、複数の芸術分野を組み合わせて制作されるようです。そのため、人々の中から特に能力が高い人物を推薦する予定です。」とアルトは答える。


 彼らが最初に旅をしていた南側の島。その島からちょうど北西に位置する島の中心にギエン町は佇んでいます。この町では、演技を基調としており、舞台の上で役者と呼ばれる者と歌手と呼ばれる者が演技をしている。

 彼らは船旅を終え、ギエン町へたどり着いた。この町の門は三層の壁によって構築されており、その間には人が一人は入れるほどの広さになっている。また、門の左右の三層壁をつなぐように、パイプが設置されており、そこには照明器具が吊り下げられている。

 ギエン町に入った三人は、上手側(右側)に大きな舞台を発見した。

「私たちの目的はあの場所です。」とアルトが手を向け、歩き始めた。


 舞台の中心から二人の声が聞こえてきた。

「セザンヌよ、なぜ私の元から消えるのか」と男が言う。

「ポール、あなたのほうこそ」と女性が言う。そして壮大な曲が流れ始めた。

女性は歌い始めた。「♪あなたはこんなに不安げで私を一人置いていくの。私はあなたについていくと決めた身でありながら、あなたは私を置いていく。」

男も歌唱に参加する。「♪そんなことはないセザンヌよ、悲しき宴に身を任せ、国を出ていく君の後姿は、僕にとって悲しきものよ。」

 その後も二人の舞は続き、物語はハッピーエンドを迎えた。


 舞台の幕が閉じ、演者たちが下手から退場をする。舞台の下手は外へつながっており、客席後方にある楽屋へ戻っていった。アルトたちはその後ろをついていくように、楽屋へ向かった。

「あの二人に声をかけましょう。」とアルトは言い、他の二人もその意見に従った。


「今日の公演もお疲れ様。シュカの歌声は最高だったよ。」と男は言う。続けて女性も「お疲れ様、ハイーユ。あなたの演技もなかなかよ。」

 公演の成功と互いの技術を認め合い、声を掛け合っているころ、三回ほど扉がたたかれた。

「お疲れ様です。先ほどの舞台を見させてもらったよ。」とセウゾンが口を開き、続けてアルトやペインも褒めたたえた。突然のことにシュカもハイーユも驚いていたが、三人からの称賛を素直に受け取った。

「ありがとうございます。皆さんは他の町からいらっしゃったのですか?」

「ええ、私たち三人はとある目的のために旅をしているの。」

「お二人の演技力と歌唱力は私たちにとってとても意義のあるものであり、話を聞くためにここへ来ました。」とアルトが言うと、自己紹介をしていないことに気が付いたセウゾンが、三人を紹介した。

「なるほどね、君がアルトくんで、あなたがペインちゃん、それとセウゾンさんね。よろしく、私はシュカよ。」

「僕はハイーユ。二人でよく舞台をやっている。俳優、歌手としてね。」

 互いの紹介が済んだところで、アルトはペインやセウゾンにしたように旅の目的を説明した。シュカもハイーユも、説明になれてきたアルトも旅の目的について一度で理解することができた。

 彼らは全く同じ演目を、毎日行っていたために、飽きが来ていた。また、観客も同様に、変わり映えのしない演目に対し、ルーチンのような状態で観劇をしていた。

「つまるところ、僕たちには刺激が欲しい。」とハイーユは言う。

「その話、ぜひ私たちに協力させてもらえないかな。」とシュカも言う。

 二人はアルトたちの旅に参加することに決めたようだ。

 二人はさらに次のようなことを話し始めた。

「このごろ、舞台を見に来るお客さんが減ってしまってね。本と困ったもんだよ。」

「私たちはクロノテージ王の奴隷制が原因だと考えている。」

 クロノテージ王の目的である大きな大陸への移住。そのために必要な食料を作るため、奴隷制が施行されたため、国中の町から人が減っているのである。アルトは、コクチョウの港でセウゾンから聞いた話や、この町でハイーユとシュカから聞いた話によって、奴隷制が強く悪であると感じた。

「私としても、あなた方二人が旅に参加していただけるとなれば、私たちの目標の達成に近づくことになります。」とアルトも了承した。了承というよりは、感謝のほうが大きいのかもしれない。

 ただ一つだけ、お願いがあるとハイーユが口を開けると、ほぼ同時にシュカも口を開いた。

「「君たちとの旅で得た感情や体験を、ぜひ戯曲として採用させてほしい!!」」

 アルトにとってこの願いは、ペインやセウゾンの願いよりずっと簡単なモノに聞こえたため、その願いをすぐさま受け入れた。それと同時に、「文化の根」を開き、語りだした。

「舞台は、一人の力で動くものではない。また、舞台は鏡を経て作り出すものである。」

「また、「文化の根」ね?」とペインが口をはさむ。

「文化の根ってなんだい?」

 セウゾンやハイーユ、シュカは「文化の根」について知らなかったため、彼が開くその本とペインのツッコミの意味が分からなかった。一方で、アルトは語りを止めなかった。

「鏡とは、絵画でも述べた通り、人の心を映し出すものである。すなわち、舞台は人々の心を映し出すことによって完成されるべきである。舞台の章。」満足げにその本を閉じるアルトには、彼らの不思議そうな顔は理解できていなかった。


 次なる目的地はセウゾンの出身地であるボクド村です。優雅な船の旅の始まりです。


 予想に反して短い滞在となったギエン町。新たに俳優のハイーユと歌手のシュカが仲間に加わり、クロノテージの悪事を止める手立てが整いつつあります。ハイーユは「共感」の力を持ち、シュカは「感動」の力を持ちます。彼らの持つ能力は果たして今後、どのように作用し、文化の根を導くのであろうか。

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