第11話 誰かがいる
翌日、14時過ぎ。
私はみな先輩と
みな先輩が「ここよ」と言って、立ち止まった。
見上げると10階ほどはあるマンション。
影山さんの家はどうやら6階の1室らしい。
「このマンション、エントランスがシンプルなのよ。
きっと歴史あるマンションなのね」
みな先輩はそう呟きながらマンションの中に入っていく。
私はよくわからないので「そうなんですね」と返しながら追いかける。
ちなみに今日も普通の私服です。
メイド服は基本、店でしか着ません。
言われてみるとシンプルなエントランスを通り抜ける。
そして、エレベーターに乗りこむ。
扉が閉まって上昇が始まる。
「しき、昨日言ったこと覚えてる?」
「はい。覚えてます」
昨日言われたこと。
それはみな先輩が作ってくれた、賄いオムライスを食べているときに言われた話。
どうやら、影山さんの家には
でも、影山さんは3人暮らし。
旦那さんは出張で不在。
つまり影山さんの家には、幽霊がいるかもしれない。
まぁ幽霊なら
でもみな先輩1人だと、オムライスの味の再現以外のことはできない。
だからもう1人連れてきて、その気配について調べる…ということらしい。
エレベーターが止まり、扉が開いた。
「じゃあしき、そっちはいい感じに頼むわね」
そう言いながらみな先輩はエレベーターの外に出る。
私は「はい。頑張ります」と言いながら、続いてエレベーターから出る。
廊下を歩き、影山と書かれた表札の部屋で止まる。
そしてみな先輩がインターホンを押す。
『は~い』
「こんにちは~。喫茶 めいどの
『は~い。今開けます~』
数秒して、扉が開いて香織さんが現れた。
香織さんはみな先輩に「落合さん、今日もよろしくお願いします」と挨拶をする。
そして私の方を見て「あぁ、今日はあなたも。よろしくお願いしますね」と言った。
私は「はい。しきと申します。よろしくお願いします」と頭を下げる。
「ではとりあえず、昨日の続きからしましょう。どうぞ」
そう言って、香織さんは家の中に入っていった。
私達は「お邪魔します」と言いながら、中に入って靴を脱ぐ。
そして、キッチンへと向かう。
キッチンでは娘の美花さんが既に準備をしていた。
「美花さん、こんにちは」
「落合さん。今日もありがとうございます。
…今日はあなたも」
「はい。しきと申します。よろしくお願いします」
私は美花さんにも自己紹介をして、頭を下げる。
一昨日はみな先輩しか行かない予定だから名乗っていなかった。
「さて…一応、にんにくは持ってきましたけど…」
「まぁ…とりあえずやってみましょう」
「そうですね」
そんな会話をしてから、みな先輩と香織さんは調理に入った。
昨日は中のチキンライスにいれるだいたいの隠し味などを試したらしい。
ウスターソース、コンソメ、マヨネーズ、醤油、味噌。
そして
にんにくだけ影山さんの家に無かったので、今から試すらしい。
ただ昨日、色々試した結果。
「違うのは中のチキンライスではなく、卵の方なのではないか」という結論に至ったらしい。
…私も自分の役目を果たさないと。
少し意識を集中して、家の中の気配を探る。
…確かに、凄く小さいけど気配がもう1つある。
でも調べるためには家の中を歩き回る必要がある。
私はきっかけをつくるために、同じく見学の美花さんに話しかける。
「あの。前にもお伺いしましたが、お爺様のレシピのメモとかはないんですよね」
「そのはずです。父親にも電話して聞いてみたけど、そんな話はしてないって」
ここはまぁ予想通り。
一昨日の夜にもないというのは聞いていた。
なので、本題はここから。
「お爺様の写真とかありますか?」
「ありますけど…何するんですか?」
「写真を見て、お爺様についての話をしていたら何か思いだすかと思って」
私のその言葉に美花さんの口から何とも言えない声が出る。
多分考えているんだと思う。
…今の発言で、私達が幽霊ってことバレないはず。
私がそう悩んでいると、美花さんが口を開いた。
「まぁ何もしないよりはいいかも。こっちです」
そう言って美花さんはキッチンからリビングへ移動する。
その背中に着いて行く。
案内されたのはリビングにある棚の前。
その棚の上にはたくさんの写真が写真立てに入れられて、並べられている。
「これです。これが父親で、これがおじいちゃんでこれがおばあちゃんです」
美花さんは家族5人で撮った家族写真を示してそう言った。
この写真から少しだけ気配がする。
私は美花さんと話をしながら、写真に意識を集中させる。
「落合先輩から聞いたんですけど、お爺様って料理人だったんですよね?」
「はい。料理人として働いてたんです」
「どんなお店だったんですか?」
気配が薄い霊と会話するなんて初めてだし、しかも私は実体だから上手くいくかわからない。
たぶん霊体に成ってした方が早く、確実にこの気配が薄い霊との会話ができるはず。
でも、美花さんと香織さんがいる以上それはできない。
私達が幽霊なことがバレてしまう。
幽霊になってから影山さんの家に入ればいいのかもしれない。
でもそれは不法侵入になるからやりたくない。
…幽霊に法律は適応されないと思うけど。
なので私は頑張って実体のまま、霊に向かって「あなたは誰ですか」と問いかけ続ける。
すると突然、頭の中に映像が流れ始めた。
見えるのは、クローゼットの中にある段ボールだろうか。
『レシピを、香織さんや美花ちゃんに伝えてくれ』
その声を最後に、映像が途切れた。
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