第5話 武器選び
試験を終えた陽翔は、足取りも軽く冒険者ギルドの扉を押し開けた。
いつもと同じカウンターの向こうに、受付嬢セリアが立っている。彼女は陽翔を見つけると、少し驚いたような顔をしたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「おかえりなさい、陽翔さん。試験結果ですが……おめでとうございます。合格です」
セリアは一枚のカードを差し出す。それは青銀色に輝き、中央には「D」の刻印。
「……Dランク?」
「はい。普通はFから始まりますが、ギルドマスターの判断で特例です。実力を認められた証ですよ」
陽翔はカードを手に取り、その冷たい金属の感触を確かめた。
「ありがとうございます」
少し間を置き、陽翔はふと思い出す。
「そういえば、森で狩った魔物って売れますか?」
「ええ。ゴブリンは一体一銅貨、オークは一銀貨、ウルフは一小銀貨、ホーンラビットは一小銅貨ですね」
「じゃあ……」
陽翔はカバンを持ち上げ、口を開く仕草をしながら、背後に伸びる影に指先を滑り込ませる。闇がわずかに揺れ、その奥から討伐部位を取り出した。ゴブリンの耳、オークの牙、ウルフの毛皮……。
机の上に並べられたそれらは、カバンに入りそうな量に見えるが、実際は影の中から引き出した戦利品だ。
セリアは一瞬だけ不思議そうな表情をしたが、すぐに査定に取りかかった。
「結構な数ですね……」
銀貨や銅貨の計算を始める彼女を横目に、陽翔はギルドの壁に貼られた依頼書に目を移した。
そこに、一枚の紙が目を引く。
――森にあるゴブリンの集落を調査し、可能なら少し討伐せよ。
その瞬間、胸の奥でざらりとした感覚が走った。
『……ゴブリンの集落か』
カゲロウの声が低く響く。
「知ってたのか?」
『多すぎるとは思っていたがな』
「分かってたなら先に言ってよ」
『まだ、お前の体に馴染んでないのだ』
言葉を交わした直後、セリアが戻ってきた。
「換金額は……銀貨七十枚です」
机の上に積まれた銀貨は、光を反射してきらりと輝く。
陽翔は視線を依頼書に戻し、改めてセリアに告げた。
「この、ゴブリン集落の依頼……受けます」
「分かりました。ですが、これは危険度が高い依頼です。調査が目的ですから、無理な戦闘は避けてくださいね」
依頼を受け取り、陽翔は銀貨を袋に収めてギルドを出た。
外に出ると、カゲロウがすぐに口を開く。
『拳だけでは限界がある。そろそろ、自分に合う武器を探せ』
「武器か…短剣じゃダメなのか?」
『お前の身体強化と合わせれば、もっと効率的に戦えるものがあるはずだ』
陽翔は小さく息を吐き、街の通りを見渡す。武器屋の看板が視界に入り、自然と足がそちらへ向かっていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
陽翔は石畳を踏みしめ、通りの奥に構える武器屋の扉を押し開けた。
中は油と鉄の匂いが混ざり合い、壁には剣、短剣、槍、弓、ハンマーが所狭しと並んでいる。カウンターの奥から、がっしりとした体格の店主が顔を出した。
「おう、新顔だな。今日は何を探してる?」
「自分に合う武器を探してます」
店主は顎で奥を指す。
「なら、いくつか試してみな」
まず手に取ったのは剣。重心がやや先にあり、振り抜くと力強いが、陽翔の体には微妙に重く感じた。
短剣は軽く、素早い動きには向いていそうだが、拳に慣れた自分には少し心許ない。
ハンマーは一撃の破壊力は凄まじいが、振りの遅さがどうにも合わない。
弓も引いてみたが、筋肉の動きにしっくり来ず、的に当たっても手応えが薄かった。
『どれも悪くはないが……まだしっくりは来ないか?』
カゲロウの声が脳裏に響く。
「そうだね、他には何があるかな…ん?」
陽翔は店内を見回すうち、棚の隅に置かれた一本の刀に目を奪われた。
持ち手は黒地に赤い布が斜めに巻かれ、刀身は根元から先に向かって赤から金へと燃え上がるようなヒートグラデーションを描いている。鞘は黄色と赤が混ざり、夕焼けを閉じ込めたような色彩だった。
「これは……」
手に取った瞬間、わずかに掌が熱を帯びる。鞘から半分だけ抜き、試し切り用の木製人形に向かって一閃。
空気を裂く音と共に、人形の首が音もなく転がった。
腕に、背中に、そして魂にまで馴染むような感覚が広がる。
『……魔力を帯びているな。間違いなく、ただの刀じゃない。魔剣の類だろう』
カゲロウの声は、いつもよりも慎重だった。
「これにします」
陽翔は店主に刀を差し出す。
「ほぅ、それか。見た目ほど高くないぜ。銀貨五枚だ」
予想外の値段に、陽翔は思わず瞬きをした。
「安くないですか?」
「昔の仕入れ物でな。扱える奴がいなかった。眠らせとくよりは、使ってくれる方がいい」
陽翔は迷わず銀貨五枚を差し出し、刀を腰に提げた。柄に触れるたび、脈打つような魔力の波が指先を包み込む。
店を出た瞬間、カゲロウが低く告げる。
『その刀……お前と相性がいい。きっと長く使うことになる』
「じゃあ、このままゴブリンの集落に行くか」
街の門を抜け、森の緑が視界を覆う。昼下がりの陽光が木漏れ日となり、刀の鞘を黄金色に照らしていた。
小道を進みながら、陽翔は腰の刀に手を添える。試験の時とは違う、奇妙な高揚感が胸の奥に芽生えていた。
やがて、森の奥から小さな足音と、耳障りな笑い声が聞こえてくる。ゴブリンの匂いが、風に乗って近づいてきた。
『行くぞ、陽翔。調査だけじゃ終わらせない方がいいかもしれん』
「分かってる。でも、まずは集落の位置を確認だ」
刀の柄を握り直し、陽翔は木陰から音のする方へと静かに歩を進めた。
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