閑話 とある腐女子の攻略日記・四十院礼司編
千悠斎「礼司、お前はもう帰りなさい、退学手続きは私が済ませておく」
礼司さまが・・・退学?
そんな、どうして・・・家庭の事情?しきたり?・・・一瞬のうちに色々な事が脳裏をよぎる。
ううん、そんな事はどうでもいい、気にしてなんていられるか。
もう迷わない、私の身体はとっくに動き出していた。
葵「ちょっと待ってください、いきなり退学だなんて酷いと思います!」
千悠斎「なんだね君は・・・」
葵「私は一年葵、礼司さまの・・・友達です」
千悠斎「一年・・・知らない名前だな、うちの家の事情だ、口を出さないでもらおうか」
葵「く・・・」
礼司さまから聞いていたけどなんて迫力、優しいうちのお父さんとはえらい違いだ。
さすが家元ってだけあってすごい貫禄だよ・・・でも負けるもんか。
礼司さまがいてくれたからここまで来れたんだもの、今度は私が礼司さまを助ける番だ。
葵「私は本年度の『Monumental Princess』、この姫ヶ藤学園生徒の代表として見過ごせない問題だと判断します」
千悠斎「・・・」
それを聞いて千悠斎さんの表情が変わった。
そうだ、今の私はただの庶民じゃない。
礼司さまと共に勝ち取った、このドレスが私に力を与えてくれる。
葵「千悠斎さんが何に腹を立てているのか知らないけれど、本人の意思を無視して退学させるのが四十院流の作法とはとても思えないです」
千悠斎「小娘が、知った風な口を・・・」
葵「知ってるよ、礼司さまからたくさん聞かされてるもの」
千悠斎「ふん・・・どうせ堅苦しいだの古臭いだの愚痴ばかり言っていたのだろう、まるであてつけのように紅茶研などと・・・」
葵「そんなことない、そんなことないよ!」
礼司「・・・葵さん」
葵「・・・たしかに愚痴を言う事もあったけど、礼司さまの中には四十院流の心がしっかり息づいてるよ」
千悠斎「周囲に女生徒を侍らせ、紅茶なんぞに現を抜かしておいて何が四十院の心か」
遠巻きにチラチラと様子を伺う女性徒達をいまいましげに睨みつけながら千悠斎さんがつぶやく。
それじゃまるで礼司さまが女の子にだらしないみたいな・・・でも千悠斎さんにはそう見えているのかも。
『お堅い名門校に通わせたつもりがとんでもない不良になってしまった』・・・そういう気分なのかも知れない。
葵「礼司さまは庶民の私にも分け隔てなく接してくれた、流也さまや二階堂さんみたいなすごい家の人達とも同じように・・・それって、四十院流にある・・・」
千悠斎「茶の道に貴賤なし・・・競い合うように高価な茶器を買い求め、贅を尽くした大名達に嫌気が差した初代が町民相手に茶会を開いたという逸話か・・・そこまで考えて始めた部活動だと」
さすがにそれはわからない、礼司さまは息抜きのようなものだって言っていたし・・・
でも千悠斎さんからはさっきまでの威圧感が和らいだような・・・なんか聞く耳を持ってくれたような気がする。
葵「いつだって礼司さまは皆の事を考えて動いてる、礼司さまがいなかったら防げなかったトラブルはたくさんあるよ・・・ここにいる女の子達だって、そんな礼司さまを慕って集まってきたんだ、決して礼司さまが口説いて回ったわけじゃ・・・」
礼司「もういいよ葵さん、これで涙を拭いて・・・」
葵「え・・・」
ハンカチを差し出されて、ようやく私は涙を流していた事に気付・・・あ、膝の力が抜けてく・・・
礼司さまはそんな私を支えるようにして下がらせ、千悠斎さんから私を庇うように間に立つ。
彼がが今どんな表情で千悠斎さんと向き合っているのか、それが後ろからでもわかるくらいに礼司さまの言葉は力強さに溢れていた。
礼司「父さん、もし僕がこの学園に通うべきではないと父さんが判断するなら僕は従います、だけど1週間・・・・1週間だけ時間をください」
千悠斎「1週間?」
礼司「1週間後、僕はここで茶会を開く・・・そこで今の僕を、僕がこの学園で学んだ全てを確かめてほしいんです」
_____________
「・・・よし」
画面の前で、私は小さくガッツポーズをした。
礼司ルートに分岐があることは知っていたけど、その条件がはっきりしてなくて・・・
3回のリトライの末、ようやくこの緑茶ルートに入れたのだ。
さすが『Monumental Princess』単純な選択肢だけで分岐してくれる温いゲームとは一味違う。
えっと・・・これはたぶん主人公の美術のパラメータ説が可能性高そうだな。
後で攻略サイトさんに報告しておこうっと。
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