閑話 Princessに憧れて その2

ジリリリリリ・・・

けたたましく鳴り響く目覚まし時計の音が、私の意識を強引に目覚めさせていく。

今日は休日で、バイトも入っていない、涼しい朝の気温も心地良い。

まだ眠っていたい・・・そんな本能的な欲求を、この騒音は容赦なく打ち砕いていく。


ジリリリリリ・・・

このやかましい目覚ましを止めるべく、私は右手を伸ばした・・・でも手応えがない。

それもそのはずで、昨夜の私は目覚ましをいつもと違う位置に置いたんだ。

寝ぼけて目覚ましを止めたりしないように、絶対に寝坊をしないように。


そうだ、今日は大事な予定があるんだ・・・

慌てて飛び起きて支度をしていると、隣の部屋からお父さんが起きる気配を感じた。

・・・あれだけ目覚まし時計がなっていたら起きるよね、悪いことしたなぁ。


「ごめんなさいお父さん、すぐ朝ご飯作るね」

「今日はお友達の誕生会なんだろう?朝ご飯くらいは僕が作るよ」

「ダメだよ、お父さんの料理とか食べ物じゃないもん」

「う・・・そこまで言わなくたって僕にだって得意料理の一つくらい・・・」

「いいからそこでもう少しだけ待ってて!」

「で、でも・・・」


まだ何か言おうとするお父さんだけど、私も引き下がる気がない。

うちの台所は私の領土だ、お父さんみたいな素人を立たせるわけにはいかない。

だいたいお父さんの得意料理ってマヨ丼だからね。

ご飯にマヨネーズをかけただけ、みたいなものを料理とは言わないよ。


冷蔵庫には昨日の夕飯の餃子を作った余りの挽き肉が入っている。

朝ごはんはこれを使ってオムレツにするよ。

風味付けにカレー粉を少し混ぜて・・・甘口のカレー粉は料理に深みを与えてくれる万能の調味料だね。

ついでにこの挽き肉で麻婆豆腐も作っておく・・・これはお父さんのお昼ご飯用だ。


「出来たよ、お父さん」

「ああ、ありがとう葵・・・いただきます」

「いただきます」


焼きたてのオムレツはふっくらと柔らかく・・・うん、良い出来だ。

お父さんも私も、食べている最中はあまり喋らない。

親子二人で静かに食べる朝食・・・これが一年家(我が家)の朝の風景なんだ。


「ごちそうさま」

「はい、おそまつ様です・・・じゃあ私はそろそろ出掛けるね、夕飯の時間には帰って来るつもりだけど・・・」

「せっかくの誕生会なんだから時間は気にしないで、ゆっくりお友達と楽しんでおいで」

「うーん、そうは言ってもなぁ・・・」


なんてったってあの二階堂さんのお誕生会だからね。

私みたいな庶民は、浮いちゃって居づらい雰囲気になりそうな気もするんだよ。


静電気のパチパチを感じながら、ファッションタウンしましま村のしましまセーターを羽織る・・・これでも手持ちの中で一番上等な私服だ。

みんなドレスとかタキシードとか着て来るのかな・・・いいなぁ。

用意したプレゼントの包みと、パンパンに膨らんだスーパーのビニール袋を一つ・・・中身はみんなと作った誕生会の飾りだ・・・を抱えて、玄関のドアをよいしょっと・・・


「行ってらっしゃい、気を付けて」

「うん、行ってきます・・・あ、お父さーん、麻婆豆腐を冷蔵庫に入れておいたからお昼に食べてね」


閉まる玄関口に向かって声をかけながら、私は待ち合わせの場所に向かう。

今日は二階堂さんのお誕生日だ、少しは仲良くなれると良いなぁ。

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