第一傷初めて、初めての裏垢男子と鐘 第12話

 翌朝、いつもより早い時間に席に着くと零からラインが来た。

 今度はちゃんとマナーモードにしてある。机に隠しながら、通知をタップする。


≪バドミントンの試合の場所と日時教えて)


――市役所の近くの体育館で、五月の憲法記念日の日。朝九時半からだよ、っと。


 そう送ると、同時にきいろが席に着いて、話しかけてきた。

 肩をポンと叩かれる。

 さっとスマホを机の中にしまう。


「おはよっ、今日早いね」


「あっ、うん。叔父さんに送ってもらったんだ」


「何見てたの? 沙々がスマホいじるなんて珍しーじゃん」


――しまった。見られてたか。


「お母さんに朝の薬飲んだかって」


「そっか、沙々って忘れっぽいからねー」


「そんなこと無いって。きいろより頭良いよ」


「そうだけどー、日常生活だったらわたしのが頭良いよ。家事ならお任せ」


「料理以外だけどね」


「もーそれは言わない約束でしょ‼」


 きいろの学力は中の上くらい。何でもできるように見えるが、実は料理だけが壊滅的にできない。

 細かい作業が苦手という訳ではないが、料理ではなく錬金術をしてしまい、変な飯――いやゲテモノが誕生するのだ。

 なので、きいろには料理実習はさせてはいけないというささやかれていた。

 きいろは後片づけ担当がお決まりである。


「あーあー、新しいクラスだから、そのこと説明しなきゃなー」


 きいろが頭を抱えている隣で、沙々はクスクスと笑っていた。


 机の仲でスマホに零からの通知がひっそりと来ていた。


≪大会楽しみだね。次保健室来て。試合の日までに全部の傷治しちゃお✊)


 それを見た沙々は目を剝いた。さーっと顔色が悪くなっていく。


――また呼び出された。次はどんな口実で行こうか……。


「どしたん? 体調悪そう」


 きいろが沙々の顔色をうかがう。

 それを防ぐように手で顔を隠した。

 沙々は顔より手の方が大きいので、綺麗に顔が隠れ動揺している様はバレていないようだ。


「ご、ごめん。ちょっと保健室行って来る。体調が優れないって先生に伝えといて」


「うん、任せて」


 一限の担当科目の教員には沙々の身体についてまたそこまで理解されていないが、きいろはあつい信頼を得ているので仮病を疑われることはないだろう。

 益々、きいろに頭が上がらない。

 だが、それを不正に利用しているのが罪悪感の意識を刺激する。

 申し訳なく思いながら、保健室へ体調が悪そうに屈みながら向かった。


 保健室に入ると、また巡回中の看板が出ていた。カーテンが一つだけ閉まっていたのでそこを是非を問わず開けた。


「太刀川さん」


 ベットには爆睡している零がいた。

 すーすーと気持ちよさそうに寝息を立て、沙々の呼びかけに反応する様子は見せない。

 仕方なく、布団を引っぱてずらす。

 

 そこで沙々は目を瞠った。

 焦って布団を元に戻す。

 ――零は下半身、裸で、布団に下着とスカートが巻き付いていたのだ。


 沙々はなかったことにしようと、カーテンから出ようとした。

 すると突然布団から手が伸び、その手に掴まれた。


「……太刀川さん、起きた?」


「最初からずっと起きてたよ」


 白々しい零の反応に沙々は沈黙する。


「見たでしょ。わたしが下履いてないの。なんでだと思う?」


 真顔で問い詰める形でそう問われた。

 沙々は黙りこくっている。


「ねえ…。。なんとか言ってよ。わたしを助けて……」


 今にも泣きだしそうな潤んだ声に沙々はようやく口を開いた。


「……何があったの?」


 零の顔を覗き込んだ。手で両目を覆っており、表情が読めない。


「見たら分かるでしょ……?」


 零が沙々の腕を掴んだ。


「……ごめん、分からない」


 歯切れ悪く沙々は謝り、もう片方の手で、近くの丸椅子を手で引き寄せて腰を下ろす。

 本当に何があり、何から助けてほしいのか沙々は察しがつかないかった。


「ゆっくりでいいからさ、事情を話してくれないかな。そうじゃないと助けようもないよ」


「手、放してとか言わないの? 嫌でしょ、穢れた手なんて」


「穢れてる……? どうして?」


「――まこと」


「え?」


戒田真カイダ マコトに手を出されているの……」


 零は振り絞るように言った。




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