第17話 子育ての共感
母親の休息は気持ち的に余裕が出たようだ。それは、夜営業の時のアッシュという冒険者の反応で分かった。
「おやっさん! うちの妻が感動してました! 本当に、ありがとうございます!」
頭を下げるアッシュさん。
「俺は、料理を出しただけさ。子供を見てくれたのは、昨日いたアオイだし。奥さんの話を聞いてくれたのはそこのサクヤだよ。俺は何もしてないさ」
その言葉を聞くとサクヤの元へと駆け寄り、お礼を言っていた。サクヤは何事かという顔で驚きながらも会釈をしている。
戻ってくると改めて向き直った。
「おやっさん、でも、おやっさんの言葉が胸に染みたらしいんですよ」
「そうなんですか?」
「えぇ。なんて言ったんです?」
「いやぁ。覚えてないですねぇ」
頭をかきながら苦笑いを浮かべてしまった。俺が言ったのは「ゆっくり、味わって食べな」だけだ。それが嬉しかったのだろうか。
まぁ、あまり味わって食べることもなかっただろうから、嬉しかったのだろうか。
真相は、その奥様にしかわからない。
「そんなによかったんだ? ウチの嫁にも言ってみようかな?」
「いいんじゃねぇ? さっき、一回帰ったら上機嫌だったよ」
「おやっさん、ウチの嫁にも話してみていいですか?」
アッシュさんの隣の冒険者も興味をもってくれたみたいだ。
興味を持ってもらえるのはありがたい。
輪を広げていきたいと思っているから。
「はい! かまいませんよ!」
「ありがとう。じゃあ、ウチの嫁にも言ってみます!」
◇◆◇
次の日の昼営業の後、子供たちの他にアッシュさんの奥さんが訪れた。そして、もう一人。昨日話していたであろう冒険者の奥様。
「ウチの旦那、酒飲んで帰ってきて子供のこともしてくれないのよぉ?」
「それは、ウチのですよぉ。偉そうに俺が稼いでるんだからとかいって」
「そうそう! 誰が命張って稼いでると思うんだ、みたいなさぁ」
「ですよねぇ。こっちだって毎日毎日、子供と向き合って休む暇もないっていうのに!」
「ホントよねぇ⁉ アイツらに子供預けてみようかしら!」
「それは、いいかもしれないですね!」
奥様同士で話が盛り上がっているようだ。子供たちは、アオイとサクヤが見てくれている。その分も給金を出そうかと進言した。
だが、お世話になっているからこれくらいは給金なんていらないという。むしろ、いつもが貰いすぎて余裕が出てきたんだとか。それは俺が嬉しくなった。
あの二人が好きに使えるお金が増えるなら、それは嬉しい。
「リュウさんは、お子さん沢山いるんですか?」
「いえいえ。このイワンとリツは、アオイとサクヤが一緒に暮らしているんです。ミリアは、生活環境があまりにも酷いので、私が引き取った子なんですが。自分の血がつながった子供はいません」
その言葉に奥様達は顔を曇らせた。
「あの子達、まだ若いのに……親は?」
「あの子たちの親は、一昨年のスタンピートで亡くなってしまったようで……」
「そうなの。苦労しているのね」
二人の奥様は下を向くと目に涙を溜めていた。
「サクヤちゃんでしたっけ? いい仕事につけなくて、満足に食事を与えられなかったって言っていましたけど、そうなんですか?」
「そのようですねぇ。二人とも、一日働いて小硬貨一枚だったそうです。その上、サクヤは身体を触られても文句を言えないような労働環境。アオイは暴力を振るわれて脅されていたそうです」
「それは……辛いわね」
二人の奥様は、涙を流してしまった。
話さなくていいことを話してしまったかな。
そんなことを思っていた。
「私たちに何かできることは、ないものでしょうか?」
あの二人に何ができるだろう。
俺は、助けてもらってばかりだ。
少し二人に休んでもらい、リフレッシュしてもらいたい。
「俺は、スイーツに詳しくないんです。あの二人には、甘いものを食べさせてあげたいんです。どこかしりませんか?」
「あっ! それなら、街の奥に美味しいパフェと呼ばれるスイーツがあるって聞きました!」
「もしよかったら、その店の情報をサクヤとアオイに教えてあげてもらえませんでしょうか」
「もちろんです! これで、恩返しができます!」
アッシュ奥様は、嬉しそうにそう口にした。
一緒にいた奥様も、笑顔を咲かせた。
このこども食堂は人を笑顔にしたいのだ。
「お二人とも、今はお二人だけの時間をお楽しみください」
「有難う御座います。本当に、リュウさんの言葉は、心に染み入ります」
そう言ってもらえると俺も嬉しい。
「俺は、料理を提供することしか能がありませんよ」
「そんなことありませんよ。リュウさんの優しい言葉には、癒されます」
アッシュ奥様ともう一人の奥様から感謝され、俺の心も満たされていく。
何より、二人の奥様の楽しそうな顔。
心なしか、アッシュ奥様の肌艶が違うように感じる。
やはり美味しいものをしっかり食べると、肌艶がよくなるのだなと嬉しくなった。
その後、奥様二人は夜営業が始まるまでの間、ずっと話続けていた。
夜営業が始まることを告げると、満足したように笑顔で帰っていった。
奥様方は、子育てに関して同じような経験をしている。もしくは、現状で同じように経験中の奥様もいるかもしれない。その相談をできる人、現状の大変さを一緒に語れる人が必要なのではないだろうか。
日々の子育ては子供が大きくなるまで続く。
そんな時、こういう場所があるといいのではないだろうか。
人に相談できる、共感される場があると、救われると思う。
こうして人の『わ』は繋がっていく。
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