この世界めんどくさくてキモくてだるくない??〜ゴミカス天使ヤバエルと送るハートフルでピースフルで誰よりも自由な日常〜

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第1話「撫子とゴミカス天使」

撫子なでしこさん〜〜!! 聞いてください〜〜〜!! さっきすごく不愉快な出来事があったんです!!」


「今忙しいから無理」


 ソファに寝転がって仰向けでスマホを見ていた私は、自分に投げかけられた声に冷たく返し、スマホ画面に映る自分の姿に意識を向けた。


 3日前に美容室で切ったもらったばかりの黒髪は胸元あたりで綺麗に切り揃えられていた。毛先を指でいじって弄ぶ。


 ミディアム初めてだったけどやっぱ良い感じ。美人度高まったかも。前髪と毛先だけ整えて自撮りしよ…………いや待って。右ほっぺニキビできそーじゃん……最悪すぎる。昨日の夜チョコ食べたからかな。


 私が自分の顔をじっくり観察していると不服の声が飛んできた。


「話を聞くくらい良いじゃないですかぁ! それに嘘はよくないですよ! 撫子さんが今日は大学の授業もバイトもなくて、すっごく暇だという事は知っているんです! だから話を聞いてください! 話を!! 聞いてください〜〜!!!」


「…………ちっ」


 どうやら話を聞いてくれるまでは騒ぐつもりらしい。

 それを悟った私は体を起こすと彼女の方へと視線を送った。


 視線の先にいるのは圧倒的過ぎる容姿を持つ美少女だ。

 長く伸ばしたピンク色の頭髪。胸は大きく膨らんでいて、腰はキュッと引き締まり、お尻は張りのある膨らみを誇る。


 極め付けはその顔だ。

 AI生成は彼女をモデルにしてるのはないかと思うほどの、あまりにも可憐でキュートでパーフェクトな顔の造形。


 完璧に配置された顔のパーツは女子なら誰もが羨望を覚えるだろう。

 瞳は二重でパッチリとしていて、コバルトブルーの瞳は宝石のように魅惑的だ。鼻の高さも口の形も全てが美しい。


 正直言って私も羨ましさと嫉妬で死にそう。


 私見だがおそらくこの世界で5本の指に入る可愛さだと思う。


 さらにこの美少女はただの人間ではないのだ。


 なんと彼女の頭には光の輪が浮かんでおり、背中には小さな羽が生えているのである。


 何かのコスプレだと思う?

 ううん、実はこれ本物。


 信じられないと思うけど、この子は天界から舞い降りた天使。

 名前はヤバエルだってさ。


 そんな絶世傾国の美少女天使であるヤバエルは不機嫌そうにぷくーっと膨れている。


「……それで。何を聞いて欲しいの?」


 私がダルさ全開の声で美少女天使ヤバエルに問いかけると、彼女はムスッとした表情で話し出した。


「はい! 今朝の事なんですけど……いつものようにケンタッキーに突撃して、お肉を貪る愚かで間抜けで低知能のイエローモンキージャパニーズにお野菜の素晴らしさを説くという日課をこなしていたのですが」


「おい待て。出だしからフルスロットルで畳み掛けるな」


「なんと! その中の一人が反論してきたんです! しかもこんな酷い事を言うんですよ! 『うるせーな! 迷惑なんだよ!! 誰が何を食べようと自由だろうが!! 思想を押し付けんな!!』って!! しかも男がですよ!? キモすぎませんか!? 不潔で臭くて気持ち悪いゴミ側の劣等性別が口を開かないで欲しいですよね!?」


「何一つ同意できねーよこのクソフェミヴィーガンが。私は鳥肉が大好きだし、男も普通に恋愛対象じゃボケ。2度と喋んな。顔が良いだけのゴミカスが。蹴り殺すぞ」


「えぇぇぇぇ!!? 悪口エグすぎませんか!!? うわぁぁ〜〜ん! 撫子さんが酷い事を言います〜〜っ!!」


 私の言葉で泣き出したヤバエルに、特大のため息が漏れ落ちた。


 そう。

 こいつはいわゆる残念形美人といういにしえの代物なのだ。

 

 残念にも限度があるとは思うが、とにかくこいつはもう本物のゴミなのだ。メインヒロインが他人に迷惑かけるタイプのヴィーガンで過激なフェミニストって。


 文句はいくらでもあるが1番の文句は

 このゴミカス天使が私の隣の部屋に住んでやがる事だ。


 マジで引越して欲しいのに、色々あって懐かれてしまって、毎日のように私の部屋に遊びにくるようになった。だるすぎる。


 ちなみにだが、大学に通うために地方から都会に出てきた私はこのマンションで絶賛一人暮らし中だ。


 大学に通い出して早1年。

 入学時は不安もあったが今は大学もそれなりに楽しく過ごすことができ、一人暮らしもすっかり板に付いてきた。


 そんな時に……

 このゴミカスが隣に引っ越してきて私の生活はストレス一色に変貌した。


 どれだけ私が拒んでも意味がない。

 家の鍵を全て閉めて徹底的に無視をしても、天使が使える魔法とやらで壁を貫通して私の部屋に侵入してくる始末だ。


 正直言って迷惑の極みである。


 私は再びスマホの画面に視線を向けた。


「話せて気が済んだでしょ? もう帰って。そして2度と来るな」


「どうしてそんなひどい事を言うんですかぁ!! わたしと撫子さんはお友達じゃなかったんですか!?」


「私の友達に焼却予定の廃棄物はいない。つまりお前は友達ではない」


「うぅぅ……ひどさが限界を超えてますよぅ……分かりました……今日はもう予定があるので一旦帰ります……」


 予定、という言葉に私の正義心が反応する。

 こいつのやる事となす事は真っ当な事じゃない確率が高い。


 ちょっと一発言っとくか。


「ちょい待って。ねぇ……ヤバエル。まじで他人に迷惑かけることだけはやめなよ? どんな思想持ってても良いけどね、他人に実害出し始めたらアウトなんだよ? 多様性は押し付けるものじゃなくて理解し合うものなんだからね」


「大丈夫です! 誰にも迷惑はかけませんから!!」


「そ。それならいいや。永久にばいばい」

「縁を切ろうとしないでくださいよぅ!! むぅ…………っ。あ、そうだ! 撫子さん、明後日とか空いてますか?」


「…………何の誘いかを先に教えて」


「はい! 実は明日ディズニーランドに行って限定商品を買い占めるんですけど、それをメルカリで売らないと利益が出ないんです! なのでその出品手続きに協力してもらえないでしょうか?? もちろんお礼は弾みますよ!! いっぱい稼げますから♪」


「………………明後日は予定あったわ。呼吸で忙しいから無理。そして死ね」

「呼吸で忙しいってなんですか!!? それに死ねはひどいですよぅ!!! うわぁぁあああん!!」


 ごめんみんな。

 さっき私はこいつを迷惑系ヴィーガンで過激フェミニストだって言ったけどもう一つ忘れてた。


 こいつ転売ヤーなんだった。


 史上最悪の3アウト決めちゃったんだわ。


 みんな待っててね。

 いつか絶対に痛い目合わすからこいつ。

 

 

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