第16話 好みと適性
演習フロアでママたちを待つこと15分。
書類の作成を終えた2人がやって来たことでようやく私達の第一試験であるヒスイさんたちとの模擬戦が開始されようとしていた。
『さて、それでは模擬戦を始めたいと思いますので、両チーム所定の位置に付いてください』
模擬戦を行うだけでなくその観戦さえも訓練になるということで戦闘を行うフロアを囲むように特殊なガラスで遮られた2階の観覧席が設けられており、その一角に設置された放送席と呼ばれるらしいブースでチェルシーさんが特殊な魔道具によって増幅された声でそう合図を送る。(因みにママとジークムントさんはチェルシーさんと同じ放送席から私達の戦いを観戦するようで、試験とは関係なくこの戦いの噂を聞きつけたのか観覧席にも何人かハンターの人達が見学に訪れているようだった。)
「マリア」
「ああ、分かっておる。どんと任せるのじゃ!」
ママたちが来るまでの間、私とマリアは事前に対ヒスイさん、コハクさん用にどういったスタイルで戦うかを話しあっていた。
そうして最初に出た案は、2人がどちらも刀を装備していることからおそらくどちらも前衛型だと判断し、更には感じる気配からヒスイさんよりもコハクさんの方が実力は上だと判断した私達は私が魔術を使って全力でコハクさんを足止めし、その隙に私より強いマリアが全力でヒスイさんを倒して合流するという作戦だった。
しかし、当然ながら私達の読みが間違っている場合、例えば2人が得意な戦法が魔術戦だった場合は魔術を使うことができないマリアはいくら優れた身体能力を持っていると言っても搦手であっさりやられてしまう場合もあるし、本当はコハクさんよりもヒスイさんの方が強かった場合はマリアが勝てない、もしくは勝てたとしても時間がかかって私が耐えきれずにコハクさんにやられてしまう可能性もある。
それに、私とマリアの見立てが間違っていなければそもそもヒスイさんの方がコハクさんよりも若干実力が劣るとしても、私達よりは上で辛うじてマリアの実力であれば勝ち目があるかも知れないと言ったところなのではないかと考えている。
だからこそ今回、私達は普段好んで使用する戦術とは全く異なる戦い方で少しでもヒスイさんたちに喰らい付く方針を取ることにしたのだ。
そもそもこの模擬戦は別に勝ちにこだわる必要はない。
確かに、何の力も示せずにあっさりと敗北してしまうのならば論外と言うことで次の試験へ進むことなどできないだろうが、そもそもこの試験で戦う相手は若手の中でも実力を認められており、なおかついつ中級に上がっても可笑しくないほどの力を持った初級の中でも指折りの実力者が試験官を務めることになっているのだとチェルシーさんが教えてくれた。
そのため、いくら上級以上のハンターが推薦する実力者と言えどほぼ勝機の無い戦いなのでその勝敗はさほど重要視されないらしいのだ。(だが、試験官を務めるハンターはこの試験の内容次第で中級への昇格が掛かっているので、分かりやすく自分たちの実力をアピールできるこの模擬戦で手を抜くことは絶対に無いらしい。)
『両チーム、準備は整いましたか?』
チェルシーさんがそう尋ねると、数メートル先で横並びに立って刀を構えているヒスイさんとコハクさんは同時に「大丈夫です」「大丈夫よ」と返事を返し、対して大斧を構えるマリアを先頭にその数歩後ろにいつも使用しているショートブレードよりさらに小さな短剣を両手に装備した私はお互い目線で合図を送った後に「こちらも大丈夫です」「いつでも行けるぞ!」と返事を返した。
『それでは最後に模擬戦のルールを再度確認します。今回の模擬戦は2対2のチーム戦で行い、どちらかのチーム全員が戦闘不能となった時点で終了となります。なお、武器は相手の魔力防壁を突破して致命傷を与えないよう事前に術式を付与してあり、フロア内で発動する魔術も全て非殺傷レベルまで減衰していますので本人が戦闘続行を申し出たとしても本来ならば致命傷でもおかしくないダメージを受けたとこちらが判断した場合はその時点で脱落とさせていただきます。以上で説明は終わりますが、ご質問等はありませんか?』
その問いかけに、私達四人は無言で首を左右に振ることで質問や異議がない意志をチェルシーさんへ伝える。
『それでは只今より、戦力試験を開始します。……戦闘、開始!』
その合図が聞こえた直後、マリアが大斧を構えながら正面の2人に突っ込むのと同時に私はその背中へママとの訓練でも使ったのと同じ爆破魔術を発動し、一気にマリアの動きを加速させる。
更にそれと同時にヒスイさんとコハクさん、それにマリアの大斧に向けて重力魔法を発動することで敵への阻害と味方のサポートを同時に行ったのだ。
本来、私達の戦い方は私もマリアも前衛として戦い、パワーのあるマリアが一気に敵の数を減らしながら私がサポートも兼ねて立ち回る、と言った戦い方を好んで使っている。
なぜなら、魔術が使えいなマリアが後衛に回ることは不可能なのは当然だが、英雄を目指す私は絵物語に出てくる主人公たちのように前衛として戦うことを好んでいるので自然とそう言った戦い方がスタンダードになっていったのだ。
だが、152.6cmと小柄(基本的に14歳くらいで女性は身長が伸びなくなり、162くらいが平均身長と言われている)なのに加えてどれだけ食べて身体を鍛えてもほとんど筋肉が付かない体質(その代わりに余程のことが無い限り太らないというメリットもあるが)なので基本的に剣士としての素質は低い方だ。
しかし、私は生まれ持った魔力量がかなり多い方らしくその魔力によって身体能力を向上させることで体格で不利な私でも十分前衛として渡り合うことができるのだ。
ただ本来なら無理やり素質が低い戦い方を魔力でどうにかするよりそもそも後衛で戦うことで身体強化ではなく魔術に魔力を回した方が圧倒的に強いのだろうが、残念ながら私は魔力量は多いものの魔力出力は並よりは上程度しかないらしい(鍛錬を続ければそれなりに延びる可能性もあるらしいが、基本的に生まれ持った才能に左右される部分らしいのであまり期待はできないだろう)ので、英雄譚に登場する大魔導士ような才能は見込めないのだ。
だからこそママは私に『一人で何でもできる
そのため、私は普段好んで使う剣以外にも様々な武器をそれなりの練度で扱うことができ、共に戦うメンバーや敵の戦術によってさまざまな立ち位置や立ち回りを取ることができるのだ。
「きさま等がどれほど強かろうと関係ない! 我が相棒のサポートがある限り、我の力でまとめて打ち取って見せよう!」
一瞬にして2人との距離を詰めたマリアが上段に大斧を構えた瞬間、それまで魔術により重力を軽くしていた大斧の重量を一気に増加させる。
それにより、普段彼女が放つ一撃の何倍にも増幅された一撃がヒスイさんとコハクさん目掛けて繰り出される。
だが、流石は私達と同じく特級ハンターの指導を受けて既に現役のハンターして活躍して経験を積んでいるだけあって、私の妨害などまるで気にする素振りも見せずにあっさりとその一撃を回避しながらコハクさんはマリアを、そしてヒスイさんは私を各個撃破する方針なのか二手に分かれた。
「させぬ!」
しかし、その対応も事前に予測していた私達は特に慌てることもなく、マリアの言葉を合図に魔力によって作り出した糸で体制が崩れていたマリアの体を無理やりこちら側へと引き寄せ、そのままマリアは私との距離を詰めようとしていたヒスイさんの胴体目掛けて大斧を振り被る。
そして、その一撃を回避するために後方に下がらざる得なかったヒスイさんは必然的に私との距離を離され、更にそこへ放たれたマリアの追撃をかわしたことで再びコハクさんの近くまで戻る羽目になるのだった。
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