05-4 オルガンふいご士の精霊術士と、教会の神子が出会う話 その4
ロビーを抜けると左右にはベンチ、正面には演台、その前に二人の人物がいた。一人は黒い衣装を着た偉そうな男、もう一人は白いローブを着た青白いウェーブヘアの少女、神子だった。呼ばれた老人が神子の前にひざまずくと神子は老人の頭に手をかざし、何やら光ったかと思うと、老人の表情が急に明るくなる。老人は神子に何度もありがとうございますと言い、ひざまずく前とは違った軽い足取りで聖堂から出ていった。奇跡を用いて体の痛みを取り除いたのだ。
そして気が付いた。その神子の側に精霊がプカプカと浮かんでいる。慌てて駆けつけようとすると、僧兵から静粛に、と諫められた。仕方なくベンチに座り、様子を見守ることにした。
精霊は神子に懐いているようだった。近くをフワフワ飛んだり、肩や頭の上に乗っかって休んだり。奇跡を施してもらった老人達は神子だけではなく精霊にも感謝を示しているようで、それに対して機嫌よさそうに「ピー」と返していた。めったに見られない、むしろ一生に一度お目にかかれるかどうかという珍しい存在なのだから、縁起物を見るようなありがたさがあったのだろう。
対する神子は、一言も声を出していなかった。何やら精霊の頭を撫でながら口を動かしているようだったが、声が全く聞き取れない。聞こえたのは隣にいる司祭が老人に指示を出す声と、「ありがとうございます」という老人達の声、それから精霊の鳴く声くらいだった。よく観察すると神子が司祭に耳打ちをして、司祭が「神子殿は養生せよと申しておる」などと本人の声を代弁しているようだった。
甲高い鐘の音が一回、大きく響いた。教会内の時刻合図である。この一回の鐘は夕刻のもので、教会関係者としては一日の勤めを終える合図でもあった。聖堂にいた皆に倣い、少年も両手を合わせて目を閉じる。目を開けると、
「ピー」
と、目の前に精霊が浮かんでいた。驚いてのけぞり、ベンチから転げ落ちそうになる。
「何だよ、脅かすなよ」
また鳴き声を上げると、今度は自分から鞄の中に潜り込んでいった。上機嫌な様子だった。
「少年よ、間もなくここを閉める。速やかに退出したまえ」
黒い服の司祭に言われたのですみません、と頭を下げて、駆け足で聖堂から退出した。振り向くと、神子と目が合った。正面から見ると若さと幼さの中間といった面立ちで、神秘的な雰囲気に惹かれてしまいそうだった。以前誰かから、神子は少年と同じ十四歳だと聞かされたことがある。神子が手を振る。少年も手を振り返して、帰宅の途に着いた。
(その5へつづく)
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