第26話 死神ノワールの再来

神殿の奥へと進むアルノたちの前に、再び暗黒の影が立ちはだかった。空気が急に冷たくなり、周囲の光がどんどんと吸い込まれていくような感覚が広がった。


「何か…来る。」

エリシアが魔法の杖を構えながら呟く。彼女の声には、かすかな緊張が漂っていた。仲間たちも同じように周囲を警戒し、武器を構えた。


そして、暗闇の中からゆっくりと現れたのは、かつてアルノたちが対峙した死神、ノワールの姿だった。彼の長く細い手足、裂けた口から覗く鋭い牙、そして背中に広がる黒い翼が、周囲の闇と一体化しながら静かに揺れていた。


「久しぶりだな、アルノ。」

ノワールが低く冷たい声で語りかけた。その声は、アルノの心に不気味な寒気をもたらした。


「ノワール…!お前はまだ生きていたのか。」

アルノは剣を握りしめ、彼に対峙する準備を整えた。だが、内心では、以前の戦いで自分たちが何とか逃げ延びたことを思い出し、油断ならない相手だと再確認していた。


「生きている? いいや、私は元から死んでいるのさ。だが、再びお前たちの前に現れた理由がある。」

ノワールが裂けた口を大きく開き、冷たい笑い声を響かせた。


「何を企んでいるんだ、ノワール?」

アルノが鋭く問いかける。彼の目には、仲間を守るという決意が浮かんでいた。


ノワールは彼の問いかけに応えるように、翼を広げ、その黒い羽根が空気を切る音が辺りに響いた。死神の姿は、以前よりもさらに不気味で強大な力を纏っているように見えた。


「お前たちには、まだわかっていないようだな。この神殿に眠るのはただの力ではない。ここには、かつて世界を二分した”魂の鍵”が封印されている。それを解き放つことができる者が、次の世界の王となるのだよ。」

ノワールが闇の中で静かに告げる。その声には、何か企んでいることが明白だった。


「魂の鍵…? それがこの神殿の真の力なのか…?」

シルヴィアが冷静に反応し、情報を整理しようとした。


「そうだ。そして、その鍵を手にする資格があるのは、俺か、お前たちのどちらかだ。だが、お前たちにその力を手にする覚悟があるのか? それを試させてもらおう。」

ノワールは一歩前に踏み出し、その黒い翼が周囲に広がる闇をさらに濃くした。


「俺たちは、お前のような者に負けるわけにはいかない!」

アルノは声を張り上げ、剣を振りかざした。その決意の炎が燃え盛る中、彼の仲間たちもまたノワールに立ち向かうべく準備を整えた。


「そうだな、ここで逃げるわけにはいかない。」

カレンが冷静に呟きながら前に進み出る。


「力を試されるなら、それに答えてやるまでよ!」

リリーも自信に満ちた表情で剣を抜いた。


シルヴィアは、魔法の力を込めた杖を掲げ、光の魔法を準備していた。彼女の瞳には、ノワールに対する警戒と覚悟が宿っていた。


「私たちは、この戦いで何も失わない。全員で生き残る。それが私たちの決意だ!」

エリシアが静かに言い放ち、彼らの背中を押した。


ノワールは翼を広げ、アルノたちに向けてその巨大な力を解放した。空気が震え、周囲の景色が歪む中、闇の刃が彼らに向かって襲いかかる。


「気をつけろ!一撃でも食らえば命を失うぞ!」

エリシアが叫び、全員がその闇の刃を避けるために散開した。


「俺たちは力を合わせるしかない!」

アルノが指示を出し、仲間たちがそれぞれの役割を果たすべく動き出した。


リリーが前線でノワールの攻撃を受け止めながらも反撃の隙をうかがい、カレンがその背後から援護射撃を行った。シルヴィアは魔法で彼らをサポートしながら、ノワールの力の弱点を探し出そうと試みる。


「どこかに必ず弱点があるはずだ…!」

シルヴィアは魔法を放ちながら、彼の動きを見極めようと集中した。


しかし、ノワールは強大で、闇の力を自在に操りながら、次々と強力な攻撃を繰り出してきた。アルノたちはその猛攻に必死に耐えながらも、仲間との連携を通じて少しずつノワールの力を削っていった。


「今だ、攻め込むぞ!」

アルノが叫び、全員が一斉にノワールに向かって最後の攻撃を繰り出した。


最後の攻撃がノワールに直撃し、闇の翼が大きく揺らいだ。彼の姿が一瞬揺らぎ、黒い羽根が散り始めた。しかし、ノワールはまだ完全には倒れていなかった。


「お前たち…ここまでやるとはな。だが、まだ終わりではない。この神殿の本当の力を解き放つ前に…お前たちの命は尽きるだろう。」

ノワールは笑いながら、再び姿を消し、闇の中に消えていった。


「逃げたか…。」

アルノは剣を下ろし、深い息をついた。


「まだ終わりじゃない。彼は必ず戻ってくる…。」

シルヴィアが警戒を緩めることなく、ノワールが再び現れる時を予感していた。


「次の戦いに備えよう。今度は必ず、奴を倒す!」

アルノは決意を新たにし、仲間たちと共に再び進むための準備を始めた。


---


神殿の奥深くに進んだアルノたち一行。道が狭まり、空気が徐々に冷たくなる中、彼らの周囲には静寂だけが漂っていた。だが、全員が感じていた——次に訪れる試練は、これまで以上に過酷で危険なものになるだろうという不安が。


「この先に何が待ち受けているんだろう…」

リリーが不安げに呟き、剣を握りしめた。


「警戒を怠るな、何が起こるか分からない。これまで通ってきた試練がすべて集結するかもしれない。」

カレンは冷静な声でリリーに答えたが、その目には緊張が宿っていた。


エリシアは足を止め、周囲を見渡しながら何かに耳を澄ませていた。

「感じる…この先に何かがいる。それも、今までとは違う力よ。」


その瞬間、暗闇の中から冷たい風が吹き抜け、闇の中から細長い影が現れた。アルノたちは瞬時にその存在に気づき、全員が武器を構えた。だが、その影は以前にも見たことがある姿だった。


「ノワール…!」

アルノは叫んだ。目の前に立つのは、裂けた口と黒い翼を持つ死神、ノワールだった。彼は以前よりもさらに不気味で、異様な力を纏っていた。


「アルノ。お前たちはまだ諦めていないようだな。」

ノワールが嘲笑混じりに言い放つ。その目は冷たく、すべてを見透かしているかのように輝いていた。


「俺たちは、ここで終わらせるつもりだ。お前の企みはもう分かっている。『魂の鍵』を手に入れさせるわけにはいかない!」

アルノは剣を強く握りしめ、ノワールに立ち向かう覚悟を示した。


「そうか。だが、お前たちはまだ分かっていない。この鍵を手にすることで、世界がどう変わるのか。そして、それを防ぐために何が必要かもな。」

ノワールの声には冷酷な確信があり、彼の背後には闇が渦巻いていた。


ノワールの言葉は、アルノたちの心にさらなる疑念を呼び起こした。彼の言う「世界の変化」とは何なのか、そしてそれを阻止するために何が必要なのか。アルノはその言葉の意味を考えながらも、目の前の敵を倒さなければならないという現実に引き戻された。


「その言葉の意味は、倒してから聞くことにしよう。」

アルノが言うと同時に、全員がノワールに向かって攻撃の準備を整えた。


「ならば、見せてもらおう。お前たちがどこまで成長したのかをな。」

ノワールが大きく翼を広げ、彼の周囲に黒い霧が立ちこめた。それはまるで、彼自身の存在がこの神殿の闇と一体化しているかのようだった。


アルノは先陣を切って剣を振り下ろし、ノワールの翼を狙った。しかし、ノワールの姿は一瞬で霧と化し、アルノの攻撃をかわした。


「無駄だ。お前たちの力では、この闇には届かない。」

ノワールは不気味な笑い声をあげながら、再び霧の中から姿を現した。


「そう簡単に諦めるかよ!」

リリーが叫び、アルノに続いて剣を振りかざす。しかし、ノワールは再び姿を消し、彼らの攻撃を次々とかわしていく。


「くそ…どうすればいいんだ!」

アルノは焦りを感じ始めた。これまでの試練で得た力も、ノワールには通用しないかのように思えた。


その時、エリシアが冷静に状況を見極め、魔法の杖を掲げた。

「アルノ、リリー、少し下がって。私に時間をくれれば、この霧を払うことができるかもしれない。」


アルノはエリシアの言葉に頷き、彼女に道を譲った。エリシアは集中し、古代の魔法を呼び起こすために呪文を唱え始めた。杖から放たれた光が、徐々に周囲の霧を照らし出し、ノワールの姿がはっきりと見えるようになった。


「今よ!」

エリシアが叫ぶと同時に、アルノとリリーは再びノワールに向かって攻撃を仕掛けた。


今度は逃がさない。アルノはノワールに接近し、剣を大きく振り下ろした。剣がノワールの翼に当たり、その黒い羽が裂け、霧が一瞬にして晴れた。


「やったか…?」

アルノが息をつきながら問いかけた。


しかし、ノワールはまだ立っていた。翼は傷ついていたが、その裂けた口には冷たい笑みが浮かんでいた。


「ふむ、少しはやるようだな。だが、まだ本当の力を見せていない。お前たちが真の試練を乗り越えることができるか、見てやろう。」

ノワールはそう言い残し、再び霧の中に姿を消した。


「逃げたか…。」

アルノは剣を下ろし、深い息をついた。


「まだ終わりじゃない。ノワールは必ず戻ってくる。そして次は、さらに強力な力を持って。」

シルヴィアが冷静な表情で警告する。彼女の目には、まだ終わらない戦いへの覚悟が宿っていた。


「次の戦いに備えよう。今度こそ、奴を倒す。」

アルノは新たな決意を胸に、仲間たちと共に再び進み始めた。

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