第15話 無常
少年少女たちがぞろぞろと出てくる。皆一様に浮かない顔をしている。
「わたしは竹杉美和といいます。もともとは神戸にいたんです!でもゾンビが出て家族と逃げててヤクザのコミュニティに逃げ込んでしまって家族を人質にとられて武器を渡されました」
涙ぐみながら竹杉は話す。長年の勘だけどこれは嘘ではなさそうだ。周りのみんなもおそらくそうだろう。
「私たちに与えられた任務は徳島コミュニティに入る民兵から資材を奪うことです。ヤクザは自衛隊が子供を撃てないのを知ってるから私たちが利用されてるんです」
胸糞悪い話だ。少年兵は何処の世界でも鉄砲玉扱いされる。俺も先輩も怒りで顔を歪めてしまう。この子たちは後方攪乱のために捨て駒にされている。
「もうやなんです!わたしたち人をいっぱい殺しました。女の子だけじゃなくて男の子だってレイプされた。もう滅茶苦茶!でも死にたくない!家族にあいたいよぅ!」
最悪のパターンだ。この世の汚辱がここにある。ゾンビよりもなお悍ましい人の業。ヤクザはタガが外れてしまったようだ。
「そうか…お前たちは…頑張ったんだな」
先輩は目の前の竹杉をぎゅっと優しく抱きしめる。そして頭を撫でた。
「わかった。俺たちが何とかする。君たちは安心していい。ただしお前以外の話だ!」
俺はグロックを抜いて1人の少年に狙いを定めた。そしてそいつの腹に弾丸をぶち込む。
「五百旗頭!なんのつもりだ!…な?!なんだこれは?!」
撃たれた少年の腹の傷は一瞬で再生した。そしてニヤリと笑う。すると顔の肉がボコボコに動いて中年のおっさんに変化する。
「なんで俺がガキじゃないって気がついた?」
「お前の泣きの演技が不自然だった。そういう手合いは見慣れてるんだよ」
先輩も少年少女たちも驚いている。自分たちと同じ子供だと思ったのにいきなりおっさんになったらそりゃビビる。
「だいたい子供だけで後方攪乱なんてやらせるわけがない。誰かしら大人の指導者が隠れていると思った」
「なるほど。論理的思考と勘だけで俺の超能力による変装を見抜いたわけだ。お前只者じゃないな」
もしこれが魔術師の変装ならせんぱいが気づいていたと思う。だけどこういう超能力者が遺す違和感なら俺の方が得意だ。
「しかし困ったねぇ。おいガキども。おまえら俺らを裏切るつもりだったわけだ。まったく最近のガキは躾がなってない。暴力への想像力が欠けている」
超能力者のおっさんは間違いなくヤクザだろう。三つの橋を制圧した勢力に属しているはずだ。この四国の制圧にやってきた先兵。間違いなく強敵だ。
「お前らの家族がどうなってもいいのか?それにお前らをマワしたときの動画とかばら撒いてやってもいいんだぞ?」
「糞やろう。反吐が出る」
ヤクザの男は得意げに少年少女を脅迫する。みんな恐ろしさに震えあがっている。
「さて。どうしたもんかねぇ。じゃあこうしようか。ガキども。そこの二人を今すぐに殺せ。そしたら今回の粗相はなかったことにしてやる」
子供たちはおろおろし始める。さっきまでは希望があったのに、いまや絶望に逆戻り。その気持ちはよくわかる。俺もかつてはそうだったから。よくわかるんだ。
「じゃあ。がきども、そいつらをころ…え?」
俺は最後までその命令を言わせなかった。ヤクザの男の胸をナイフで切り裂き心臓をえぐり取ったからだ。俺はその心臓を左手に持つ。
「ぶはぁ!おれの!おれのぉおおおしんぞう??!!」
この男は身体の強化や変化を行える超能力者だろう。この手の手合いは銃で殺すのがなかなかに難しいだけどいくつか弱点がある。
「さて聞きたいんだけど。お前心臓を再生させるまで何分くらいかかるの?」
「ぐあぁああばあああぼぉ!」
ヤクザの男は血反吐を吐いて地面をのたうち回る。超再生がいくら可能でも臓器を丸々一つは相当時間がかかるはずだ。
「先輩。そいつの両手両足切り裂いちゃって」
「ああ。まかされた。思い切り痛く斬ってやろう」
先輩はヤクザの男の両手両足を刀でバラバラに切り裂いた。
「うわぁあああああがあばあばばあ!」
「みっともなく呻くな。暴力慣れしてなさすぎるぞ」
俺はヤクザの男の腹を蹴る。その後ナイフで両目を抉り取り、鼻と耳をそぎ落とした。悶絶する声が響いて男は気絶した。すぐに衣服を剥がしてからワイヤーでぐるぐる巻きにして地面に転がす。
「さてさて通信機とかあるかなぁ?あった!」
着ていた服の中に通信機が入っていた。これがあればもう用済みだ。
「竹杉さん」
俺は少年少女のリーダー格の少女に声をかける。
「あ、はい!」
彼女は俺を見て震えていた。目の前の残虐なショーで俺を恐れたのだろう。それでもいい。別に尊敬の目で見られたいなんて思ってないから。
「みんなでそいつを撃て。憎いだろう?身を汚し、罪で手を汚させたこいつが」
「で、でも…」
「君たちが今の境遇から逃げたいならば戦うしかない。ならば証明しろ。恐怖と戦えるっていうことをいまここでね」
俺はぐるぐる巻きのヤクザを指さす。
「構え!狙え!」
少年少女たちは俺の叫びに反応して銃をヤクザの男に向ける。
「撃てぇ!」
そして銃声が何度も響き渡る。それらの弾はヤクザの男の急所を破壊して絶命に至らしめた。
近くに放置されていた車からガソリンを抜き取ってヤクザの男にかけて火をつけて燃やした。
「私たちもう後戻りできないんですね…」
竹杉さんは体育ずわりして焼けていくヤクザの死体をじーっと見ていた。
「まあ。なんとかするさ。家族や動画さえ取り戻せば人間らしく暮らせるようになる。それまでの辛抱だ」
ヤクザの遺体が燃え尽きた後、俺たちは彼女たちが潜んでいた倉庫に向かった。そこにはニューナンブ以外にもマカロフやそれらの銃弾のケース。それと猟銃の類があった。武器類は全部押収後、あの男が使っていたと思われる作戦計画書の類も見つけた。
「淡路ルートで攻めるつもりみたいだね。まあ妥当だな」
「だが子供を肉の盾に遣うつもりだろうな。許せんゲスどもだ」
俺と先輩はヤクザの作戦概要を知ることが出来た。決行がいつになるかはわからないが、恐らくそう遠くない未来だろう。
『こちら組本部。応答しろ』
ヤクザの男から奪った通信機が鳴った。先輩と俺は顔を見合わせてから、俺がそれに出る。子供たちからは距離を取っておいた。
『ああ。今のところは順調だ。だけどガキどもの子守にはいい加減飽きてきたぜ』
俺はそれっぽいことを適当に話す。ヤクザは軍隊のように統制された無線のやり方を持っているとは思えない。
『そういうなよ。もう少しの辛抱だ。やっと会長が淡路島についた。総攻撃は近いぜぇ!』
ボロボロと情報を流してくるな。
『そりゃ楽しみだ。ところでガキどもの親はどうなってる?あいつらぐずって仕方ないんだが?』
『ん?ああ。言い忘れてた。皆殺しにしといたぞ。臓器の需要が半端ねぇからな大阪コミュニティの商人どもに売ってやったぜ!ひひ!』
絶望とはこのことか。俺は額に手を当てる。先輩は唇を引き結び涙を流していた。
『じゃあ通信は終わりだ。あばよ』
そして通信は切れた。疑われるようなことはなかっただろう。
「せんぱい。このことは」
「わかってる。外道どもめ。一人残らず地獄に送ってやる」
俺も先輩も覚悟を決めた。淡路島にいるヤクザのトップを俺らの手で殺す。たとえアポカリプスであっても俺たちは人間の道を守り通すのだ。
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