第49話 ジュストの一番大事なもの①

「なんだ、意外と元気そうだな」

「ギャレット」


 部屋に訪ねてきたのはステファンだ。


「今日で立て籠もり五日目か。お前も相当頑固だな」

「母上に頼まれてきたの?」

「別に頼まれてはいない」

「ステファンは、仕事大丈夫なの?」

「俺は休日はしっかり取る派だ。ジュストは生真面目なところがあるから、頼まれたら何でも引き受けてしまう」


 王宮に通いだしてから六日目。本当なら今日は休みのはずなのに、ジュストは休日返上で仕事に出かけた。


 あの日、卒業パーティーの件以降、ギャレットは絶賛引き籠もり中。家族の誰とも口を利いていない。

 もちろん、ジュストとともだ。

 両親は勝手にしなさいと放置気味だが、ジュストは毎朝仕事に行く前には扉の外で「行ってきます」と声をかけてくれる。そして帰ってきたら「ただいま」と声をかけてくれるが、それに対して完全にギャレットは無視を決め込んでいる。

 帰ってきたら、と言っても帰りは日付が変わる頃が多くて、実際はこちらが寝ているだろうからと、返事は期待していないみたいだが。

 でもギャレットは大体は起きていて、その声を部屋の中で聞いていた。


 出かけるために父親とともに馬車に乗る姿を窓からチラリと覗き見て、馬車が見えなくなるまで見送っている。

 帰ってきた時も、馬車の音がしたらバッと起きて様子を窺っている。


「ギャレットはただ見守ってくれればいい」


 つまりは口を出すな、ということ。

 あの日、ジュストからそんなことを言われるとは思わずショックを受けた。


「そうだね。わかった」


 投げやりにそう答えた。


「ギャレット、その言い方はないわ」


 仏頂面なギャレットをナディアが窘めた。


「わかったって、言っただけだよ。何が悪いの」

「その言い方よ。何が不満なの」

「別に。僕が何を考えて何を思うとか、皆には関係ないでしょ」


 言い返すと両親は困惑し互いに視線を合わせ、ジュストもやれやれと言った顔をしている。


「これはジュストのパーティーだもん。僕は関係ない。僕だけが知らなかったって、誰も困らないもんね」


 ジュストの大事な場面で、自分だけが取り残されていた。

 それが辛く悲しい。

 本当ならレーヌがパートナーで喜ぶべきなのに、仕方なく選んだような口振りも腹立たしいが、もっと腹が立つのは、突き放されたことだ。


 ポロリと、涙が流れた。

 このやるせない気持ちを誰にも吐き出せない。


「ギャレット、それは言い過ぎよ」

「そうだ。私達もうっかりしていたが、誰にもミスはある。知らなかったからと泣くほど怒らなくてもいいではないか」

「癇癪はだめよ」


 癇癪? これは単なる癇癪なんだろうか。


「父上も母上も酷いよ、僕だけが知らなかった」

「だから、悪かったわって言っているでしょ」

「そうだ、何を拗ねているんだ」


 父と母に交互に注意される。

 しかし、いつもそういうときに庇ってくれていたジュストは、今回は何も言ってくれない。


「ギャレット、父上たちを困らせるな」


 それどころか三対一で、ギャレットの方が悪いと言ってくる。


「もういいよ、父上も母上も、ジュストもゼッコーだ」


 そして自分の部屋に走り込んで鍵を締めていたのだった。

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