転移?召喚?いいえ、留学です

唯木羊子

第1話 プロローグ

 初めての作品で拙い部分も多いかと思いますが、お読みいただけると幸いです。よろしくお願いいたします。


   ☆ ★ ☆ 


 俺の名前は佐藤裕斗(さとう ゆうと)。もうすぐ三十一歳になる冴えないオジサン…いや、まだ片足を突込みかけだけで、断じてオジサンではないはず…である。

 仕事は通訳と翻訳をしている。そこそこの会合の通訳に呼ばれることもあるが、個人に呼ばれることが多い。例えば、外国に嫁いだ娘が孫を連れて帰って来るはずが、仕事の都合で日本語の喋れない孫だけが来てしまう・・・なんて時にお呼びがかかる。最近はポケット翻訳機やスマホのアプリでも簡単にやり取り出来るので、ちょっと仕事は減っているのだが、アプリに入ってない言語にも対応できるので仕事がなくなることはない。


 今日は、ひょんなことから俺が立ち上げる事になった“イリュウの会”の開催日なのである。と言ってもお洒落な催しではなく、“会”のメンバーである今泉美月(いまいずみ みつき)さんがやっている“お食事処いりゅう”を貸し切って昼から夜まで喋り尽くすだけなのだ。

 店と会の名前がカタカナと平仮名の違いだけなのは、店の名前を聞いて「これしかない」と思った俺が頼み込んで使わせてもらったからだ。名前を考えるのが面倒くさいからでは決してない。

 いつもなら、新メンバーの紹介と参加者との顔合わせがメインなのだが、今年はまだ加入希望者からの連絡がないので近況報告と困りごとの相談をしながらのどんちゃん騒ぎになるだろう。

 開始三時間前に店にやってきた俺は、メンバーさん達からたまに送られてくるメッセージに返信をしている。欠席者からの近況報告・参加者の「少し遅れます」や、チョット用事を頼んでいるメンバーさんからの進捗状況の報告等だ。その合間に料理の準備をしている今泉さんとそれを手伝っているバイトの神崎拓真(かんざき たくま)君(彼もメンバーの一人である)の様子を眺めている。


 ちょっと暇なので、今のうちにこの“会”を立ち上げる切っ掛けとなった十三年前の話をしておこうと思う。


あれは大学一年の九月二十六日、後期が始まったばかりでまだ落ち着かない雰囲気が漂っていた。午後からの授業が急に休講になり、バイトに入れるか確認をする。他の学生もざわざわと午後の予定を修正している。バイトに行けたら、時間は遅くなるが賄いが付くのでラッキーなのだが。学食は安いといっても、一食分浮くのは有難い。忙しいのかなかなか電話が繋がらない。人手が足りてなさそうと予想して、学食ではなく校門へと向かう。歩きながら再度バイト先に連絡を入れ、忙しいのでなる早で来て欲しいと返事をもらえる。

 一年の間は必須科目が多いので、同じ顔触れで動く事がよくある。前期の間に知り合いも増えた。

「佐藤、この後どうするの?」斎藤が俺の後に付いてくる。

 斎藤圭太(さいとうけいた)大学に入って最初の友人だ。今野敦(こんのあつし)と三人、学生番号が続きで一緒になる機会も多かった。俺の後ろの学生番号の奴は見るからに体育会系で、話しかけにくかったというのもあるが。今野は今日の昼はサークルの用事があるとかで、講義が終わって直ぐに急いで出て行った。俺と斎藤に比べると、今野は陽キャ寄りだ。サークルでの仲間も増えているようだ。俺たちは代々伝わる試験問題を閲覧するためのサークルに入って、普段はバイトに励んでいる。試験前は部室で勉強して、試験後ファイルになかった問題を追加するのが、サークル活動のすべてといっていい。


「バイト来ていいって」

「いいなぁ。俺はダメだった。佐藤と同じバイトにしとけば良かったよ」

「忙しそうだから嫌だって言ったのは斎藤だろ」

「そうだけど、佐藤のトコは賄いも美味そうだしな」

「確かに美味いし量もしっかりあるから助かるぞ」

「今日の昼も出るのか?」

「ああ、忙しそうだから、二時は過ぎるだろうけどけどな。コンビニ寄ってパンかおにぎりつまんでいくかな」

「俺もコンビニで弁当でも買って家に帰るか」

なんて話をしながら買い物を終えコンビニの前で斎藤と別れる。コンビニの五軒先がバイト先なので、コンビニ横の路地を入ったところでお茶でおにぎりを流し込んでおこうと角を曲がる。キョロキョロと周りに人眼がない事を確かめながらレジ袋からお茶を取り出す。(このころは普通にレジ袋もらえてたんだよな)

 ペットボトルのキャップを開けようとしたとき、まぶしい光を照らされ思わず目を閉じる。夜中に車のヘッドライトを直接見てしまった時より眩しくて、目をつぶっていても真っ白な空間の中にいるようだ。少しクラクラして、その場にしゃがみ込む。

 十秒だったか、一分だったか眩しさが少し収まってきたので薄目を開けてみると、光は足元からのもので、模様の様に輝きつつ消えていった。視界が真っ白に飛んでいたので、見間違いもあるかと一度ギュッと目を瞑ってからそっと開けてみる。もう光は無かったが、俺が目にしたものは木と草の緑だった。さっきまでのコンビニの壁とアスファルトの地面は何処に行ってしまったのか。

 俺は立ち上がりながら呟いた。

「さっきのは魔法陣だったのか?」


   ☆ ★ ☆


 一話目を読んでいただきありがとうございました。第二話は明日の朝に投稿予定です。また読んでいただけると嬉しいです。

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