第271話 再訪 サン

—――にしても不自然だな


 魔王は自分たちの前に現れた特殊強化魔獣へ疑念を抱く。


—――いくらここが地脈の集結地点の『龍穴』で………空気中の魔力含有量が多い場所だったとしても、一年やそこらで魔獣の変異が起こるのか………?


 以前に、ヨミヤからはこの奈落にて戦った特殊強化魔獣のことは聞いていた(本人はその魔獣のことを特殊強化魔獣だとは認識していなかったが)。


 なんなら、その話を聞いてサタナエルは『黒林檎』の発育条件―――『龍穴』のある魔力が潤沢な地域にしか出現しないという条件―――について考察を立てたくらいだ。


 だが、いくらそんな土地だとしもそんな短期間で生物は変異を起こさない。―――そんなポンポン特殊強化魔獣が現れたら、魔族が手を下すまでもなく人類は滅びている。


「………」


 もちろん、ヨミヤが前に戦った個体以外に特殊強化魔獣が潜んでいた可能性はある。


 ―――あるのだが、わざわざ自分たちの前に現れたあの魔獣を見ると、その可能性には違和感を感じる。


「………他の原因があるのか?」


 魔王の視線が、隣の『黒林檎』の木へ送られる。



 ※ ※ ※



 出力を上げて結界を展開する。


「あの頃とは違うぞ」


 ゆったりと歩きながら、『鉄踊り』の攻撃の全てを強度を上げた結界が弾く。


「………」


 鉄針が殺到し、ぬりかべの如き鉄の塊が圧殺しようと迫ったり、凶悪に回転する鉄ののこぎりが結界を削るが———意味はない。


「あの時は気が付かなかったけどお前―――


 鉄塊の如き『鉄踊り』へそんな言葉を向けるヨミヤは、魔法を展開。


 『結界使魔ヴァリアック・ゴーレム』。


 四角で出来た人型の小さい人形を召喚する———『血の一本角』が使っていた結界魔法と、使い魔の魔法………その術式を使用したヨミヤだけの魔法。


 無数に出現したゴーレムたちは、『鉄踊り』の攻撃を潜り抜け———それぞれが『鉄踊り』の身体へ


ゴーレム共」


 刹那―――『爆発する』特性を付与された結界で作られたゴーレムたちが一斉に起爆し、


『———』


 『鉄踊り』は悲鳴にならない悲鳴を上げた。


「最初にお前と戦った時は気が付かなかった」


 『鉄踊り』は自身の体皮の上に、層のように積み重なった金属を操り敵を屠る。


「お前、攻撃するとき———


 逆に言えばそれは、『鉄踊り』は攻撃している間………その身体を覆う鉄壁の鎧が剥がれることを意味する。


 故に、ヨミヤを潰すことに全ての金属を使用していた『鉄踊り』の柔らかい外皮に———爆裂の衝撃が全て叩きこまれた。


「―――じゃあな」


 次の瞬間、二十にも及ぶ結界で作られた剣が無慈悲に『鉄踊り』へ落とされた。



「随分余裕だったな」


「そうですね。―――あの頃とは、何もかもが違う………そう思う戦いでした」


 串刺しにされた『鉄踊り』の遺骸に背を向け、ヨミヤはサタナエルへ目を向けた。


「なぁ、ヨミヤ」


「なんです?」


「お前は前にコイツと同じ能力を持った個体を倒したんだよな?」


「………? はい、そうですね」


 男の突然の確認に首を傾げるヨミヤ。


「こんな短いスパンでまた特殊強化魔獣が現れるなんておかしいと思うんだが………何か心当たりはないか?」


「心当たり………ですか? それってつまりあの個体が大量の魔力に触れるキッカケ………みたいな話です?」


「あ~………まぁ、そうゆうことになるな」


 生物の変異には大量の魔力が関係している。―――その因果関係を理解しているヨミヤの言葉をサタナエルは肯定する。


「そんなの、心当たりは———」


 その瞬間、捨て去った違和感がヨミヤの脳内を駆け回る。


「えっとぉ………もしかしたら、関係ないと思うんですけど………」


「どうした?」


 ヨミヤは、以前に自分がを指さし、


「オレ、黒林檎を食べた後………芯をその辺に放置したんですよ………それをあの個体が喰ったとしたら………」


「………」


 告げられた考察が、現実に起こりうる確率は———非常に高かった。


「………まぁ、終わったことだし………いいか」


 ………高かったのだが、キッカケが大まかに言って『ポイ捨て』だと思うと、途端に馬鹿らしくなる。


 よって、違和感がすべて解消される説を提唱されたサタナエルは、そんな貴重な果実を芯とは言え放置した目の前の少年にため息をつきながら、歩き出した。

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