第222話 獣か狩人か

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


 バーラド城の地下。


 少年奴隷の悲鳴が響く。同時に、少年の胸の中心から無数の電撃が弾け、その小さい身体を貫く。


「………」


 少年の前に立つエクセルは、奴隷を痛めつけているのにも関わらず、いつもの嗜虐的な笑みを収め、真剣に目の前の光景を見つめる。


 そして、


「あ―――」


 やがて、少年奴隷は目を見開き………動きを止めた。


 慟哭を宿した少年の身体は、やがて四肢の先から、『有機物が無機物に変貌する』という異常な光景が徐々に少年の身体を蝕んでいく。


「フェー………ル………!」


 幼き少年の口から洩れるのは、共に奴隷仲間として過ごした一人の少女。―――敵の能力を封じるために無惨に殺された一人の少女の名だった。


 雫が頬を伝い、流れ落ちる。が、それすらも無感情な石の塊となりて砕け散る。


 ―――そうして、少年の全身は無機質な物質へと変貌し、幼き少年はその短い人生を終えた。


「あぁー………なんとかうまくいったか」


 エクセルは、そんな小さき亡骸の言葉を無視すると、おもむろに石化した少年へ近づく。


 そして―――


「よっ………と」


 石像と化した少年の胸を砕き―――を取り出した。


 だが、それは『心臓』と形容するには、あまりに異質だ。


 まず血に濡れていない。―――そして、心臓の形を成していなかった。


 何も知らぬ者が見れば、それは『臓器』というより、『宝石』だと勘違いしてしまうだろう。―――透明感があり、見る者を惹きつけてやまない輝きがあった。


「初めてやってみたが………案外できるもんだな」


 エクセルが行ったのは、『勇者召喚ギフト・ブレイバ―』と同じ『儀式形態』の魔法―――『石なる搾取コカトリス・ハート』。


 石化の魔法と、付与された魔法を物質として取り出す儀式魔法『魔の象徴化ギフト・エンチャント』の二つの術式を組み合わせた魔法。


 いわゆる『裏の世界』の人間がたまに使う儀式魔法で、決して表に出してはならない魔法。


 その効果は至って単純。――――――対象を石化し、対象者の保有する能力ギフト魔法。


 本当は、付与された魔力を宝石にするだけの魔法が、とある偶然から、石化した人間に行使すると、その人間の能力ギフトを取り出せることに気が付いたのが始まり。


 ―――そして、何より能力ギフトの正体がであると証明する魔法。


「さぁぁぁて………これで準備は完了だァ………あとは時間が来るのを―――待つのみだ」


 だが、他人を苦しめることを悦びとするこの男に、今しがた行使した魔法の歴史など関係ない。


「ハッ………楽しみだなぁ………」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る