四季の再会

山猫のすゝめ

第1話 夏の海辺にて



「この夏休み、どこか行かないか?」田中は海辺を歩きながら言った。


「どうするんだよ、また海?前回のようにただの海水浴じゃ面白くないだろ?」佐藤が冷やかすように返す。


「だったら、ちょっと冒険してみようぜ。おばあちゃんが言ってたんだけど、近くに古い祠があるんだってさ。」田中が提案する。


「祠?何それ?」鈴木が興味津々で尋ねた。


「よくわからんけど、古い神社みたいなもんらしいよ。そこに行けば、怖い話が聞けるかもしれないんだって。」田中は肩をすくめた。


「おいおい、そういう話はやめとけよ。俺は怖いの苦手なんだ。」村上が不安そうに言った。


「大丈夫だよ、村上。もし怖くなったらすぐに帰ろう。」田中が仲間たちを安心させようとした。


その日、昼過ぎに四人の男子高校生は海辺の近くにある古い祠を探しに行くことにした。海は青く、空は晴れ渡っていたが、祠の話を聞くとどこか不安がよぎるような気がした。


「ほんとうにここにあるのかな?」鈴木が辺りを見渡しながらつぶやいた。


「ここを曲がったところにあるって言ってたよ。ほら、あそこに古びた道があるだろ?」田中が指をさした。


道を進むと、次第に周囲は静まり返り、木々が生い茂るようになった。風の音だけが響く、どこか異次元に迷い込んだかのような雰囲気が漂っていた。


「これがその祠か?」村上が不安そうに尋ねた。


「うん、多分そうだと思う。」田中が言いながら、木々の間にひっそりと佇む小さな祠を見つけた。朽ちかけた木の柱に、古びた石の鳥居がかかっていた。


「なんだか、すごく古いな。」鈴木が祠の周りを観察しながら言った。


「これ、本当に大丈夫なのか?」村上が少し不安そうに言った。


「まあ、ちょっとだけ見てみよう。怖かったらすぐに帰ればいいだけだし。」田中が安心させようとしながら、祠の前に立ち止まった。


「とりあえず、中に入ってみよう。」鈴木が一歩踏み出すと、他の三人も続いた。


祠の中には、古い神棚といくつかの小さな祠が並んでいた。その一つには、まるで人形のようなものが収められており、つぶらな瞳がじっとこちらを見つめていた。


「これ、何だろう?」鈴木が不安そうに聞いた。


「古いお守りとかだろう。なんか、見るからに怖いけど。」田中が言いながら、興味津々でその人形に近づいた。


「それ、やめろよ。」村上が慌てた声で言った。「古いものをいじると、よくないことが起こるって言うじゃん。」


その瞬間、風が急に強くなり、祠の中の物が揺れ始めた。四人は驚き、恐怖で一瞬動きが止まった。


「これはまずいんじゃないか?」佐藤が言った。「なんか、変な感じがする。」


「俺たち、戻ったほうがいいかも。」田中が言いながら、祠の外に出ようとしたとき、突然、周囲の風が止まり、静寂が広がった。


「おい、なんだこれ?」鈴木が周囲を見回しながら呟いた。その瞬間、目の前の空間が歪み始め、まるで何かが現れようとしているように感じられた。


「見て!あれ!」村上が指差した先に、薄暗い霧のようなものが立ち込めていた。その霧の中に、ぼんやりとした人影が浮かび上がった。


「おい、こっちに来るな!」田中が叫んだ。しかし、人影は次第に近づき、はっきりと見えるようになった。それは、古い着物をまとった女性の霊だった。


「お前たち、何しに来たんだ?」霊が静かな声で問いかけた。


「すみません、ただの好奇心で……。」田中が震えながら答えた。


「私はここに長い間封じられていた。人々がこの祠を訪れるたびに、私の苦しみを引き起こしている。」霊が言った。その声には、悲しみと怒りが混じっていた。


「どうすれば、お詫びできるんでしょうか?」鈴木が尋ねた。


「私のために、祠を修復し、再び安らかに眠らせてほしい。」霊が訴えた。「それができるならば、私はここから解放されるだろう。」


「わかった。すぐに手をつけるよ。」田中が答えた。


その後、四人は祠の修復作業を始め、地域の人々と協力して祠を元の姿に戻した。霊の願いがかなったのか、再び風が静かになり、霊は消えていった。


「これで、やっと落ち着いたな。」村上が言い、安堵の表情を浮かべた。


「うん、これからはもっと気をつけよう。」田中が言いながら、仲間たちとともに海辺へと戻った。


その後、四人は青春の一幕として、夏の海辺での冒険を語り続けることになった。それはただの怖い話ではなく、彼らにとって一生の思い出となったのだった。

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