第5話 監視社会の構築

リサとラシュコフは、安全な場所へと身を寄せ、データセンターから持ち帰ったデータの解析に取り掛かった。ラシュコフのオフィスに設置されたセキュリティシステムの下、彼らは慎重にデータを取り扱った。画面上には膨大な量のファイルとプログラムコードが並び、どれもマイクロソフトが収集したユーザーデータの断片を表していた。


「見てください、これ。」ラシュコフがモニターに映る一つのファイルを指差した。「これは、ユーザーの行動データをリアルタイムで分析するシステムの設計図です。彼らはユーザーのウェブ閲覧履歴、位置情報、デバイスの使用パターンなど、あらゆる行動を追跡し、予測アルゴリズムを通じてその人物の次の行動を予測しています。」


リサは画面を見つめ、息を飲んだ。「彼らは私たちの一挙一動を監視し、次に何をするかを先読みしようとしている……。」


ラシュコフはさらに解析を続け、別のファイルを開いた。「そしてこれは……。政府との連携に関する内部文書です。マイクロソフトは、これらのデータを各国の政府機関と共有し、公共の安全と国家の安定の名の下に監視ネットワークを構築している。このシステムは犯罪予防だけでなく、政治的な動向や社会運動をも監視するために使われています。」


リサの胸に冷たい恐怖が広がった。彼女はかつて、このような監視システムが現実になる日が来るとは思っていなかった。「これは……デジタル監視社会そのものだわ。彼らは人々の自由とプライバシーを犠牲にして、自分たちの支配力を強化しようとしている。」


ラシュコフは画面から目を離し、リサに目を向けた。「そうです。彼らは『国家安全保障』という名目で監視システムを拡大している。しかし、実際にはその背後に、個人の自由と権利を抑圧し、新たなデジタル秩序を築こうとする意図が見え隠れしている。」


リサは椅子から立ち上がり、部屋を歩き回りながら考えを巡らせた。「私たちはこれを公にしなければならない。彼らが作り上げた監視網と、その背後にある陰謀を暴露するのよ。」


ラシュコフは頷いた。「しかし、リサ、私たちがこの情報を公開すれば、彼らはあらゆる手段を使って反撃してくるでしょう。マイクロソフトだけでなく、政府や関連企業も動き出すはずです。それでも、あなたは進む覚悟ができていますか?」


リサはラシュコフの問いに真剣な表情で答えた。「私たちはすでに彼らの監視網に捕らわれている。でも、真実を知ることができるのは、今、この瞬間しかない。私はこの闇を暴き、私たちの自由を守るために戦うつもりです。」


ラシュコフはリサの目に宿る決意を見て、静かに頷いた。「わかりました。私たちはデータを整理し、報道と人権団体に提供する準備を進めましょう。そして、世論を巻き込んでこの監視社会の実態を世界に知らしめるのです。」


その時、リサのラップトップが突然警告音を発した。画面には「外部からの不正アクセス検知」のメッセージが表示されていた。リサとラシュコフは一瞬顔を見合わせ、急いでコンピュータのセキュリティを強化した。


「彼らが動き出したわ。」リサはキーボードを叩きながら叫んだ。「私たちがデータを持っていることに気づいたのよ!」


ラシュコフも緊張した表情で画面を見つめた。「彼らがこちらのシステムにアクセスを試みている。時間がない。データを安全な場所に転送しなければ。」


リサは瞬時に判断し、データのコピーを外部デバイスに保存し始めた。「彼らが私たちの動きを把握しているなら、ここに留まることは危険だわ。データを複数の場所に保存して拡散させるしかない。」


外部からの攻撃が激しさを増し、リサとラシュコフは手に汗を握りながら作業を続けた。彼らの前に広がるのは、かつてないほど強大な敵の存在だった。しかし、その闇を打ち破るためには、後退するわけにはいかなかった。


「リサ、転送が完了したらすぐにここを離れましょう。彼らが物理的に我々を制圧しに来る可能性もある。」ラシュコフが緊張した声で告げる。


リサは最後のデータを保存し終え、外部デバイスをバッグにしまった。「わかった。私たちは逃げるのではなく、彼らに立ち向かうのよ。このデータを使って、彼らの監視網を暴露する。」


部屋の外でエレベーターの音が響いた。彼らの時間は残されていない。リサとラシュコフはオフィスを後にし、次なる一手を打つために、闇の中へと消えていった。彼らの戦いは、これからが本番だった。

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