美女と結婚するために魔王討伐の旅に出たのに先に倒された俺はどうすればいい!?
知恵舞桜
第1話 逸話
この世には魔王を倒そうとして旅立った勇者一行は数多く存在する。
1000年の時が経つもいまだに誰1人魔王城まで到達するものは存在しなかった。
だが、あるとき1人の青年が立ち上がった。
その者は皆から「奇跡の男」「人類の救世主」と呼ばれ、唯一魔王を倒せる者ではないかと人々に希望をもたらした。
噂によれば旅立つ前、あるちょっとした2つの話がある。
一つ目は、彼が16歳のときのことだ。
そのときの彼は大陸一の厳しい学校に在籍していた。
名はアヴニール学校。
そこは勇者、戦士、僧侶、魔法使いを育成する学校だ。
通い始めて2年目。
暑い季節が過ぎ去り少し肌寒い季節になり、年に一度の収穫祭を祝う祭りが行われたある日のことだ。
その日は学校近くの街で大勢の人が集まりにぎわっていた。
できたての美味しい料理の匂い、どこからか聞こえてくる音楽、見たこともない珍しい商品、どこを見渡しても人々の笑顔に溢れた街だった。
今年も例年と変わりなく楽しい日が過ごせると誰もが信じて疑わなかった。
だがそのとき、急に空が何かに覆われ太陽が消え、あたり一面が暗くなった。
雲が太陽を隠したのだろう、そう思い1人の女性が誰よりも早く空を見上げると、そこにいたのは凶悪な顔したドラゴンだった。
女性はドラゴンだとわかった瞬間、腰が抜けてその場に座り込み恐怖で体が震えた。
隣にいた女性が友達の様子がおかしいことに気づき心配で駆け寄り、どうしたのかと聞くが友達は「あ……あ……」と天を見上げるだけで説明しようとはしない。
一体空がどうしたんだ?と思いながら見上げるとドラゴンが目に入り、気づけば悲鳴を上げながらその場に座り込んだ。
女性の悲鳴で周囲にいた者たちはいち早くドラゴンに気づき悲鳴をあげながら逃げ出す。
逃げながら「ドラゴン」という単語が何度も出てきたため、すぐに街中にドラゴンが現れたことが知れ渡った。
誰もがドラゴンに殺されたくはない。
生きていたい。
そう思って逃げるも、パニックになった民衆に正しい判断など下せるわけもなく、ただドラゴンから逃げるのに必死だった。
ドラゴンが地面に降り、尻尾で建物を破壊する。
破壊された建物が逃げる人々の上に落ちる。
たった一振りで大勢の人が死んだ。
誰もがもう無理だと思った。
全員が死を覚悟したそのとき、1人の青年がドラゴンの前に立った。
「彼は何をしてるだ?」
「何故あんな無謀なことを?死にたいのか?」
「勇気と無謀の違いもわからないとは……早く逃げなさい!君ではドラゴンには勝てない!」
誰もが青年がドラゴンに殺されると思った。
巨大な相手にちっぽけな人間が勝てるわけないと諦めていた。
何とか助かろうとほとんどのものが逃げようとするなか、たまたまドラゴンが降り立った近くにいた人間はどうあがいても逃げきれないと判断しその場に立ち尽くし、ことの経緯を見守っていた。
青年はゆっくりと剣を抜いた。
ドラゴンは口を大きく開け、炎を吐き出した。
ドラゴンの炎は一回で町を焼き尽くすことができると言われているため、炎が見えた瞬間青年以外のものは死を覚悟し目を瞑った。
だが、待てど待てど熱いものが迫ってこない。
何故だ?
そう思いゆっくりと目を開けるも、目を瞑る前と大して変わらない。
「いったい何が?」
1人の男性が呟くと近くにいた老人がその問いに答えた。
「斬った」
「斬った?なにをですか?」
女性が尋ねる。
女性も炎を見た瞬間、目を瞑ったので何が起きたのかわかっていない。
「……炎をじゃ」
老人は自分で言っていても信じられなかった。
老人は例え最後に見たのが炎になるとしても目を瞑らず、この光景を目に焼きつくそうとして目を閉じなかったわけではない。
あまりに残酷な出来事にただ呆然と眺めていただけだった。
そのお陰で唯一何が起きたのか見れた。
ドラゴンが炎を吐き出すと青年は左足から右斜め上に剣を振り上げ、炎を風圧で吹き飛ばした。
あまりの風圧にドラゴンは口を開け続けることができず仕方なく閉じた。
「……」
周囲の者は老人の言葉を信じられなかったが、そうでもしなければ今頃自分たちは死んでいたはずだと思い信じることにした。
それにもし老人の言っていることが本当なら彼が、もしかしたらドラゴンを倒してくれるかもしれないと淡い期待をもてた。
青年はゆっくりとドラゴンに近づく。
ある程度まで近づくとドラゴンから攻撃を仕掛けた。
青年はそれを交わし攻撃しようとしたが、尻尾が目の前に現れ、慌てて体を捻り何とか回避する。
青年とドラゴンの動きが早すぎて周囲の者は何が起きているのか一切わからなかった。
ただ、青年がドラゴンと戦っているということしか。
次に青年を見つけたときはドラゴンの首が落ちていた。
時間にすれば数秒程度だが、ドラゴンの恐怖のせいでその場で見守っていた人たちには何時間にも感じた。
その恐怖が首から離れたドラゴンの頭を見て解放されると次の瞬間、大歓声が上がった。
人々は大喜びでその青年に近づきこう言った。
「君はとても勇敢だ!」
「ありがとう!君は命の恩人だ!君がいなければこの街は終わっていた!本当にありがとう!」
人々はさっきまでの態度とは一変する。
一瞬で手のひらを返した。
人間がドラゴンに勝つなど不可能に近いためしかたないと言えばそれまでだが、自分たちが同じ立場だったらどうか少しは考えるべきだ。
青年はそんな彼らに何を思ったのか、一言も発さず、ただ笑顔を浮かべていた。
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