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 白い幽霊の女の子は若竹姫を見て妖艶な笑みでくすくすと子供っぽく笑い続けている。

 若竹姫の知っている女の人のどの顔にも似ているように見える、(……、まるで、揺らめいている真夏の陽炎のように、あるいは、揺れている小さなろうそくに灯った火のように、あるいは、その火がうつしだす影のように、その顔はゆらゆらとあらゆる若竹姫の知っている女の人の顔に見ているだけで、変化する)そんな白い幽霊の女の子の顔を見ていて、ふと若竹姫は、この白い幽霊の女の子は、ただの幽霊ではなくて、あの都で噂の『百目の鬼』なのではないか? ということに気がついた。

 ……、百目の鬼。

 または『百目の獣姫』と呼ばれている、最近、都にある宮中を騒がせている不思議な鬼の女の子のこと。

 その美しい姿形をした女の子の鬼。(もののけ、怪異)

 見るものの心の中にある女の人の顔の形に変化をする顔を持たない不思議な鬼。

 この鬼は人の魂をあの世に連れて行く鬼とされている。

(そう。こんなにも美しくても、悪鬼なのだ。悪い鬼なのだ)

 ……、刀。

 私の(鬼を切るための)刀はどこに置いておいたっけ?

 そんなことを若竹姫は(ぎゅっと何度か汗のにじんだ手を握りしめながら)思い出そうとする。

 そういえば刀はお風呂に入るときに、囲炉裏のある部屋のすみっこのところに、持っていた荷物と一緒においたままになっていたはずだ。

 そんなことを思い出して、自分の刀の差していない腰のあたりに利き手である右手を回しながら、……、しまったな、ちょっと油断しすぎていた。と小さく笑って、若竹姫は思った。(でも、その視線はずっと百目の獣姫を見ている)

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