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「コクトー家のクリスタ様が第一候補になるのではないかと睨んでおりますのよ」
〔誰だ? そいつ?〕
パトゥール子爵夫人の言葉に、レオナルドが首を傾げた。
〔だから、貴方様のお気に入りでしょう?〕
〔コクトー家は知っているが、娘は知らんぞ?〕
〔お気の毒に・・・、クリスタ様・・・〕
私は呆れるように溜息を付いた。
〔ミランダ様の取巻きですわよ、そのクリスタ・コクトー伯爵令嬢って。ミランダ様と一緒にいつも殿下の傍にいらしたでしょうが・・・〕
〔へ?〕
レオナルドはホケッとした顔で私を見た。
確かに彼女は存在感が薄い。ましてや、ミランダのように、誰の目も引き付ける華やかで妖艶な女性の横にいては、彼女に目は止まらないのは仕方がない。
〔わたくしに婚約破棄を突き付けた時だって、殿下のお傍にいらしたでしょう。とは言っても、両手をレベッカ様とミランダ様にガッシリ掴まれてらしたものね、気が付かなくても仕方ないと言えばそれまでですが〕
〔あ・・・、そう言えばいたかも・・・。いつもミランダに使い走りにされていた令嬢が・・・。彼女のことか・・・〕
レオナルドはやっと思い出したようだ。
〔はあ~・・・、ミランダやレベッカの取巻きの女まで俺のお気に入りに入るのか・・・〕
レオナルドはガックリと肩を落とした。
〔ええ、そうです。学院時代だって、周りに侍らせていたご令嬢は全員殿下のお気に入りということになっていましたわよ?〕
〔彼女らが勝手に俺の周りに群がっていただけなのに?!〕
〔だから、何度も注意申し上げていたのです! 周りに誤解を与え兼ねないし、ご自身の品位も下がるって〕
〔う・・・〕
つい、過去を思い出して小声で説教をしてしまう。その間も、パトゥール夫人の話は続く。
「クリスタ様は華やかさこそ欠けますが、清楚な感じがとても好感を持てますわ。殿下はミランダ様の事件で女性を見る目がお変わりになるかもしれません。そうなったら、クリスタ様のような方をお選びになってもおかしくはございませんわ。レベッカ様よりもずっとお似合いではありませんか」
それにしても、このパトゥール子爵夫人。レオナルドの叔母にでもなった気でいるのか? クリスタにしてもミランダにしても、自分より目上に階級だと言うのに、まるで自分が侯爵夫人かのような物言い。聞いていて、どうにも不快になる。
〔わたくしの嫁入り先だけでなく、殿下の婚約者も決めていただきましたわね。大したお方だこと。近々お礼を申し上げないといけませんわね〕
〔本当だな・・・。パトゥール伯爵夫人か・・・、覚えておこう〕
私たちは顔を見合わせると、ニッと悪い顔になって頷いた。
反発し合うことがほとんどの私たちだが、利害関係が合うとガッチリとタッグを組むところはまだ健在らしい。
☆彡
「お帰りなさいませ、お嬢様。例の騎士様はどうでしたか? 協力は得られましたか?」
邸に帰るなり、パトリシアが鼻息荒く聞いてきた。
彼女には、知り合いの騎士に預かっている子供が人身売買の闇組織に狙われているので、警護と調査を頼んでくると、半ば無理やり私の妄想話とこじつけて、納得させていた。
「それにしても、王子付きの騎士様とお親しいなんて、さすがお嬢様です」
「まあね、伊達に9年もレオナルド殿下の婚約者をやってないわよ」
私は肩に羽織っていたストールをパトリシアに渡しながら言った。
レオナルドはトテトテとソファに走り寄り、ちょこんと座った。
「今日お会いした騎士様はね、とーっても紳士的で親切なお方なの。この子の事情もよく分かってくれて、深く同情してくれたわ。闇組織についても必ず調査してくれるわよ」
「よかったですね、一安心です」
パトリシアはホッとしたように肩をなでおろした。
しかし、急に少し浮ついたような顔つきになると、
「ところで、お嬢様。その騎士様ってどんな方ですか?」
興味津々な顔で聞いてきた。
「とーっても紳士的で親切で中身は素晴らしいお方だと分かりましたけど、外見は? 男前ですか??」
ワクワクと言う言葉が彼女の頭からモクモクと湧いて出ている。
「そうねぇ、外見もとても格好良い殿方と思うわよ? 学院時代から、ご令嬢方にとても人気があった方なの。熱烈なファンもいたくらい」
「きゃあ! そうなんですね! 素敵! 優しくて強くて格好良いなんて三拍子揃っているじゃないですか!」
パトリシアは合わせた両手を頬に添えて、うっとりとした。
「そう言われると、確かにそうねぇ。顔良し、家柄良し、性格良し、そして強い・・・。本当、良いところばかり。完璧ね」
私はそんなに深く考えずにパトリシアに同意した。
「それにしてもどうしたのよ、パット? その騎士様に興味があるの?」
「私が興味あるのは騎士様ではなくてお嬢様ですよ!」
「は?」
「だって、そんなに素敵な殿方! お嬢様はご興味無いのですか? もしかしたら、恋に発展するかもしれないじゃないですか!!」
「はあぁ?!」
うっとりと話すパトリシアの言葉にレオナルドが声を上げたが、彼女は気が付かない。
「お友達のお子様だけでなく、お嬢様の傷ついた心も救ってくれるかも!」
私の妄想癖が彼女にもうつったか? とんでもないことを言っている。
でも、ここで否定するのも面倒だし、そう思ってくれた方が今後も動きやすいかもしれない。
「そうね。そうなれば喜ばしいわね。さてと、パット、お茶をいれてくれるかしら?」
「はい! ただいま!」
パトリシアはホクホクとしたまま、私のストールをクローゼットにしまうと、軽い足取りで部屋を出て行った。
チラリとレオナルドを見ると、何故か怒った顔で私を睨みつけていた。
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