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「そうだったのですか・・・。そんなことが・・・」
私たち―――主にレオナルドからの説明を聞いて、アランは長く吐息を吐いた。未だ困惑した顔をしているが、何か思い当たる節もあるような顔をしている。
「あの事件の背景にそんなことがあったのですね・・・。道理で大して騒がなかったわけだ・・・」
「あの事件?」
顔を顰めたアランにレオナルドが尋ねた。
「その・・・、ウィンター家のご令嬢とハーディー家のご子息です・・・。彼らの失態がかなりの人の目に触れてしまい、二人とも失脚しました。殿下が逃げ切った後の出来事だったのですね」
「あら、まあ、お気の毒」
「仕方がありません。お二人どちらかの自邸であるならばともかく、王宮内の客間でそのような不埒な行為は見逃せません」
思わず漏らした私の言葉に、アランは首を竦めた。
「二人とも何も言わなかったのか?」
「はい。何の弁明もありませんでした。ただ、ミランダ嬢が殿下に御執心だったのは周知の事実だったので、もしや、ハーディーの息子に一方的に襲われたのかと疑ったのですが、二人とも合意の上だと素直に認めたのです」
レオナルドの質問にアランは頷く。
「きっと、二人ともお互い相手のせいにしたいところでしょうが、元々が二人で、いや、ウィンター家とハーディー家で手を組んで殿下を貶めようとしたのですから、一方が裏切るわけにはいきませんからね。道理で、両家とも大人しかったわけです。本来なら大騒ぎしそうな事件ですよ、子供の失脚なんて。二度と社交界に顔を出せないことになるわけですから」
「そうか・・・」
レオナルドは深く考え込むように呟いた。
「それより、ミランダ様の容姿はどうなのですか? あの方だって薬を飲んでいるでしょう? どこも変化はしていないのかしら? もしかして、失脚にかこつけて、子供になってしまったミランダ様をウィンター家で隠しているなんてことはないでしょうか?」
「確かに! それは、調べてみた方がいいでしょう。すぐに調べます!」
私の質問にアランはパンッと手を叩いた。
「殿下。今回のことは、一体、誰にどこまでお伝えしたらよろしいでしょうか? 私もザガリー殿と同様、慎重に動いた方がいいと考えます。お姿が元に戻るまでは、出来る限り最小限に留めた方がいいでしょう」
「ああ。側近のライナスには話してもいいだろう。それ以外は話すな」
「はっ」
「後は兄上に伝えてくれ。そうすれば、父上にも直に話が伝わる。だが・・・、母上には・・・、母上には伝えない方がいいだろう・・・」
そう言うレオナルドの顔は曇っている。
「どうしてですの!? 皇后陛下だってどれだけご心配されているか!」
私は思わず声を荒げて、膝の上のレオナルドの顔を覗き込んだ。
「分かっている! 俺だって心苦しい! だが・・・、もしも、もしもだ・・・。母上が関わっていたら・・・」
「まさ・・・か・・・」
辛そうに唇を噛み締めているレオナルドの顔を見て、私は少しずつ血の気が引いてきた。そんなことあるはずがないと続けたいのに、言葉が口元で止まってしまい、出てこない。
思わず、助けを求めるように、アランを見た。彼も厳しい表情をしている。
ああ、確かに、皇后の御子はレオナルド一人・・・。
密かに息子の時世を夢見ている可能性が全くないと、誰が言い切れるだろう。
「もちろん、母上のことは信じている・・・。恐らく、俺の杞憂だろう。だが、もしかしたら、ご自身が気付かずに関わっているかもしれない。知らず知らずのうちに利用されているかもしれない・・・。分からないんだ」
レオナルドは俯き、膝の上で両手の拳をギュッと握りしめた。小さなその拳がとても辛そうに震えている。私はその小さな拳の上に自分の手をそっと重ねた。
「きっと、杞憂ですわ、殿下。大丈夫です。ご心配なさらないで」
レオナルドはゆっくり顔を上げて私を見た。何とも切なそうな顔をしている。
「でも、そうですわね。殿下のおっしゃる通り、お知らせするのは保留にしておきましょう」
私はにっこりと微笑んだ。
「なかなか気が回りますのね、感心しました。殿下のくせに」
「あ?」
「大したものですと褒めて差し上げているのです。珍しいと思いません? 殿下がわたくしに褒められるなんて」
「ああ?!」
「違います? だって、いつもわたくしに小言を言われてばかりで・・・」
「もういい! アラン!」
レオナルドはプイッとアランの方に向き直った。
「後は、王宮内の様子を教えてくれ。それと、今後も常に情報を頼む。ウィンター家とバーディー家の様子を調べてくれ」
「かしこまりました」
「手紙はエリーゼ宛てに。必要であれば、今日みたいに落ち合おう」
「かしこまりました」
「それから・・」
先ほどの暗い雰囲気は消え、二人でテキパキと話し始めた。
合間合間に、私を使いパシリにするような発言が聞こえてくる。その度に、突っ込みたくなるのをグッと押さえ、二人の会話を邪魔しないように黙って見守っていた。
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