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「ねえ、エリーゼ。大切なお友達のお子様だとは思うけれど、我が家で預かるのはどうかしら?」
「お母様・・・、この子、とっても可愛らしいと思いません?・・・」
優しく話しかける母に、私は悲しそうに微笑んで見せた。
「え? ええ・・・、そ、そうね、可愛らしいわね」
母は私の表情に怯んだ。
「わたくし・・・、この子の可愛らしい笑顔にとても癒されましたの・・・、だって、だって・・・、辛いことがあったばっかりで・・・」
私はレオナルドをギュッと抱きしめ、目を伏せてみせた。
「まあ! エ、エリーゼ! そ、そんな! 泣かないで!!」
母はオロオロして、私の背中を摩った。
そう。母がいつも以上に私に優しく接するのは、この「辛いこと」が原因。なんせ、母は私にとって「望んでいたこと」ではなく「辛いこと」であると信じているから。
「わたくし・・・、きっと、もうお嫁になんて行けないのでしょうね・・・。この先、こんな可愛い子供を授かることなんてないのだわ・・・」
何とか涙を流そうと試みるが、嘘泣きができない。仕方なく、ううっと、それらしく口元を押さえてみる。
「何を! 何を言っているの、エリーゼ! 貴女みたいに可愛い子がお嫁に行けないなんて、そんなことあるわけないでしょう!」
「せめて・・・、数日間、母の気持ちが味わえたら・・・。お母様みたいに・・・」
「エリーゼったら! 大丈夫よ! 貴女ならちゃんと結婚出来て、この子みたいにとっても可愛い子に恵まれるわ!」
「数日間・・・、たった数日だけでも、一緒にいられたら、きっと心が安らぐわ・・・」
「ええ、ええ! そうね! 泣かないで、可愛いエリーゼ!」
「それに、お友達も助かるもの・・・」
「そうね! そうだわね!」
「一石二鳥・・・」
「ああ、可哀相に! やっぱり、昨日は頑張って笑顔でいたのね! 本当は泣きたかったのよね!」
母はレオナルドを抱きしめている私をギュッと抱きしめた。
レオナルドは私だけでなく、母からも圧力を受け、苦しそうに小さくうめき声を上げた。
「いいわ! いいわ! 我が家で預かりましょう! 貴女の心が安らぐなら!」
母は私の頬に何度もキスをしては抱きしめてくれた。
何とも言えない罪悪感が心の奥から湧いてくる。
こんなに優しい母を騙さなければいけないなんて!
まったく、全部レオナルドのせいだ。
☆彡
無事に母の許可が下りた。
母は興奮が収まった後、興味深そうにレオナルドを見つめた。
「ねえ、エリーゼ。わたくしにもこの子を抱かせてくれないかしら」
そう言って、私に両手を差し出した。
チラリとレオナルドを見ると、とても不安そうな顔をしている。
私は立ち上がると、
「ちょっと待ってください、お母様。この子、とーっても人見知りですの。少し宥めてきますわね」
母から少し離れ、部屋の隅に移動した。そして、小声でレオナルに話しかけた。
〔いいですか? 殿下。あざとく攻めてくださいね!〕
〔はぁ?〕
〔目をうるうると潤ませて、目線は上目遣いに! しっかりと愛嬌を振り撒いて母を完全に陥落させるのです!〕
〔な、何言って・・・〕
〔言っておきますが、これはわたくしの為でも何でもありません。殿下ご自身の為ですからね!〕
〔ちょっ・・・〕
それだけ言うと、踵を返し、急ぎ足で母のもとに戻った。
「ご機嫌が直ったようですわ。はい、お母様、どうぞ」
レオナルドを母に差し出す。
母は私よりもずっと慣れた手つきで、幼児を受け取った。
「んまあ~! なんて可愛らしい! 天使みたい!」
女装したレオナルドの姿に、母はとろけるような笑顔になった。
レオナルドを見ると、私の忠告した通り、きゅるるんっとした目線を母に送っている。
「このドレス、エリーゼのお気に入りのドレスだったわね! とっても似合っているわ! 本当にお人形さんのようよ!」
実はドレスも計算済み。
私は幼過ぎて覚えていないが、どうやら私のお気に入りだったらしい。母が趣味に没頭している時に、このドレスを引っ張り出しては、そう言っていたから知っていたのだ。
「ねえ、エリーゼ! この子のお名前は?」
母はキラキラした顔で私に振り向いた。
「え゛・・・?」
しまった・・・。そこまで詰めていなかった・・・。
「お名前は何て言うの?」
「ミランダです」
レオナルドが目を剥いた。
はあぁぁあ?!という彼の心の声が聞こえる。
ギロリと私を睨みつけるが、私はツーンとそっぽを向いた。
「ミランダちゃんっていうのねぇ。名前も可愛いわぁ!」
母がレオナルドに向き直る。レオナルドはパッと表情を元に戻す。
「よろしくね、ミラちゃん!」
母は楽しそうにミラちゃんを高い高いした。
どうやら、母は完全に陥落したようだ。
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