14
「ね、殿下、二人で楽になりましょう」
高揚して赤くなった顔から熱い吐息を漏らしながら、豊満な胸を俺にグイグイ押し当ててくる。俺の身体も熱いし、動悸も酷い。
俺を求めるミランダの熱の籠った目に身体が疼いてくる。何とも思っていない女に対して、こんなにも欲情が沸いてくるなんて、媚薬とはなんて恐ろしい物なんだ!
逃げなければいけない。このまま欲に駆られて彼女の手中に落ちてはいけない。
そうなったら彼女の―――彼女の父、ウィンター伯爵の思う壺だ! 即、俺との婚約を取り付けようとするだろう。
俺は理性を総動員してミランダを突き飛ばした。床に派手に倒れた彼女に少しだけ罪悪感を覚えたが、助け起こす気はさらさらない。早く逃げ出さないといけない。
俺は扉に駆け寄り、勢いよく開けた。すると、
「うわっ!」
一人の男が俺の開けた扉にぶつかったのか、廊下に仰向けに倒れた。
こいつは俺の側近じゃない。それなのに、なぜこんなところに・・・。
「お前は・・・?」
男は慌てて立ち上がった。
こいつ、確か、ハーディー伯爵家の息子・・・。ハーディー家と言えば・・・。
「あ、えっと、殿下、その・・・」
男は気まずそうに頭を掻きながら、俺にペコペコ頭を下げているこの男。明らかに挙動不審だ。
俺は周りを見渡した。誰もいない廊下。いるのはこいつ一人。扉にぶつかったということは聞き耳を立てていたということか?
「なぜ、お前がここにいる・・・?」
「え、い、いや、その、たまたま通りかかりまして、えっと・・・」
俺の低い声に男はオロオロし始めた。そして、俺の肩越しにチラッと部屋の中を覗いた。その行動とその時に浮かべた苦い表情を見て、俺の推測は確信に変わった。
俺はハーディーの胸倉を掴むと、腹に一撃を食らわせた。そして、ぐったりとしたところを、勢いに任せ、部屋の中に放り込んだ。
ハーディーは運悪く、いいや、運良く、倒れていたミランダのすぐ傍に倒れ込んだ。
「殿下ぁ~~!」
ミランダはハーディーを俺と間違え抱き付いた。
俺は急いで扉を閉めた。
ハーディー家はウィンター家と同じ派閥に属している。それだけではなく、縁戚関係であり強い結びつきがある。
そして何よりも厄介なのが、この派閥が俺を支持しているということ。兄上を差し置いて、この俺を王太子へ擁立しようと画策しているのだ。
しかし、当の俺自身はその気は全く無い。それどころか、兄上に忠誠を誓っている。そんな陰謀に乗るわけがないのだ。
「く・・・っ」
俺は異常に激しくなっている息遣いを必死に押さえ、壁に手を添えながら歩き出した。
兎にも角にも、まずはこの症状を抑えなければ。
解毒剤はないのか・・・。
「そうだ・・・、クリスのところに行けば・・・」
俺は王室付きの呪術師兼薬師のクリスを思い出した。この男とは個人的にも懇意にしている。彼ならすぐに対処できるだろう。
急ごう。この醜態を晒す前に! 薬を盛られたなんて、そんな弱みを誰にも知られてはいけない。
俺は急いでクリスの研究室に向かい歩き始めた。途中、従者が騎士二人に何やら言付けをしているところに行き会った。俺は理性をかき集め、何とか平静を装い、彼らに近寄った。
俺が近づくと、三人ともビシッと姿勢を正し、頭を下げた。
「『
俺がそう命じると、三人と急いで例の部屋へ駆けて行った。
それを見届ける余裕もなく、俺は必死に廊下を歩き始めた。
ミランダは完全に理性を失っていた。ハーディーと俺の区別もつかないほどに。
ハーディーは俺が殴った後、気を失っていたようだから確実に襲われているだろう。
すぐに気が付いたとしても、半裸の妖艶な女性を前に、奴の理性がどれほど持つかどうか。
三人にはとんでもない濡れ場を見せてしまうことになると思うが、ご勘弁願おう。
俺はできる限り平静を装い、且つ、余計なもの(特にメイドなど)を視野に入れないように、急ぎ研究室へ向かった。
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