婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが

夢呼

プロローグ

今宵の空は雲がまったくないようだ。月は美しい光を放ち、星々は空一面にキラキラ輝いている。

そんな美しい夜空の下、星々よりも煌びやかで華やかな王宮が見える。その宮殿からは、舞踏会が開かれているのだろうか、美しい音楽の音色と共に、楽しそうな人々の笑い声が聞こえていた。


しかし―――。


「いい加減にしろ! まったく可愛げのない女だな、お前は!」 


美しく豪華な大広間の中、一人の男性の声が大きく響き渡った。

その怒号に驚いたのか、軽快な音楽の演奏は止まり、人々のおしゃべりもダンスもピタリと止まってしまった。

その場はシーンと静まり返り、人々の注目は発した男性に一斉に集まる。


男性は一際豪華な服装をし、両端に二人の美しい令嬢を召し抱えている。その傍にさらに一人の令嬢も立っている。なんとまあ、三人の令嬢を侍らせていた。


そして、その男性と向かい合っている一人の令嬢。

男性の怒りはそのご令嬢に向いているようだ。


「わたくしは殿下のためを思ってご進言申し上げているのです! レオナルド殿下!」


令嬢は男性の怒号に臆することなく、胸を張って言い返した。

しかし、レオナルドと呼ばれた男は、反論されたことで更に怒りがヒートアップしたようだ。


「うるさい! エリーゼ! お前の小言は沢山だ! お前は婚約者だからある程度大目に見ていたがな、最近は目に余る! 今、この場でお前との婚約を白紙にしてもいいんだぞ!」


「は? 何ですって?!」


令嬢は目を丸くした。


「これ以上、俺の機嫌を損ねるようなことをほざくのなら、今ここで婚約を破棄してもいいと言っているのだ!」


レオナルドはエリーゼに向かって指を差した。


「・・・殿下・・・、本気でおっしゃっておりますの・・・?」


エリーゼはワナワナと震えながらレオナルドを睨みつけた。


「ああ! 冗談で言うとでも?」


相手が少し怯んだと思ったレオナルドはフンと鼻で笑った。


「本気の本気ですの?」


「ああ、本気の本気だ!」


エリーゼはふんぞり返っているレオナルドを前に、体の震えを無理やり抑え込むように胸に手をやり、ふぅとゆっくり息を吐いた。

気持ちが整ったのか、再びキッとレオナルドを見据えた。


「本気の本気の本気ですのね?!」


「え・・・? あ、ああ!! そうとも! 本気の本気の本気だ!」


「本気の本気、ほんとーに、本気でおっしゃっていますのね!?」


低い声で鋭い視線を投げかけるエリーゼの気迫はなかなかのものがある。


「え、え・・・っと・・・」


レオナルドは彼女に気迫に一瞬たじろぐが、


「レオナルド殿下、しっかり!」

「レオナルド殿下、頑張って! わたくしが付いておりますわ!」


両脇の美しい蝶に囁かれ、ハッとしたように我を取り戻し、


「しつこいぞ! 本気だ!!」


そう大きく胸を張って見せた。

その次の瞬間。


「シャーッ! 婚約破棄上等っ!! 喜んでお受けいたしますわ!!」


大きく拳を突き上げ、声高らかに叫んだのはエリーゼだった。


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