暗殺者だってバズりたい!〜異世界最強の暗殺者、魔王といっしょに現実へ帰還してバズりまくり、無双系ダンジョン配信者になる〜
会澤迅一
序章:『最強』の帰還
プロローグ 魔王のプロポーズ
ダンジョン配信をバズらせたかった。
異世界帰りで収入のアテが無く、ダンジョン配信者になるしか無いと思った。
転生特典として新たに得た
その報いがこのザマだ。
「待ちなさい! こんにゃろ……絶対とっちめてやる!!」
後ろから、美少女配信者・兼・準Aランク探索者の
宣材写真で美しいキメ顔を作っていた彼女は、今や般若の形相を浮かべている。
一体、どうしてこんなことになったのか。
かつて異世界最強の暗殺者と謳われたリヒトは、こちらの世界に戻ってきた経緯を思い返していた。
◆
轟音を立てて崩れ落ちる魔王城。
その最上階に、暗殺者リヒトと、白銀の龍の姿をした魔王アニマはいた。
「敵ながら
アニマは満身創痍で横たわったまま続ける。
「流石は『最強の暗殺者』……いや、この場合は『影の勇者』という異名の方が適切か?」
「過大評価だよ……」
リヒトは、煙と塵芥に咳き込みつつ答えた。彼は剣を杖の代わりにして何とか立っていた。
目、鼻、口から流血している。足元には、大きな血だまりができていた。
「それに、矛盾してる。勇者は僕みたいに孤独じゃあないし、暗殺なんて卑怯なマネはしないよ」
「ふふ……そう言うな。何にせよ、貴公は功を成したのじゃ。魔王討伐という、世界最大の功をな」
「功だなんて、とんでもない。作戦が上手くハマっただけだよ……」
言い終わるより早く、リヒトは倒れた。もう、立ち続ける力すら残っていなかった。
「くふふ……今際の際に謙遜かえ。勇者リヒトよ、貴公は何のために戦っていたんじゃ?」
「決まってるだろ。『全知の書』の復元を阻止するためさ」
リヒトはため息混じりに答えた。
全知の書。最初の魔王によって森羅万象の真理が記されたと謳われる、伝説の魔導書。
膨大な呪いを孕むその魔導書は、
アニマは断章を掻き集めて、全知の書を復元させようと目論んでいた。
だから、リヒトはそれを阻止するためにアニマを倒したのだ。
「その理由を尋ねておる」
アニマは厳かに問い直した。
「断章には膨大な魔力が籠もっておる。と同時に、あらゆる術式について記されている……。いくつか揃えれば、人の子の願いなど大抵は叶えられよう。
「僕に願いはないよ。こっちの世界へ転移するときに、女神に叶えてもらったからね」
「ほう。して、その願いとは?」
「生き永らえることさ」
リヒトは薄く笑い、走馬灯のように半生を思い返した。
彼の本名は、
努力の甲斐あって遠方の全寮制中高一貫校への入学が決まり、その数日後に急病で倒れた。
今際の際にて女神と契約を交わし、異世界で生き永らえる代わりに断章の回収を請け負ったのだ。
そのために魔物と戦い続け、血みどろの日々を送ってきた。決して表舞台に出ることなく、魔物からも人間からも忌み嫌われ、孤独に生きてきた。
その結果がこの有り様だ。
齢17にして、その短い生涯を敵の眼前で閉じようとしている。
「……なんとも、ささやかな願いじゃな。同情を禁じ得ん。貴公ほどの逸材であらば、もそっと強欲でも良かろうに」
「それも、過大評価だよ。僕は肉体系魔術しか使えない無能だぜ?」
「くふふ……。いかな勇者よりも妾を追い詰めたそなたが無能ならば、この世に能ある者などおるまい」
「そりゃどうも。魔王からベタ褒めしてもらえるなんて……悪くない最期だな……」
吐息混じりの声は、ひどく弱々しかった。
血も魔力も枯渇しきっている。もう立ち上がれない。
死の淵へゆっくりと沈んでいく感覚だけがあった。
「妾としては最悪の最期じゃな。妾を倒した者が孤独に死を迎えるなど、到底堪えられん」
そうかよ、とリヒトは言おうとした。
だが、唇が動いただけで、声にならなかった。
音もにおいも遠ざかっていく。魔王城が崩れ落ちる轟音も、自らとアニマの血のにおいも、ほとんど感じ取れない。
現世で病に侵されたときと同じ、死の予感がリヒトを支配している。
目蓋が降りてくる。
世界が闇に包まれる。
リヒトの人生は、今まさに幕を下ろそうとしていた。
「堪えられんので、共にやり直そう」
「えっ?」
降りた目蓋が急上昇する。
目の前の魔王アニマが、駄犬のようにゆるみきった笑みを浮かべていた。
「【転生】じゃ」
「……まさか。【転生】による生まれ変わりは死者蘇生の一種だ。魔術理論上、不可能のはずだろ」
「妾も貴公も現時点では死んでいない」
「でも瀕死だ。術式構築のノウハウも無い。魔力も残ってない。仮に肉体を丸ごと魔力へ変換したとしても、別の世界へ転移するには──」
「術式構築は断章の知識を応用すれば問題ない。魔力については、妾の全身を変換すれば、かろうじて足りる」
「……本気かよ……!」
動揺を隠しきれないリヒトに、魔王アニマが畳み掛ける。
「貴公は妾を愉しませた唯一人の男じゃった。表立って勇者を名乗っていた奴らとの戦いも、そなたとの一騎打ちと比べれば児戯も同然。貴公こそ妾の生き甲斐。せめてもの礼をさせてほしい」
「──ははっ。まるでセールストークだな」
「どちらかと言えばプロポーズじゃろ。我が身の全てを差し出す契約じゃからな」
「『提案』という原義として受け取っとくよ。……もしかして、ずっと前から考えていたのか?」
「さあ、どうじゃろな。で、やるのか? やらんのか?」
「それは……」
リヒトは即答できなかった。
転生術式の成功可能性について考えていただけではない。
人生というものについて、改めて真剣に考え込んでいた。
現世では親しい人も特に無く、育て親の邪魔にならぬよう生きてきた。
異世界では暗殺者として影に潜み、市井に名を知られる事も無く生きてきた。
もしも、別の人生を送れるなら。
これまでとは真逆の、自由と栄光に満ちた人生を送れるなら。
それはきっと幸せなのだろう。
リヒトはそう思った。
「相わかった」
アニマが快活に言った。
リヒトの心は、声として漏れ出ていたようだった。
「自由と栄光に満ち満ちた人生を送れるよう、妾が契機を作ろう。つまり、転生じゃな」
「えっ?」
「案ずるな、妾には分かる。ささ、儀式を始めようぞ。ちなみに、転生が成功すれば妾の固有魔術の一部を使えるようになるから、楽しみにしておくと良い」
「ちょっ」
戸惑うリヒトを差し置いて、アニマはぶつぶつと詠唱を始める。
「待て、まだ心の準備が──!」
引き止めんとするリヒトの声も虚しく、床面に紋様が刻まれ、眩い光を放つ。リヒトはとっさに目を瞑る。
アニマは詠唱を終え、最後に術式の名を唱える。
「【リィンカーネーション】」
術式が発動し、リヒトとアニマの姿は魔王城から消え去った。
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ご覧いただきありがとうございました。
20話ほど書きだめてあるので、しばらく毎日投稿する予定です。
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