見えそうで見えない境界線

悠人は、サロンでいつものロングスカートに変化を加えようと決心していた。


長らく女装を楽しんでいる中で、少しずつ自分を表現する範囲を広げたいと思うようになったのだ。


これまではロングスカートが安心できる定番だったが、今日は新たなチャレンジを試みることにした。


それは、丈の短いミニスカートへの挑戦だった。


ネットショップで何度も目をつけていたスカートがついに手元に届いた。


スカートはシンプルなデザインながら、ウエスト部分にリボンがあしらわれていて、裾が少し広がるシルエットだった。


生地は軽やかで、風が吹けばすぐに揺れるような感じがした。


袋を開けた瞬間から「これを本当に自分が着るのか?」という不安が胸をよぎるが、挑戦しなければ何も変わらないと、自分を奮い立たせた。


サロンに向かうと、いつものスタッフが迎えてくれた。「今日は何にする?」と声をかけられ、悠人は笑顔で「ちょっとミニスカートに挑戦してみようかなと思って…」と返した。


スタッフは驚きながらも、「おお、ミニスカートか!挑戦するね、いいじゃない!」と、快く背中を押してくれた。


試着室でミニスカートに着替えたとき、悠人はすぐに自分の太ももが露わになる感覚に戸惑った。


鏡に映る自分の姿を見て、心の中で「本当にこれで外を歩くのか?」という疑問が浮かんだ。


普段のロングスカートでは隠れていた部分が、今や丸見えだ。露出した肌が自分の目にも新鮮で、どこか自分の身体を再発見しているような感覚に陥った。


しかし、それ以上に恥ずかしさが先行していた。


「これは…慣れるまで大変そうだな」とつぶやき、試しに立ち上がったり座ったりしてみた。


動くたびにスカートが揺れ、まるで自分の一部が外にさらけ出されているような感覚がした。


ミニスカートを履く女性たちが普段からこんなにも気を使っているのだと、初めて実感した瞬間だった。


試着室から出ると、サロンの他のお客さんやスタッフが悠人に注目した。


「似合ってるじゃん!」「かわいい!」という言葉が飛び交うが、その褒め言葉を素直に受け入れる余裕はまだなかった。


むしろ、視線が太ももに集中しているように感じてしまい、さらに恥ずかしさが増してしまった。


サロンの撮影スペースで、いくつかのポーズを取ってみた。


普段ならスムーズに動けるはずの場所が、今日はどこかぎこちなく感じる。


スカートが短いため、下着が見えそうになるたびに動きが止まってしまうのだ。


撮影を担当していたスタッフも「もう少しリラックスして大丈夫だよ」と声をかけてくれるが、どうしても警戒心が抜けない。


「これ、下から見えちゃうんじゃないかって心配で…」と悠人が言うと、スタッフは笑って「ミニスカートはそういうものだよ!でも気にしすぎないで、自然に動いた方が写真も綺麗に撮れるからさ」とアドバイスをくれた。


その言葉に少しだけ勇気をもらい、悠人は背筋を伸ばしてカメラに向かって微笑んだ。


写真が撮り終わり、座って休憩しようと椅子に腰を掛けた瞬間、また新たな課題が浮かんだ。


スカートが短いため、座るたびに気を使わなければならないのだ。


足を開いてしまうと下着が見えてしまうため、常に足を閉じておかなければならない。


これまで意識したことのない動作に、今は細心の注意を払っている自分がいた。


「スカートって、こんなにも気を使うものだったんだ…」悠人は心の中で呟き、思わず苦笑いを浮かべた。


足を組むときも、動きが不自然にならないように気を使い、普段の無意識な動作が今では慎重に行うべきものに変わっていた。


その後、他のサロンの利用者たちと自然な会話が始まった。


彼らもまた、それぞれのスタイルでファッションを楽しんでいたが、ミニスカートの話題になると共感の声が上がった。


「ミニスカートって、見た目は可愛いけど動きづらいんだよね。特に最初は恥ずかしいけど、慣れると逆に自信がつくよ!」と、常連の一人がアドバイスをくれた。


その言葉に少しだけ救われた気がしたが、悠人は「いや、僕にはまだハードルが高いかもしれないな」と笑いながら答えた。


しかし、会話を続ける中で徐々に緊張も解けてきた。


ファッションを楽しむ人々の温かさに包まれ、ミニスカートという自分にとっての挑戦も悪くないのかもしれないと思い始めていた。


写真を撮り終えた後、鏡に映る自分の姿をもう一度見つめた。


最初は恥ずかしさと不安でいっぱいだったが、時間が経つにつれて少しだけ自信が芽生えた気がした。


「これも、新しい自分を発見するための一歩なんだ」と、心の中で自分に言い聞かせた。

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