その頃地上では
ブランは大荷物を持って、ダンジョンの出口に出た。
「あれー、真夜中でやんす」
海の匂いと細波に戻ってこれたとホッとする。
「おかえりなさい」
ギルドの職員が声を掛けてくれた。
「あら、〈屋根裏の指人形〉の子よね?一人?」
入場記録はパーティ五人で、帰ってきたのが一人じゃ何かが起こったと判断して当然だ。
「あ、わっちはブランと言うでやんす。わっちは八階層でゴブリンの群れに遭遇して数が多くて捌ききれないとなった時に仲間に囮としておいて行かれたんでやんす」
「なんですって!!」
ブランはビクッとちょっと飛んだ。
「あ、これは助けてくれたジェイルさんに受付に渡すようにと言われて・・・」
ジェイルからの手紙を読んだ受付はとんでもない憤怒の顔で自分の手の拳をダーンと机にぶつけた。
またしても飛んでしまいブランはちょっとちびったかと焦る。
「〈伝心鳥〉」
受付は通信用魔道具でギルマスに連絡を入れる。伝心鳥にギルマス宛の手紙を渡してくれた。
「三十分も掛からぬうちに飛んでくるわ」
受付の人エニスは暖かいミルクを出してくれた。
ブランも仲間たちも救援依頼は頼んでない、転移の魔道具も持ってないことから、救助はしない方向だけど、犯罪を犯してるとなると話が変わるのだと言われた。
「生きてれば身柄拘束の上、裁判。全員のパーティ資金の没収、この場合ブランが慰謝料で総取りね」
パーティ資金はほぼ残高がないだろうけど、宿に置いてる予備の防具や剣は売れるなぁとぼんやり思う。
しばらくお話ししていると船が結構なスピードで進んできて、大柄なおじさんたちが降りてきた。
「おう、ジェイルに助けられたってぇ?」
「あああっ!ししししんんんげげげげっつつつのののラライイイコココウウウウゥ」
ブランが壊れたおもちゃのようになって、それを見たドットたちはブランの頭を撫で回した。
「アイツに気に入られたんだね。ジェイルは人に深入りが苦手なんだよ。ダンジョン内自己責任でスルーしても文句は言われないのにちゃんと報告とブランの送り出しまでしたのはだいぶ優しい」
他の仲間のことはスパッとスルー決定してたし、ブランもそう言う物だと認識してる。あの状態なら八階層のセーフゾーンに置いてくれるだけでも御の字だ。
ギルマスがエニスと情報を擦り合わせて、ブランに話を聞いて、やっぱり全滅の可能性が大きいけれど犯罪者なので、死亡確認を取らないとってことで〈新月の雷光〉がダンジョンに入ることになった。
「俺たちは攻略済みだからゲートで五階層から行くから気にするな」
死亡確認なんて遺体が消えちゃうダンジョンでどうするのかとブランは不思議に思ったが、ギルドにはキルドタグの反応を探知する魔道具があるんだそうだ。
「・・・はっ!!船酔いの実と発酵きのこくらげを預かってるでやんす!!」
ギルマスと〈新月の雷光〉宛のお土産があったとブランは思い出して焦った。
これからダンジョンに入るのに渡してもっと気付き、ワタワタと混乱した。
「全部俺が預かっておくから心配ない」
ギルマスがブランの頭に手を置いて落ち着かせた。
「「「「じゃ行くわ」」」」
「おう」
「行ってらっしゃいでやんす!」
〈新月の雷光〉はダンジョンの中に入って行った。
「かー、ジェイルは一日で十階層行ったか」
「びっくりでやすよねー」
「お前は残念な目にあったがラッキーだったな」
命があったのも奇跡で、ダンジョン外に五体満足で戻れて、お土産いっぱい持ってるのはもうあり得ない幸運だ。
「アイツらなら朝飯前に戻ってくるだろうからここで待つか」
ギルマスはこれでも忙しい身なんだと言いつつ、ここ最近のダンジョンの記録を見ている。
ブランはエニスにダンジョンの品を売りたいものがあれば出すように言われて荷物を崩した。
一階層から七階層までのドロップ品と収穫物は大したものはないし、ほとんど失ってしまったけれど、ジェイルといた九階層十階層で得た果物やドロップ品、ボス部屋の宝石などは結構な物だった。
いくつかの宝石は彼女と母と妹、祖母に持ち帰り、一個はジェイルとの出会いの記念に、取っておくことにして、ポーション数本は帰路の保険に残して、あとは売ることに。
ブランにはマジックバッグがないので、果物はお土産にできないし、大荷物は盗賊に狙われるので身軽が一番なのだ。
「はわぁ、わっちが今まで手に入れて金額を超えるでやんす」
「メンバーで頭割りじゃなかなかねぇ」
エニスが苦笑すると、
「わっちは荷物持ちなので端数だったでやんす」
とブランが答えたので、エニスはまたテーブルをズガンッと叩いた。
ブランが今度こそチビっちゃったかもと思わずズボンを確認した。
「おい!エニス!ウルセェぞ!!」
「だまらっしゃい!!」
エニスがオーガのような様相になっているのを見てギルマスは、何だよと話を聞く体勢になった。
「あんだと!?」
エニスとギルマスが言うには正式なパーティメンバーに登録していたら、報酬は等分に、雇われの形ならば最低賃金と危険手当を合わせた日給を保証しなくてはならないと、ギルド規則で決まっているらしい。
「全く今時そんなアホな真似をする奴がいるとはなぁ」
「新人いびりと一緒で巻き上げは淘汰できませんよ」
ブランは自分が不当な扱いを受けていたことを知って、いやなんとなく分かってはいたけれど戦闘に向かない自分には妥当な扱いだと思い込んでいたことを思い出した。
「奴ら死んでいてもむしり取ってやるからな」
「死んでたら無理でやんすよ」
怒ってくれる大人がいて、ちょっと嬉しいブランだった。
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