ケツが割れるから

 俺は一時間もしないうちに、馬車の中でぐったりした。


「おいおい、一人旅って徒歩だったのか?」

「馬車に弱いって冒険者やんのキツくねぇ?」


 俺が乗ったのは〈鋼鉄の拳〉のパーティと一緒の馬車だ。四人ずつ。

 馬車は広めだけど、ギルドの依頼で荷物も積んでる。一石二鳥か。

 ヤンは御者台で警戒中。


 馬には〈瞬足〉、馬車には〈軽量〉の付与魔法がかかってるので猛スピードだ。


 おそらく通常の馬車よりは揺れていないのかも知れない。

 だが、舗装が甘い道というか土を均したくらいの道は轍や石とかでガタガタ揺れる。


 最初の十分くらいで尾骶骨が悲鳴をあげて、三十分で馬車酔いがきた。


 コロしてくれ・・・。


 馬の様子を見つつ三時間くらいで休憩らしいので俺は隅っこで転がっている。

 寝袋やマントを丸めて痛い場所に敷いたけど気持ち程度の和らぎ。


 ランガたちも寝袋を尻に敷いてる。

 せめて普通の馬車が良かった。

 でも辻馬車なんかはみんなこのタイプ。

 一週間これとか泣くぞ。

 今回は付与魔法でスピードアップしてるから三日くらいだそう。馬大丈夫なのか?


 ランガたち普通に皮袋のワインとか飲んでる。俺は飲んだら吐くぞ。


 一回目の休憩地について俺はまず吐きたいとちょっと離れた場所に行く。

 トイレって言うと連れションされそうだった。


 吐くまではいかないけどかなり気持ち悪いのでスマホ出してペットボトルの水と酔い止めを買って飲んだ。

 あの馬車の揺れはキツいとゲルマットをクッションタイプを十ニ個買った。

 俺の分は三個分を繋げて折りたたみ式にして、マットレスになるようにした

 みんなの分は創作魔法でチャックなし縫い目なしのカバーを、中身見るなよってことで。

 ついでに馬たちに角砂糖と野菜と果物をポチってみた。


「おーい、大丈夫か~?」

「大丈夫」

 吐いてると思われてるので心配してくれたようだ。


 呼びにきてくれたヴァロと馬車のそばに戻った。


「おー、顔色戻ったな」

「マジで馬車酔いしたのか」

 ドットたちも聞いたらしい。

「お貴族さまの馬車よりは乗り心地悪いだろうがな」

 もう貴族ネタは良いんだよ。

「ほれ飲め」

 木製カップで明らかに酸っぱい匂いのする飲み物を渡された。

「・・・」

 匂い的には柑橘系か。断るのも悪いから飲んだ。超・・・激スッパ!!

 吹き出しそうなのを我慢して腰かがめてたら、クレイバーとヴァロが大笑いだ。

「あっはは!強烈だけど効くからな!!」

「・・・ありがとう」

 ドットにカップを〈洗浄〉してから返したら何か言いそうだったので離れた。


 ランガとヤンがタバコ吸ってたので混ざる。

「ふー」

「おー、復活したな」

「ケツが痛いんだよ」

 骨が肉を破って出て来ちゃいそう。

「肉が薄すぎんだよ。飯ちゃんと食え?」

「鍛えろー?」

 そりゃランガとドットとクレイバーはマッチョだけど他はちょっと鍛えてるなって程度でシャートは細身じゃないか。

 俺は、憧れのイケメンフェイスが似合うボディでいる・・・?レオとかジョニーまでなら良いか?


「それよりお前の剣変わってんなぁ?」

 今は脇差タイプしか差してない。太刀は長いし、見た目からただものじゃ無い感が激しいからいざという時に出すことにした。

「そうそう、前から気になってたんだけどさ」

 剣士のドレイクが貸してって言うので嫌とも言えず渡す。


「ほー?片刄か。細いな。折れないのか?」

 ドレイクは自分の剣を俺に見せる。

 大振りの洋剣だ。

 かなり使い込んでいるが手入れがいい感じに見える。

「それは鍛造で作ってるからそこらの剣よりは硬いと思うぞ」

 ま、ほんとは俺の創造魔法とヴァールの手が入ったなんちゃって刀だけど。


「ほう!ドワーフに作らせたのか?」

 ドワーフ・・・太刀をいつか見せびらかしに行かねばならないらしいので鬱だ。

「いや・・・」

「なんだ?入手先は教えないタチか?」

「あー、ちょっと遠いから」

 作ったのは俺だけど、買えるとしたら日本だしな。


「おーい、そろそろ動くぞ」

 休憩おしまいらしい。


 俺はドレイクにゲルマットを五枚渡して、

「クッションだ。みんなで使え」

と言ったら、いつ用意したんだって。そうなるよな。

「マジックバッグに仕舞い込んでたの忘れてた」

「マジかよ」

 呆れた顔には慣れたぞ。

「布割いて中見ると中身が爆発するから」

「は?」

 びっくりしたドレイクは放っておいて。


 ランガたちと馬車に乗り込んで、みんなにクッションを配った。御者の分も。


「中身出そうとしたら爆発する」

 そう言ったら引き攣っていたけど、出そうとしなきゃ良いんだよ。

 恐々と触って、柔らかさに驚かれ、尻に敷いて心地よさに感動したらしい。


「なんだ?こんなの持ってたなら最初から使えばよかっただろう?」

「忘れてた」

 物凄く残念な子を見てそうな顔をされた。

 

「んで俺たちにも貸してくれるのか」

「あげる」

「ん?高いやつだろ?」

「・・・銀貨五枚くらい」

 代金を払うって言われたけど、ドットたちにもさっき渡して何も貰ってないからと言うとデコピンされた。


 次の休憩地が野営用に整地されてるのでそこで寝るらしい。


 俺がゲルマット三枚重ねて尻を守ってるのを見て爆笑されつつ、二時間後に休憩地についた。


 ドットたちもゲルマットには驚いたらしく、俺の顔を見るなりゲンコツ落として、みんなから銀貨五枚渡された。


「ペーペーが金を取らないとか俺たちの立場がねぇだろう」

「こんな凄いもんホイホイ出すな!」


 うぐぐ。


 俺のケツが大惨事になるより良いだろう。

 自分のケツだけ守るとかケチなこと出来ないし。




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〈新月の雷光〉

 ドット 

 ドレイク 

 クレイバー

 シャート 

〈鋼鉄の拳〉

 ランガ

 ヤン

 ヴァロ

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