ギルマスとモクモク

 部屋の中はモクモクしてた。

 ギルマス換気しないでいたら部屋中に染み付くぞ。


「おぅ、また何かやったのか?」


 なぜやった前提なのか。とても解せない。やらかすと思ってるからすぐ会えたのか。とても心外である。


「うーん、ロック鳥とサルみたいなのに絡まれたから倒したんだけど、ロック鳥デカいからどこに出すのか聞きたくてさー。ジョズさんとこ混んでたし」


「サル・・・?フォレストエイプか?」

 あー、そんな名前だったかな。

「素材売れないって聞いたから魔石と右足しか持ってきてないけど」

 往生際悪くマジックバッグから出してますよのアピールしちゃったけど、ロック鳥控えてるので無駄なんだった。


「五頭・・・これはどこで出た?」

 ちょっと声が低くなった。もしかして危ないサルだったのか?

 ギルマスが森の地図を何枚か出した。

「東門から出てちょっと行った森のちょっと奥?」

 東側の地図上を指でなぞって説明する。

「で、ロック鳥は?」

「小川でちょっと休んでたら南方から飛んできた」

 ギルマス、腕組んで仰向いてシガリロをふっすっーと吹いてきた。

 俺も吸うぞ。

 シガリロのケースをトントンと示してから一本出して火を着ける。

 

「エイプは獲物を見つけると仲間を呼ぶ。一頭ではEランクの雑魚だが奴らは大体三十頭くらいの群れで暮らしている。多数で来るものだから討伐ランクはCだ。五頭で済んでよかったな」

 うを。五頭でもキモかったのに三十頭とか嫌すぎ。行動範囲は広いから遠くにいた仲間がたどり着く前にロック鳥の鳴き声を聞いて逃げたんではないかと。


「まぁロック鳥に出会すのも運が悪りぃと思うがよ。エイプより細かく動かんし、的がデカいからマシだろ」

 マシかどうか知らんけど、俺はほどほどの訓練したかっただけだよ。

 サル三十連チャンとかヤダ。


 ロック鳥はあのサイズだから何か気になったら遠くからでも来るからまさに運が悪いんだとさ。でも早めに気付いて攻撃手段を持ってれば楽なんだそう。その「楽」ってギルマス基準だろ?


「エイプの群れなんざ、ゴブリン無限よりは楽だがな」

 ゴブリンやっぱいるんだ。無限ってなんだよ。

「まぁ、残りが近場にいたら不味いから〈新月の雷光〉と一緒に、明日朝イチで森に調査行って来い」

 え?行って来い?

「容易く五頭倒して、ロック鳥も倒せるなら平気だろう」

 うー、めんどい。やっぱめんどい事になった。


「ロック鳥は全部買い取りか?」

 肉と羽根と魔石が売り物だっけ。

「肉十イルと魔石は戻して欲しい」

「解体は明日には終わっているからエイプの討伐とロック鳥の討伐の報奨金とまとめて計算する。支払いは明日だ」


 そんなわけでロック鳥を引き渡しに裏に連れて行かれた。通常の解体場の裏だった。


「ジョズ!!」

 ギルマスに呼ばれて入ってきて俺を見て、「大物か?」って。


 マジックバッグから出すフリでニュルンとロック鳥を出せば、「無理だからな」と二人に言われた。

 マジックバッグとアイテムボックス系の収納魔法は魔力の流れが違うらしい。

 流れなんてあるのか。

 当然〈新月の雷光〉や〈鋼鉄の拳〉など冒険者生活が長くてそれなりの経験があれば見抜けるらしく、気付いてるだろうって。

 ガーン。

 タバコをポッケから出すとか偽造バレてた。

 

 ヤンがクマ運んでくれたの、俺が隠してるからのお気遣いだったのか。マジ優しい。


「高ランクの冒険者や魔法を使う連中にはほぼ誤魔化せない。「収納使えるが何か?」くらい強気でいろ」

 弱気だと利用しようと囲い込みを企むのいるが「だからなんだ」くらい強気でいれば絡みにくいって。そんなもんか。

 隠そうとするから気になるってことか。

「だからと言って大っぴらにやるなよ」

 

 ダメなんかい!!


「で、ブツに余裕はあるのか?」

 急に真剣な顔になったギルマス。ギルドの仕事より気合いが漲ってる気がするぞ。


 ブツを要求される俺。

 二人のデカいオジサン(六十代)にギラギラされてる。


「・・・幾つ欲しいんだ」

「「どんだけ持ってるんだよ!?」」

 激しく突っ込むなぁ。

 ちょこちょこカートン買いしてるから、五箱ずつならすぐ出せるかな。


 ギルドの裏の裏なので人の気配は無い。


「・・・」

 

 紙タバコ、リトルシガー二種、シガリロ三種をトランプ並べるみたいに出したら。


 二人ともポカーンと口が空いたよ。

 

「おいおいおいおいおい!」

「マジかよ。お前どんな資金力があるんだよ」

 あ、タバコ高いと思われてるんだった。

 

「で、幾つ欲しい?」

「まさかこんなに出てくるとは」

「こんな機会はないと思えば・・・」

 

 全部お買い上げだったよ!

 値段については揉めた。


 俺は転売で稼ぐ気はない。

 向こうは安過ぎると怒る。


 安過ぎると怒るってどんな状態なんだろうな。

 値引き交渉やおまけするのが当たり前だと思ってたよ。


 だけどランガたちに売った一箱金貨二枚に決定で俺の勝ちだ。

 すでに大儲けなんだよ。

 端数繰り上げで払ってくれたぞ。ギルドタグで口座入金だけど。

「現金は小銭しか持ち歩かん」

「現金の管理は嫁だからな」

 サラリと既婚者ムーブされたぞ。

 俺の嫁予定だったあのアンナ、管理なんかさせたら破産だったぞ!


 あれ?ギルマスかドットかの嫁、財産持ち逃げとか家乗っ取りしたんじゃなかったっけ。

 それでも預けるって、この世界では嫁管理が普通なの!?それでも再婚するってチャレンジャーだな。


 俺、独身でもいい気がしてきた。


「じゃぁ明日は頼むぞ」

 森に行くのは別にいいんだけど、誰かと一緒じゃタバコと酒が楽しめんでしょうが。

 じゃなくて訓練出来んだろうが。

 まだ一緒に行くのが知ってる顔なだけマシか。


 あー、早く帰って〈ルーム〉で酒飲もう。



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