6
ユウは、辺りがすっかり明るくなる前に帰ってきた。左手には、コンビニエンスストアの買い物袋をぶら下げている。
「ただいま。」
ユウが当たり前にみたいにそう言って、ソラは反応するのが数秒遅れた。そんな平和な挨拶をしたこともされたこともなかったので、正しい返事の仕方を思い出すのに数秒かかったのだ。
「……お帰りなさい。」
ユウは、ソラのそんな微妙な沈黙にも構わず、平気な顔でテーブルにコンビニ袋を置いた。
「コンビニ弁当。……カップ麺よりはましだと思うんだけど、あんま変わらないかなぁ。」
ソラは黙って、ビニール袋から弁当を二つ取り出した。ソラにも、カップ麺とコンビニ弁当の栄養素の違いなんて分からなかったのだ。
「明日からは、仕事に行く前にスーパー行って、なんか晩飯作ってから仕事出るかなぁ。そしたらソラも、腹減ったら適当に食えるもんな。」
明日から。
ソラはユウが何気なく口にしたその台詞に意識を持って行かれた。だからまた返事は少し遅れた、
「……俺は、なんでも。」
「そんなこと言ってると、背ぇ伸びなくなるぞ。」
そんなこと言わなくても、15歳になってもせいぜい12くらいにしか見えないソラの身長は、多分成長を止めているらしく、伸びる兆しはここ数年さっぱり見えていなかった。もしかしたら、ちゃんと飯を食ったらまだ身長は伸びるのだろうか。ソラは内心で首をひねりながら、温められたコンビニ弁当をテーブルに広げた。ユウは台所に行って、朝ごはんの残りのキャベツを皿に乗せて戻ってきた。ないよりましだろ、と笑いながら。
いただきます、と、二人で手を合わせてからコンビニ弁当に箸をつける。ユウが、つけっぱなしになっていたテレビにふと目をやった。
「テレビ、見てたの?」
「はい。」
「ずっと?」
「はい。」
「飽きない?」
「……テレビって、見たことほとんどないから、珍しくて。」
ソラは、そう正直に答えた。そして、ちょっと躊躇ってから、本当は本も読んでみたいのだけれど、字があまり読めない、と付け加える。ユウは、特に驚いたそぶりも見せず、そう、と頷いた。
「なんか、学習帳みたいの買いに行こうか、明日にでも。」
「え?」
「字。読みたいんじゃないの?」
「……はい。」
そうじゃなくて、なんであなたがそこまでしてくれるのかが分からなくて、怖い。
そう言いかけて、言葉にはできなかった。夢の中で、これは夢だと口にしたら、そのまま夢が終わるような気がして。
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