第八話 初めての戦闘訓練

 <五十栗いがぐり栗太くりた、視点>


 こいつ力が強え。


 俺は五十栗栗太、十五歳、発現者だ。

 小学校の頃から運動は学年一位。五十メートル走は五秒台。俺より運動面で優れているやつなんて、そうそう現れることは無いだろう。そう、たかをくくっていた。だが現れた。

 目の前にいるこいつだ。こいつは成瀬圭介。俺のクラスメイト。入学初日から能力を発現させて、みんなからチヤホヤされてるやつ。なんだかいけすかねえ。かく言う俺も……


「っく」


 悪態をついても、ミッドの重さは変わらない。目の前の彼は、容赦無くパンチを入れてくる。


「やめっ! そこまで!」


 綺羅星先生の声が響き渡るのと同時に、その場にいる全員が動くのを止める。


 今は戦闘訓練中、ここは第一体育館だ。さっきまで俺たちはローテーション形式でペアを組み、ミッドを殴る練習をしていた。


「今日の訓練はここまでだ。みんな私の周りに集まってくれ」


「ふー、はー」とクラスメイトの各々が息をつきながら歩く中、俺は次の戦いに備えていた。

 なぜなら、戦闘訓練の後には模擬試合があるからだ。模擬試合は勝ち残り制。前回の勝者は俺、今のところ三連勝中だ。


「では、今日も毎授業恒例、模擬試合を行う。前回の勝者、五十栗栗太くん。君は誰と戦いたい?」


 そんなのもちろん決まってる。いけすかねえあの野郎だ。


「成瀬圭介くんで、お願いします」


「え、俺?」


 指名した途端、気の抜けた声をあげる成瀬圭介。いいザマだ。


「よー、四日前に俺たちを異形から助けてくれたヒーローさんよぉ。どっちが強えか決めようじゃねえか」


 <成瀬圭介、視点>


「よー、四日前に俺たちを異形から助けてくれたヒーローさんよぉ。どっちが強えか決めようじゃねえか」


 なんだこの、THEかませキャラは……!! と俺が驚いていると、それを遮るように綺羅星さんが口を開く。


「いいかい、二人とも。では始めよう、位置についてっ」


 その声を聞くなり、俺たち二人はそそくさと体育館の中央へと向かった。


 体育館の中心を挟み、向かい合う。相手との距離は三メートルほど。あとは綺羅星さんの開始の合図を待つだけだ。


「そうだー! 言い忘れていたけれど! 五十栗くんは能力を使っていいからね〜!」


 ? 俺は? てかそもそもアクマは……どこだ。

 声の聞こえた方に首を動かすと……いた! アクマが……ガッチリと、綺羅星さんの胸元にホールドされている。


「え、ちょ、俺は!? 能力使えないんですけど!?」


 俺の声が聞こえていないのだろう。綺羅星飛鳥はせっせとバリケードを張っている。俺たちの戦闘に、みんなが巻き込まれないよう、ひたむきに作業するその姿。お見事! よっ! 先生の鑑! じゃなくて……俺の……能力……


「はじめっ!」


 バリケードを張り終わった瞬間、綺羅星飛鳥は流麗な声を発する。


 あわてて首を元に戻した瞬間だった。俺の腹を鈍い痛みが襲う。殴られた。腹を。

 思わず口から唾が飛び出す。

 殴られた反動で身体が四メートルほど飛ばされたが、何とか尻もちはつかずに済んだ。


「女々しい顔してやがっからよぉ、顔は殴んないでやったぜ」


「……お前、後で後悔するぞ……」


 腹から何とか声を捻り出す。

 確かに目の前にいる彼は強いと思う。だが四日前に戦った異形ほどはもちろん強くないし、今の俺にアクマが居ないことを差し引いても、おそらく俺の方が一枚上手だ。


 いける。そう思った時だった。俺の身体が貫かれていたのは。






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