第34話 学年末パーティー


――――学園の学年パーティーがやって来た。


私は婚約者のルークにエスコートされながら、パーティーの地へと足を踏み入れる。


そこでは、先にメロウのパートナーを務める兄さんと、ティエンとエマが待っていた。

本来卒業予定の3年生は参加しないが、兄さんはメロウのパートナーとして例外で参加している。下級生に婚約者や兄弟がいたり、パートナーをお願いする相手がいれば、3年生が参加することもあるのよね。しかしメロウは毎回兄さんとよね。何か……いやいや、単に同僚だからやりやすいってだけかもしれないけど。


――――それから……。


探しびとを探そうとしていれば、声がかかる。


「ミシェル、お待たせ」

「ミシェルさん、相変わらずおかわいらしいですわ」

そうして現れたのは、グレンとジェシカ……。うん……?腕を組んでいる?


「あの……グレン、まさか……っ!」

「ええと……その……こ、婚約したんだ」

ええぇっ!?グレンの意中の相手って、まさかのジェシカ~~っ!


「これでも身分はどうとでもなりますしね、隊長」

ジェシカがルークににこりと笑いかける。

「ははははは」

る、ルークったら……まさか、グレンのために……!?いや、部下のジェシカのためかしら。しかし……。


「剣を嗜むもの同士、気も合いますし、これでもどんな場所にも潜入できるよう鍛えておりますので」

確かにジェシカなら侯爵令息の婚約者も立派に務めそうだわ。


「母上も、父上も賛成してくれて」

ティルダさまは言わずもがな……だけど。


「ま、そこは上司の推薦があれば」

と、しれっとルーク。えぇと……誰も知らないところで表裏の近衛騎士団長同士がやり取りを……?


「まぁ、何はともあれ、2人とも、おめでとう!」

戦友と、大切な友人が結ばれるだなんて、幸せだわ!


「ありがとう、ミシェル」

「ありがとうございます、ミシェルさん」

幸せそうな2人をみれば、私も幸せな気分になるわね。

そうしてみんなできゃっきゃと歓談していれば、不意にルークが顔を上げる。


「おじょ……ミシェル、そろそろファーストダンスの時間だ」

「……そうだわ……っ!」

1年生で一番身分が高いのは私だから。この場でファーストダンスを踊るのは、私である。そしてそのエスコートはルークだ。


2人でパーティーの開幕を告げるファーストダンスを踊る。


「上手なのね」

「俺だってジェシカの上司だからな」

ダンスも潜入用に覚えるのかしら?けれど、そのお陰で、ルークと踊れるのはありがたいわね。


そうしてファーストダンスを踊り終えれば、たくさんの拍手が沸き起こる。このあとは、ほかの同級生たちが順番に踊ることになる。私たちはそそくさと退散……と思ったのだが、ホールドを組もうとする生徒たちを押し退けて、こちらに来る姿があった。


「そこまでよ!ミシェル・アンバー!」

現れたのは……コーデリア。一応ドレスは着ているし、退学になってはいないのだから、学年パーティーに参加する資格はあるのだ。

しかし……どうしてこうまでしつこく、ミシェル・アンバーにこだわるのか。

何が彼女をそこまでさせるのか。


原作の世界が完全に崩壊し、この世界の住人が意思を持って廻だした中、コーデリアだけが未だ取り残されているような感覚だ。


そして復帰したコーデリアの隣には、もうジョゼフィーナはいなかった。ジョゼフィーナの今がどうなったかは分からないけれど、しかし本当にコーデリアは……原作に囚われ、原作を遂行し続けた結果……ひとりになってしまったのね。


「あなたがどんなに足掻いたところで、原作のゲームのようにみんなを攻略したところで、この世界の真のヒロインは私よ!コーデリア・ホワイトベルだわ!だから……私はあなたになんて屈しない!必ずミシェル・アンバーからこの世界を取り戻すわ!」

「あなたね……いい加減にしなさいよ!」


「……なん……っ、あなたが何を言ったところで……あなたはこの世界の異物……」

確かに原作のコーデリアは、ミシェル・アンバーの断罪の時にそんなことを言っていたわね。

原作の中のゲームの知識を持ち、ゲームのシナリオ通りに世界を廻そうとするミシェル・アンバーこそが原作の中の異物だと告げ、ミシェル・アンバーを原作の舞台から下ろさせるのだ。


確かに……異物。私はきっと異物だわ。この世界ではない世界の記憶を持ち、原作ではミシェル・アンバーだったと言うのに、今はミシェル・ナイトレイ。

ルークと結婚すれば、ルークがアンバー男爵の位を預かり、臨時の男爵となる。

そして私の血を継ぐ子どもが、男爵位を継ぎ子々孫々に渡り紡いでいく。

結果的に私はミシェル・アンバーに戻るのだろう。だがそれは、原作のミシェル・アンバーでも、原作の中のゲームのミシェル・アンバーでもない。


「私はミシェル・ナイトレイ。将来アンバーの苗字を継ごうとも、それは、私の産みの父が命を懸けて守ってくれた、兄さんのお母さまが慈悲をかけようとした、兄さんがその2人の遺志に報いようと必死で足掻いて、繋ごうとしたアンバー男爵家よ。それすらも知らないで……ミシェル・アンバーの名を呼ばないでよ!」

兄さんの両親の命を奪う原因を作ったのは、ホワイトベル公爵家だ。コーデリアがその件にどれだけ関わっていたかは分からない。けれど……。


「あなたは知らなければならなかった。屋敷に閉じ籠ってばかりいないで、外の世界で、ホワイトベル公爵家が何をしてきたかを知らねばならなかった……!あなたが生きているのは原作の中の世界じゃない!私たちは……原作の世界じゃなくて、この世界を生きているの」

「原作……やっぱりあなたも、転生者……っ」

私は、あなたが転生者であることにとっくに気が付いていたわよ。

それすらも、あなたは知ろうとしなかったのね。


「ここは、私の世界よ……コーデリア・ホワイトベルがヒロインの世界よ……!私の……私とジョゼの世界を返してええぇっ!」


「自惚れるんじゃないわよ!この世界はあなたとジョゼフィーナのための世界じゃない……みんなのものよ!」

ほんっと、ふざけんな!アンタのせいでどんだけのひとが苦しんだと思ってんの!?

その上、生き延びた私たちをさらに原作の世界に閉じ込めようとするなんて、どういうつもりなのよ!


「その通りだ」

ルークが私を抱き寄せて告げる。


「お前はこの世界に相応しくない」

ルークが氷点下の空気を纏わせる。


「この世界で生きようとしない……お前にはな」

「は……?」

コーデリアがぱちぱちと目をしばたかせる。


「ご退出願おうか」

「なに、お前が暴れるようなら問答無用で叩き出せと、主……学園長からも指示を得ている」

ティエンとエマががしりとコーデリアの腕を押さえ付ける。


「ちょ……っ、何なのよ!放してよ!」

しかし、鍛えぬいた2人の拘束から、箱庭の中で甘やかされてきたコーデリアがかなうはずもない。


コーデリアはぎゃんぎゃんと泣き散らしながら、この場から退出させられることとなった。


「ミシェル」

コーデリアのわめき声が聴こえなくなって、しんと静まり返ったパーティーホールで、ルークが私を呼ぶ。


「……そうね」

ここでは私が、学年代表だ。向こうで兄さんも頑張れと手を振ってくれるから。


「みなさん、パーティーに水を差す出来事もありましたが、今日は1学年最後のパーティーです!一年間みなさんが積み重ねた努力をねぎらい、そして来年も切磋琢磨し合えるよう願いを込めて、パーティーを楽しみましょう!」

そう告げれば、周囲から賛同の拍手が溢れる。そして再開した音楽と共に、同級生たちの華やかなダンスが幕を開けた。


「お疲れさま、ミシェル」

「あんまり柄じゃないんだけど」

でも……あなたと、仲間と一緒なら、頑張れる。


「それは俺もだ」

「ルークったら」

まさに、似た者同士ね。


そうしてパーティーを無事に乗り越えた私たちは、また温かい家族の待つ場所へ、帰るのだ。


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