第31話 冬が来たりて


――――秋はコーデリアとジョゼフィーナ問題が起こったとはいえ、2人はその後も反省せずに好き勝手な理論を叫び、あることないこと私の悪口を言いまくったために、謹慎となった。


騒がしい2人のいない静かな学園生活も、無事に冬休みを迎えた。


「冬と言えば、ホーリーナイトがあるのよね」

感覚的には前世のクリスマスであろう。


「ホーリーナイトは神殿に行くのでしょう?」

「そうだね、お嬢」

ホーリーナイトのお菓子の包装を手伝ってくれるルークが頷く。


「その後は併設の孤児院ね」

ナイトレイ公爵家が支援をしている孤児院だ。


「懐かしいな。いつぶりか」

「ルーク、行ったことがあるの?」


「……俺の育った場所だ」

「ルークの……っ」

普段はなかなか知ることのない、ルークの出生の話である。


「じゃぁ、ルークの実家ってことね」

「……実家……?」

「……嫌、だった……?」

ルークは私のように、育った孤児院に嫌悪は抱いていないように思えたのだが。


「いや……そんなことはない。あそこは俺にとっては唯一の育った家だよ。今は……お嬢のいるここが家だけど」

「そうね……私も孤児院にはあまりいい思い出がないけど……子どもの頃、エマと過ごした大切な場所よ」

それだけが、あの孤児院で得られた唯一の宝物である。


「そう言えばあの孤児院……その後どうなったのかしら」

「知りたい……?」

「知ってるなら、聞きたいわ」

さすがと言うか、何と言うか。諜報部隊ってそこまで掴んでいるの……?もしくはエマが潜入していたところだから、ホワイトベル公爵家を探る中で、そこも見張っていたのかも。


「神殿の人員や、孤児院の職員は、神殿に圧力をかけて替えさせた」

「圧力って……いいの……?」

各公爵家の力が働いているのも、ある意味圧力だ。私を孤児院で冷遇したのもホワイトベル公爵家からの圧力が関わっているだろう。しかし……堂々と圧力をかけて人員を入れ替えなんて……いいのかしら。神殿側から抗議が来ない……?神殿はひとつひとつ独立したように見えて、実際は大神殿と言う大きな組織を中心に繋がっている。何かあれば、大神殿が動くわよ。


「実際にやるのは大神殿なのだから問題ない。それに……エマが忍び込めたと言うことは、大神殿に我らの手勢がいないわけがない」

思えば……そうか。至るところに彼らの目があるのだ。本当に、敵に回すと恐い連中であり、私もナイトレイ公爵家の養女なのだから、関係者である。

そんな彼らを敵に回したコーデリアたちは……本当にツイていないわね。

真のヒロインとしてのチートも、彼らには意味を成さなかったようだ。


「今は新たな体制の元、運営されている」

そうね……私は当時ほかの子どもたちにも虐められたけど、悪いのは子どもたちじゃない。そんな歪んだ考えを植え付けた、大人たちだもの。だから私は子どもたちには、新たな体制のもと、ちゃんとした大人になって欲しいと願うわ。少なくともコーデリアやジョゼフィーナのようにはなって欲しくないわね。


「ナイトレイ公爵家の息のかかった孤児院も、ちゃんとね」

ルークの実家ってことね。


「会うのが楽しみだわ」

私もナイトレイ公爵令嬢として、ホーリーナイトは彼らを慰問し、プレゼントを配ることになっているのだ。


「喜んでくれるかしら」

菓子の包みを眺めながら、思いを馳せる。


「俺は嬉しかったよ。子どもの頃、ティルダさまが、よく訪問してくれたからね」

ティルダさまが……っ!思えばティルダさまも公爵令嬢だったのだ。

ホワイトベル公爵家のコーデリアとは違い、ティルダさまは貴族令嬢の務めも果たしていたと言うことだ。


「ティルダさまのように、できるかしら」

「お嬢はお嬢らしくあればいい」

「……うん、ルーク」

本当に……不安を抱えている時は、そうして励ましてくれる。どうしてかルークは、私のことを深く深く、理解してくれているように感じるのだ。何だか懐かしい感覚を覚えるのも、そのせいかしらね。


そしてお菓子の準備を終えれば……私たちは孤児院へとやって来た。


「お姫さまー!」

「貴族のお姫さま?」

「きれー!」

わ……私が……!?しかし、屈託のない笑顔を見せてくれる子どもたちの言葉に嘘もお世辞もない。

きっとその純粋な尊敬の眼差しは、ティルダさまが築いてくださったものだわ。だからこそ、私もその眼差しを、次代に繋げられるように。


「ミシェルです。今日はみんなにたくさんお菓子を持ってきたから、味わって食べてね」

そう告げれば、子どもたちがきゃっきゃと喜んでくれる。


「ほら、お前らちゃんと並びな」

そして孤児院の職員たちに混ざり、子どもたちにそう声をかけ、頭をなでなでしているルークは……。何だか彼らのお兄ちゃんみたいね。いや……ルークは実際にここの出身なのだから、彼らのお兄ちゃんよね。

私はルークと一緒に、順番に並ぶ子どもたちにお菓子を配ってあげて、その後は子どもたちと遊ぶ時間がとれて、私はお絵描きを、ルークは神殿の多目的ホールで、屋内でもできるボール遊びを一緒に楽しんだのだった。


そうして子どもたちとの交流が終わり、私たちは神殿の祈りの間を訪れた。


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