第29話 創立記念パーティー


思えば原作のミシェル・アンバーの断罪は、学園のパーティーだったわね。とは言え、それは冬が明けた学年末のパーティーである。


今は晩秋。10~11月くらいの感覚だ。

でも、パーティーと言う一大イベントをコーデリアが利用しないとも限らない。完全に追い詰められていると言うこともあるわね。

焦って行動に移したとしても、不思議ではないわ。


しかも私は、ミシェル・ナイトレイとして参加することになっている。もうアンバー男爵令嬢ではない。とは言え……不安はある。だからこそ……。


「パートナー?」

「そうよ。あなたは私の騎士なんだから。ルーク」


「……お嬢」

私は学園からの招待状を、ルークに手渡した。


「もう、傷はいいんでしょ?」

「まぁ、侍医からは元通りの生活を許されたよ」

騎士として、私の側に再びつきつつも、まだ無茶はしないようにと言われていたものの、この頃はすっかり元の調子を取り戻している。

本当に……無茶ばかりして。


「踊ってだなんてのは頼まないわ。ただ、あなたに隣にいて欲しいの」

万が一ってことがあるもの。学園には相変わらずコーデリアとジョゼフィーナがいる。創立記念パーティーと言う日に動き出さないとも限らない。だからその時には、ルークに隣にいて欲しいと願うの。


「……グレンや、アンリは……」

「2人とも、ジェシカやメロウに誘われたわ。パートナーを組ながら、護衛もするって張り切ってる」


「……アイツら……まぁ、互いに事情を知ってるし、いい手ではあるがな」

「あれ、でもティエンは……」


「アイツもアイツで誘ってるよ」

そうなの……?私はまだ聞いてなかったから、驚いた。


「そして俺をお嬢につけざるをえなくしたのか……全く……」

もしかしてみんなの過保護の賜物だったのかしら……?


「分かったよ。お嬢、俺がお前を守ってやる」

ルークが私の目の前に跪き、手の甲に口付けを落としてくれる。

もう……そう言うところは、騎士なんだから。


※※※


創立記念パーティー・当日


現状学園で一番身分の高い令嬢令息が、スピーチを行うのよね。

もちろん、今まではアルト、ジョゼフィーナ、コーデリアだった。


アルトとジョゼフィーナが失脚した以上は、私の兄さんがナイトレイ公爵子女となったことで、家の歴史的にも、現状の高位貴族としての信頼度もナイトレイ公爵家の方が高い。そして仮に私が欠席したとて、スピーチを行うのは、公爵家の次の高位貴族……侯爵家の子女が妥当だ。


それほどまでにホワイトベル公爵家はやらかしているし、当のコーデリアもジョゼフィーナのことを頑なに信じ、原作のミシェルを押し付けてくる。

その上、グレンに婚約を打診したことも貴族社会や学園で広まって、非難の真っ只中なのである。


さすがにそのような立場のコーデリアを、学園の顔として、創立記念パーティーで祝辞をのべさせる……なんてことはできまい。


だから今回は、3年生の兄さんがその役目を務めた。兄さんが創立記念の祝辞を述べ終えれば、パーティー会場から拍手があがる。


去年とは違う。ジョゼフィーナに荷担しなかった生徒たちは祝福してくれている。荷担したものたちは一時期コーデリアについたものの、あの顰蹙の買いようである。もうコーデリアではダメだと諦めモードだし、かといって私に鞍替えすることは、ティエンやグレンたちが許さないのよ。


兄さんが壇上から退出し、パートナーのメロウと合流してこちらに戻ってきた。

そうして、創立記念パーティーが始まった。


――――とは言え、どう楽しんだものか。やはり友人たちと……よね。グレンやジェシカ、メロウとパートナーの兄さんと集まって、歓談である。

あれ、そう言えばティエンは……。

キョロキョロと辺りを見回していれば。


「な、ナイトレイ公爵令嬢!」

不意に私を呼ぶ声がある。

養女になってから、高位貴族の子が挨拶に来たことはあれど、それでもグレンや近衛騎士団繋がりで侯爵さまを介して……などと言うことが多かった。

直接何の前触れもなく、ぶしつけに話しかけてくるなんて……どなたかしら。

思えば原作のミシェルも同じことをやっていたが……現実のミシェルもそんなことはしたくはないと思っていた。今では私が高位貴族令嬢の立場なわけだが。

しかしその立場でよこしまなものから守られることも多くあるのだ。


だからこそ、元平民、原作では男爵令嬢だったけれど、拾ってくださったお父さまに恥じない対応をしなくては。


「その……ご機嫌麗しく……」

そう語りだした数人の貴族令息たち。

しかし……誰だったかしら。

少なくとも現在築いている人間関係の外にいる令息たちだ。


「その……まだあなたは婚約者がいないと……」

「是非お近づきに……っ」

こんなあからさまにそんな申し出をしてくるなんて……!た、確かに婚約者はいないけれど、普通は家を介さないかしら……?まぁ、うちにきた縁談はお父さまが処理してくれているから、私が縁談を申し付けられることはない。

その現状に少しホッとしつつも……ダメよ。ルークを望むのは。もう二度と、無茶はさせたくない。


「へぇ、よくも恥ずかしげもなく、ミシェルさんに話しかけるものだ」

その声は聞きなれているはずなのに、どうしてか……どこか男気がありそうな感じがするのだが。


「ミシェルさんがジョゼフィーナに虐げられるのを嗤って見物にしていたくせに、いい度胸だよ」

「ティエン!」

それはティエンだったのだが……うん……?男装……かしら。そしてその隣にいたのは……。


「エマ!?」


「えぇ、ミシェルお嬢さま」

「シークレットゲストだよ」

ティエンがニカリと笑う。


「さて、そう言うことだ」

続いてティエンが令息たちに凄みのある眼差しを向け、エマもまた、武人としてのオーラを放っているようだ。


「何を……っ、お前こそどこの家のものだ……!」


「彼女たちは我がナイトレイ公爵家のお抱えのものたちです。彼女たちに不遜な態度をとるのなら、ナイトレイ公爵家としても黙ってはいられません!」

お父さまが大切にしている、ナイトレイ公爵家の騎士たち。私にとっても彼女たちは大切な存在……家族なのよ。


私が堂々と告げれば、令息たちがキッと目をつり上げる。


「平民出のくせに、生意気だ!!」

「そうだそうだ!成り上がりのくせに!」

自分たちの思いどおりに行かないからって、今度は暴言!?

平民出をバカにするくせに、貴族の礼儀も知らないのかしら。むしろ平民の方が礼儀を知ってるわよ。

貴族教育をちゃんと受けて来たのかしらね……?


「そこまでだよ」

その時、私には慣れ親しんだ、彼らには顔面を蒼白にさせる人物の声が響いた。


「ここは学園だからね、私の私情で公爵家の権力を使うことはないが、しかし他者への礼儀が欠ける件については、君たちの家によく教育しておくように申し伝えよう」

お……お父さまったら。確かにそれは学園から学園長として、伝えるのだろうが。各貴族家からしたら、公爵本人からの抗議に変わらない。

令息たちに関しては自業自得だし、貴族家も基本的な教育を怠ったことを反省して欲しい。むしろ、人間として必要なことをしっかり教えていれば、平民出だからとジョゼフィーナが好き勝手しているのを、堂々と笑って済ませはしないわよね。


「さて、パーティー会場に居座るのは勝手だが、相応の立ち振舞いをしないのなら、強制的に退場してもらうことになる。もしくは自発的に退場してもらっても構わないよ。学園長権限で、生徒の自発的な行動を認めよう」

そうは言っても……あの令息たちは、お父さまや周りに睨まれながら、パーティー会場で大人しくしている度胸はなく、そそくさと会場を後にしていった。

ふぅ……何とか切り抜けられたようだ。このまま何事もなく済めばよいのだけど。

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