第27話 コーデリア
――――ルークとのわだかまりが少しだけなりを潜めて、翌朝。
「学園には頼りになる護衛がいるから問題ないが……無理をせず休んでもいい。さすがにいろいろなことがありすぎただろう」
「それは……」
確かに彼女たちのお陰で、私は平穏な学園生活を送れている。
もしもルークが心配ならば、ルークの看病をすることも可能なのだろう。
でも……。
「学園には行きます」
ただでさえ、前期はろくに学園生活を謳歌できていないのだ。
それもあるが……。
「ルークには、しっかりとお昼寝、させてあげてくださいますか?」
昼寝がライフワークのような騎士だもの。昼間ゆっくり寝て、夜は私お手製のお粥をいいこで待っていてもらわなければ。
そうして私は今日も学園へと赴いた。さて、今日もみんなと授業に……。
そう思った時だった。
「ミシェル・アンバー男爵令嬢!」
そう高らかに告げた声に思わず振り向いた。そこにいた思いもよらない人物に驚愕する。
「一体どのような手を使い、数々の悪事を企んだのかは分かりませんが、お兄さまや殿下を失っても、私は、ホワイトベル公爵令嬢コーデリアは、あなたと正々堂々、戦います!」
そう、その少女はコーデリア・ホワイトベル公爵令嬢だったのだ……!金髪にサファイアブルーのツリ目、圧倒的な美貌。それはまさに、悪役令嬢でありながら、物語の真なるヒロインであった。
でも……何を今さら。公爵家に引きこもっていたくせに、何様なの!?しかも正々堂々って……自分は引き込もって、手下と言うか手駒に全てをやらせていたくせに、何を言っているの……?
そもそも私は……。
「ジョゼ、もう大丈夫よ。私がついているから」
「えぇっ!コーデリア!」
コーデリアに名を呼ばれたジョゼフィーナが、ウキウキしながらその横に侍る。そしてかつてジョゼフィーナとつるみ、私を虐めてきた令嬢たちもまた、肩身の狭い思いから脱却したかのようにコーデリアの周りに集うのだ。
そしてコーデリアと言う新たな御旗を手にした彼女たちが、ニィと口角を吊り上げる。そんな異様な笑みを味方につきながらも、コーデリアは嫌に高潔なオーラを出しつつ、私に向き直る。
「あなたが私の親友のジョゼに何をしてきたか、全て聞いています。そしてジョゼが王女の立場まで失い、学園での立場も失うなんて……こんなの、絶対に許せません!」
何が許せないよ、ジョゼフィーナがやったことを棚に上げて、ジョゼフィーナが私に何をされたのよ。
国王陛下から王女の立場を没収され、お父さまの手により伯爵家の預かりとなったのは、全てはジョゼフィーナのした悪辣な行為が原因である。それを、知っていて言っているのか、本当にジョゼフィーナの言葉を何の疑いもなく信じているのか。
どちらにせよコーデリアと言う公爵令嬢は……実に愚かである。そして自分の目で真実すら見ることがなかったのは、確実に彼女が表に出ず、引きこもることを選んだからだ。
引きこもることは別に悪いことじゃない。私だって前世では、外に出られない時期があった。だが、それを理由に真実を見ようとせず、偽りで相手を非難するのは……たちが悪い。
「知らないわよ、そんなこと……!」
ティルダさま、兄さん、ごめんなさい。公爵令嬢らしく怒れたらもっと良かったのだけど……今の私の思いを伝えるのなら、これが一番だ。
「な……っ、ミシェル、アンバー!?」
「そもそも私はミシェル・アンバーではなく、ミシェル・ナイトレイ公爵令嬢です!」
「それだって、ナイトレイ公爵を誘惑して無理矢理手にした立場だと、ジョゼが……」
「煩いわね……!ずっと閉じ籠って自分で真実を、外の世界を見ようともせず、都合が悪くなったらジョゼジョゼジョゼジョゼ!うっさいのよ……!ジョゼフィーナが何よ!その名前を聞くたびにうんっざりなのよ……!!たまには人任せじゃなくて、自分の目で真実を見なさいよ……!」
「ひ……人任せでは……私は……誰よりもこの世界の真実を知っています!あなたがどんな悪どいことをしたかも……」
「じゃぁ言ってみなさいよ!あなたがその目で見た私の悪どい言動を……!人聞きじゃなくて、あなたの目で見た真実よ……!」
とは言え顔を合わせたのは今日が初めてである。コーデリアが見ているはずがない。
「あ……あなたは、私の婚約者のアルト殿下にぶしつけに言い寄り、腕を組もうとしたり、あからさまなボディタッチをしようとしたり……」
「はぁ!?ふざけんな!アンタの婚約者?そいつはね、正々堂々とした決闘を妹かわいさに反故にしたり、自分の立場が危ういからと自分の弟を襲って、さらには私に斬りかかろうとしたのよ!?何がボディタッチよ!あんなやつに触るだなんて、死んでもごめんだわ!!」
「そんな……よくもそんな酷いことを……」
「したのはアンタの婚約者でしょ!それにアレはもう王子じゃないわよ!現王太子を殺そうとした国家犯罪者よ!」
「それだってあなたがヒロインのチート力で……」
ヒロインのチートねぇ……。そんな言葉がポロっと出てくるなんて、コーデリアはやはり……転生者か。しかも確実に原作を知り、私を原作でのミシェル・アンバーそのものだと認識しているのだ。
だから会ったこともないのに、原作でのミシェル・アンバーの言動を、私の言動だとのたまう。
「グレン……!あなたは私の話を信じてくれるでしょう!?」
おもむろに、コーデリアがグレンに語りかける。まるで相手にされないからと、自分の思いどおりにいかないからと、強制力から解放されたグレンを頼るだなんて……どういう神経よ。
むしろこの場でグレンを頼ろうとするのなら、あなたこそ原作の真のヒロインチートを利用しようとしてるんじゃない。
「あなたは、そこのジョゼフィーナが彼女に何をしたか、知ろうともしない。それにあなたの兄も、彼女の兄に許されないことをした」
「あなたはミシェルに騙されていたのよ!」
「なら、俺はジョゼフィーナとコーデリア嬢……あなたに騙されていました。コーデリア嬢、あなたが話したミシェルの話は……全てでたらめじゃないか!」
グレンの怒りが爆発する。
「私は嘘なんて……っ」
その勢いに、コーデリアが涙ぐむ。ひとを勝手に破滅系ヒロインに仕立て上げ、自分はひとり安全な公爵家に籠っていた。
駒がなくなったらのこのこと出てくるだなんて。
自分の身を守るために動くのは結構だが、自分で戦いもせずひとり安全な場所に閉じ籠るのは違うでしょ。あなたが作った原作の設定で、ジョゼフィーナや取り巻きたちがやったことを、ちゃんと知るべきだった。
涙を飲みその場から駆け出したコーデリアを、ジョゼフィーナたちが追い掛けていく。
やれやれ……ここでもまた、逃げるのね。
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