第24話 ジョゼフィーナ


兄さんに勉強を見てもらったお陰で、後期からの授業にも、問題なくついていけている。

もし分からないことがあればいつでも言ってと言ってくれた、護衛の彼女たち。


黒髪のティエン、ブラウンゴールドの髪のジェシカ、赤紫の髪のメロウ。みんな親切で、そして今は学友として仲良くできるのが嬉しいなぁ。実態は……諜報部隊の精鋭なのだが。


それにむしろ……彼女たちに勉強をサポートしてもらっているのは、グレンの方ね。彼女たちにサポートしてもらいながら、必死である。剣ならば、最近はエマにも拍手をもらうほどには腕をあげているらしい。

兄さんからはまだまだ一本とれていないようだけど。


そうして穏やかな学園生活を送る最中、叫び声が聞こえてくる。


「まぁ……またあの方ですの?」

ティエンがやれやれと嘆息する。


「どうしてわたくしが補習など受けなければならないんですの!?」

「単位を取られていないでしょう」

喚き散らすジョゼフィーナの前に立つのは教師陣である。思えば教師陣もガラリと変わったようで、前期にジョゼフィーナを贔屓していた教師たちの姿は見えないわね。


「あなたはまともに授業に出ていない」

「わたくしは王女だからよ!」


「もう王女ではございません。勝手に国王陛下のご息女を騙ることは、国王陛下への不敬に当たります」

「なによ、ぱぱはわたくしのぱぱよ!」

この期に及んでまだそんなことを……。


「あなたは、基本的な貴族教育からやり直さねばならぬようですね」

「わたくしは王女よ……!貴族貴族なんていらないのよ……!」

あなたが王女としての教育をちゃんと受けていればね。けれど授業もまともに受けず、いつもお茶を楽しんでいたように思う。コース料理のマナー講習にはいたが、私の前で美味しいものをたらふく食べてほくそ笑むことしかしてないのだから、とてもじゃないがあれで単位はもらえないだろう。

どうやら学園は、彼女がずるをして単位を得た事実まで遡って処罰を課したらしい。


――――一方で私も前期の授業はジョゼフィーナのせいでまともに受けられなかったが、ティルダさまのマナーレッスンと、兄さんからの補習を特別に単位に換えてもらう処置をとってもらったから、通常どおり後期の授業から受けられるのだ。しかしその原因となったジョゼフィーナも代替措置を受けられるだなんて、そんな都合のいい話、あるわけがないでしょう……?

そもそも、あのジョゼフィーナが黙って補習を受けるはずがない。


「なら、学園長を呼びなさい!学園長なら、この私をちゃんと優遇してくれるはずよ……!」

学園長……学園長か。入学の時は入学式を悠長に受けている場合じゃなかったし、ジョゼフィーナたちからの嫌がらせは既に始まっていたから、顔を見たことがないのよね。


「そうかそうか、それは面白いことを言う」

うん……?この声は。くるりと振り返れば、後ろに見知りすぎた顔がある。


「お父さま……!?どうしてここへ……」

「やぁ、愛しき我が子よ。実は後期から、私が学園長を兼ねることとなった」

「えぇ――――――っ!?い、今までの学園長は!?」

「更迭に決まっているだろう?ジョゼフィーナと反逆者アルトに好き勝手させていた前学園長だ。教育者としてふさわしいとは思えない」

確かにそうよね……毎日行われていたジョゼフィーナの儀式を、学園長 が知らないわけはない。


「そして教師たちの大半も入れ換えた」

それでずいぶんと風通しもよくなったのね。


「でも、どうしてわざわざお父さまが……?」

一門の貴族でもよかったはず。もしかして高位貴族や元王女のジョゼフィーナに文句を言わせないため……?


「こうして我が子の様子を気軽に見に来られるからさ!」

本気なのか、ジョークなのかどちらかよく分からないけど……。


「過保護すぎますわ。ティルダさまに相談した方がいいでしょうか」

困ったときは、ティルダさまと言うのが、最近の公爵家のテンプレである。


「ははははは、姉さんに怒られてしまうなぁ」

へらへらと笑いつつも、少し困ったように目尻を下げるので、やはりお父さまったら……お姉さんに弱いと言うか、何と言うか。そんなところも、娘としては微笑ましいのだけど。


そんな穏やかな空気が流れる中、それを許容できないのは……やはりジョゼフィーナだろう。


「アールさまあぁぁっ!わたくしの……わたくしのアー……っ、ぎゃふっ」

お父さまに向かって来ようとしたジョゼフィーナの首の後ろに、ティエンが颯爽と回り込み、素早く手刀が落とされた。


「馴れ馴れしく公爵さまの名を呼ぶな!」

何だかティエンの声がやけに勇ましかった気がするのだが。


「気にしたら負けですわ」

それはどういう意味だろうか、ジェシカ。


「……どういうこと……?」

「グレンさまは、どうかそのままのグレンさまでいてくださいませね」

メロウの言葉に、私も全面賛成である。

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