第17話 公爵の微笑み


突然のお父さまの登場に、貴族夫人は開いた口が塞がらないようだ。


「やれやれ……とても残念だよ。君の実家や嫁ぎ先とのやり取りも、考えねばならないね」

「な……あ……っ」

そりゃぁそうだ。公爵家から匙を投げられれば、国中の貴族から白い目で見られる。だからこそみな、ホワイトベル公爵家には何も言えない。だがそれ以上の歴史と血筋を踏襲してきたナイトレイ公爵家は……それ以上だ。


「お……お願いします……!待って……アールさま……!私は……私の方が、あんな平民出のドブネズミよりも……!」

「君が何だと言うんだい?平民出のドブネズミねぇ……君が何と言おうと、ミシェルは私のかわいい我が子だよ」

本当にお父さまは、私のことをかわいがってくださる。ティルダさまを見ていれば、お父さまもティルダさまも、とても愛情深い姉弟なのだとよく分かる。むしろお父さまは……ティルダさまと言う素敵なお姉さまの下で育ったから……私もまた、お父さまの中にティルダさまの気概や優しさを覚えて、安心するのだ。


「それと……君に私の名を呼ばれる筋合いはない」

「ひ……っ」

しかしそんな中でも、お父さまはナイトレイ公爵の顔を時折覗かせる。口元は相変わらず弧を描いているのに、目は笑っていない。


「君が平民のドブネズミになるのを楽しみにしているよ」

あの……しかもお父さま、それは彼女の嫁ぎ先や実家を潰すと言う意味では……?もしくは彼女を除籍させて当主を代替わりしろと迫ると言うこと。国から貴族が2つも途絶えれば、それは大事となる。それを避けるためにも、貴族たちはナイトレイ公爵の怒りを買った彼女を切り捨てる方向に動く……お父さまはそれすらも、予期していそうだ。


「彼女を丁重にお送りしろ」

お父さまが命じれば、公爵家の騎士たちが乗り込んでくる。

そして自らの行く末の絶望を目に映して震える彼女を部屋から……邸からつれだして行く。


「済まないね、ミシェル。彼女のことは信頼していたのだけど」

女の嫉妬、羨望……それは、男性にはなかなか理解しがたいものなのかもしれない。誰もがみんな、兄さんのお母さまのように立派な志を保ち続けられるわけではないのだから。


「次の家庭教師を手配するにしても、ミシェルの心が心配だ。ティルダ姉さんに頼むとしても、今でさえマナー教育を担っているからね」

ティルダさまにまで、負担はかけられないわ。ティルダさまだって侯爵夫人としての仕事を抱えている。


「それなら、アール。俺から是非勧めたい人材がいるけど。彼ならミシェルも傷付くことはなく、生き生きと勉強ができるだろう」

彼……?男性ってこと……?


「ほう……?お前が人材紹介だなんて珍しいね。それは誰だい?」

「それは……」

ルークが告げた名前には、私も驚いた。


「けれど、公爵家のお仕事や、その教育もあるのでは……?」

いくら優秀と言っても、私と同じように養子に入ったばかりである。


「……そうだね。でも……愛娘の平穏には代えがたい」

お父さまがにこりと笑う。その目はとても暖かい色を帯びていた。


そうして、お父さまがスケジュールを調整してくれて、私は家庭教師……と言うか、勉強を見てもらえるひとができたのだ。


「じゃぁ、次はこのページに行こうか」

「はい、兄さん」

ルークが推薦してくれたのは、兄さんだったのだ。まるで、前世で勉強を見てくれたお兄さんのように、懐かしい。そして、兄さんも勉強を教えるのが上手くて、私のことを何よりも考えてくれる。そして勉強の間、兄妹で一緒に過ごせることが何よりも嬉しいのだ。

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