第14話 騎士の誓いを


――――ナイトレイ公爵家の書斎には、ナイトレイ公爵、わたしとルーク、兄とグレンが集まっている。


「そう言うことだ。私はミシェルとアンリを養子に迎えたい」


「任務に必要なことでしたら。でも妹は……」

いや、待って。この兄は……任務のためなら養子になるの!?ホワイトベル公爵家に密偵として潜り込んでいたとは言え……公爵の養子よ!?


「任務ではなく、私の個人的な要望だ」

「……は?」

兄がナイトレイ公爵を見る視線が……!据わっているのだけど……!?


「ミシェル・アンバーへの異常なまでの仕打ち、それは王女ジョゼフィーナの嗜虐も、ホワイトベル公爵令息アイザックの凶行も……もとはと言えばその全てはホワイトベル公爵家に繋がるのではないかな?」

ナイトレイ公爵は明言はしない。しかし……つまりはコーデリアに繋がるのではと言うことだろう。


「だとすれば、その異様なほどのホワイトベル公爵家からの敵意より身を守る術として、我が家ほどうってつけのものはない。それに私は未だ子がいなくてね。君のような優秀な嫡男が欲しいと思っていた」

はははと笑うナイトレイ公爵。いや……確かに貴族なのだから、優秀な嫡男に恵まれるに越したことはないのでしょうが。


「そうなれば……アンバー男爵家は……」

「なくなりはしない。必要な時が来るまで、君の手の中に収められる」

「……」

兄は少し考え込むようにその手を見つめる。


「ミシェルは……どうだ」

兄が私を見つめる。


「ええと……」

確かにルークが言うように、私がナイトレイ公爵家の養女となれば、ルークが私の騎士たる何よりもの理由になるわね。

――――でも、たったそれだけのために……?


「私は……ナイトレイ公爵さまの養女となることで、何ができるでしょうか」


「うん……?そうだね。私はかわいい娘ができて毎日幸せになれるよ」

そんなほわわんとした理由でいいのだろうか。


「大丈夫だよ、お嬢。ティルダさまはお嬢のために、変わらず貴族令嬢教育を受け持ってくれる。何かあればティルダさまに言うといい。このどこまでもへらへらした上司も一瞬で大人しくさせる」

「え゛……っ!?」

ちらりとグレンを見れば……そっと目をそらした。つまりはそうなの!?

ナイトレイ公爵さまはへらへらと笑うだけだけれど。


「あの……私も、拾っていただいた恩はしっかりお返しします。それで、よければ……っ」

「恩……恩かぁ……そうだね。君がその昼寝騎士のリードを掴んでくれているだけで、充分な恩返しになる」

そ……それはどういう……?確かにルークは、目を放すとのらりくらりとどこかへ行ってしまいそうだが……。


「では……決定と言うことで……!」

私たち兄妹は、ナイトレイ公爵の養子になることに決定してしまった。


「それから……学園はそろそろ夏休みだろう?存分にうちで寛いでくれ」

確かにそろそろ夏休みだけど……本当に、良かったのかしら。

その夜は、グレンも公爵邸に泊まることになった。そして兄さんもナイトレイ公爵……いや、お父さまと呼んでと言われたのよね……。お父さまに案内された部屋に舌打ちしつつも、療養のために身体を休めることとなった。


そして私も、令嬢用の部屋をもらってしまったのだけど……広すぎて、寝られる予感がまるでしない。

気晴らしに邸内を歩いていれば、ルークと出くわした。


「夜更かしは肌に悪いぞ」

「少しくらいはいいのよ、寝られない時はね」

気晴らしをするのも大切だ。


「……寝られないのか……少しこっちに来るか?」

ルークが案内してくれたのは、公爵邸のバルコニーである。


「どうぞ座って」

「えぇ。ありがとう」

ルークに促され、チェアーに腰掛ける。


「あの……ルーク」

「うん……?」

どこからかマグカップを持ってきて、ホットミルクを入れてくれるルークの手付きは……どうしてかしらね。昔眠れない時にお兄ちゃんがやってくれた時みたいだわ。

シナモンを入れてくれるところまで……どうしてか地球での記憶と重なって、妙な安心感を覚えてしまう。


「……ありがとう、ルーク」

シナモン入りのホットミルクを口にしながら、ふと漏れ出た言葉。


「……うん?」


「あなたに、何度も救われたから」

「それが騎士ってもんだろ?」

口調はまるで騎士らしくないのに、あなたは確かに騎士よね。

何だか嬉しくなってしまう。


「ルークは……ずっと私の騎士でいるつもり?」

「手放すつもりもない」


「……ひょっとして私、執着深い騎士を選んでしまったのかしら」

チェアーの脇のテーブルに、マグカップをコトンと置けば、ルークがおもむろに私の前に跪く。

そして昼間のように、私の手を取った。


「あなたが選んだ騎士は、生涯に渡り、どんな脅威からもあなたを守る剣となろう」

それ……騎士の誓いの言葉……?


「安心されよ。何があっても私があなたを守ろう。だから、外に出ることを恐れることはない。いつでも私があなたの側にいる」

ルーク……?今の言葉って……いやいや、偶然よね……?


しかし、ルークの声が、再び誓いの言葉を紡ぎ続ける。

「私があなたの騎士であり、剣となる」

まるで……眠たげな昼寝騎士の称号に似合わない、まっすぐな瞳。だけど私は知ってるのよ。ずっとずっと昔から、あなたがその瞳を私に向けてくれることを。

だから……私もあなたと一緒に生きたいと思った。

もう決して出会えないと思ったその手が、騎士として、剣として、私を守ってくれるのなら。

――――もう二度と、死のうとなんてしない。私はあなたと生きていく。


「許します」

それは私がミシェル自身に向けた懺悔だったのかもしれない。

だがそれすらもまるごと包み込むように、ルークは口元に優しい笑みを浮かべる。


「我が姫君に忠誠を」

ルークの唇が、私の指先に触れる。柔らかい、しかしどこまでも優しい、誓いの口付けが捧げられた。


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